彼は初め彼女には全く興味がなかった。
自分とは違う人種なんだと決めつけていた。
しかし、あの日の後輩の相談事が彼を少々動かせた。
「なぁ、樋口って彼氏いるのか?」
勇人が何気なく口にした言葉はその周辺にいたクラスメイト達を呆気に取らせた。
「なんだよ!勇人知らねーのか!?」
級友の一人が驚愕の形相で聞いてくるので勇人は少々たじろき気味に言う。
「な、なにを」
他の級友が勇人の肩を掴む。
「一ヶ月くらい前、うちのガッコの剣道部部長が樋口の彼氏にコテンパンにやられたのを!」
「あぁ!?そんな傷害事件知らねぇーぞ?!」
「バッカ、剣道の決闘でだよ。」
「決闘??」
級友達の話によると
樋口をどうしても諦められなかったうちの高校の剣道部部長はわざわざ相手の高校まで乗り込んで決闘を申し込み返り討ちにあったとのこと。
「へぇ〜全っぜん知らんかった。」
感心している勇人をみて級友達は呆れる。
「オマエってほんと周りに興味ないよな。」
そう言われても反論出来ないくらい勇人は噂話に疎かった。
「俺、樋口と同中だから彼氏の方も知ってるぜ?」
「なにぃー!!教えろ!!」
「深崎籐矢って奴で樋口とは幼馴染らしい。中学の時深崎が会長やって樋口が副会長だったんだ。」
「ほぉー。中学の時から公認だったのか?」
「まぁ、そうだな。入り込む余地無し!って感じだった。」
いつの間にか会話から弾き出された勇人は会話の中心人物樋口綾に目をやった。
綾は女子達と楽しそうにおしゃべりしている。
違和感を感じた。
彼女は今まであんな風に笑っていただろうか?
(彼氏がいて幸せだからかな?)
無難な答えで納得して視線を元に戻す。
(樋口、彼氏いるんだなぁ)
勇人の胸を焦燥感に似た何かが掠めていった。
勇人はその日の部活で何をしたか全く憶えていない。
(彼氏がいるってことはやることやってる・・・のか?樋口は・・・)
悶々とそんなことを考えていたら突き指をしてしまった。
(何やってんだ、俺。)
帰宅途中にある公園のベンチに座って突き指した指を眺める。
突き指したなんて恥ずかしくて言えなかったので手当てをしていない指はジンジンしている。
辺りは暗くなり街灯がともり始めている。
人の気配がした。
二人。
「あ、大変!資料忘れて来てしまいました、取ってきます」
「綾!!鞄預かっておこうか?」
「はい、お願いします。」
そう言って一人は来た道を引き返していった。
紛れもなく、樋口綾だった。
勇人は取り残された一人を呆然と見つめる。
その人物は勇人の座るベンチに歩み寄って来た。
「座っていいかな?」
そう問われて勇人は短く、ああ、と答え顔を逸らした。
(コイツが深崎か?樋口の彼氏・・・)
勇人の心拍数は上昇していた。
そして、何かが切れる音がした。
勇人はスクッと立ち上がり隣に座っている人物を見下ろす。
「おまえが深崎籐矢、か?」
いきなり頭の上から言われその人物、深崎籐矢は勇人を見上げくすっと笑い
「初対面で"おまえ"呼ばわりか。失礼じゃないか?」
そう言った。
その笑みから余裕みたいなものを感じ取ってしまった勇人は頭に血が昇り自分でも理解できない行動に出た。
勇人は余裕の笑みを浮かべる籐矢の唇に自分のそれを押し付けた。
ヌル。
「!!?なにしやがる!!!!!」
勇人は飛び退いた。
「それはこっちのセリフだろ。」
我に返ったらしい勇人を何事もなかったかのような表情で見返す籐矢。
「舌入れてくんなよ!気色悪ぃ!!」
「"気色悪ぃ"ね、そっくりそのままお返しするよ。」
「おまえ、その気があるのか!!?」
「ないよ。」
「じゃあなんで舌いれてくるんだよっ」
「気持ちには応えなきゃ、と思って。」
勇人は二の句がつげない。
兎に角こんな変な男と綾を別れさせねばなるまいと綾の鞄を引っ手繰って走り出した。
そんな勇人の後姿を必死に笑いを噛み殺しながら見送っていると
「あれ、ファーストキスだったんじゃないの?」
そう言いながらこの公園で綾と籐矢が待ち合わせしていた人物、橋本夏美が現れた。
「みたいだね。初めての時のキミの反応とそっくり同じだったし」
夏美は自分の鞄をベンチの上にボスッと落とし籐矢の左頬をつねる。
「くだらない事憶えてないでよ。」
引き攣った笑みを浮かべ真っ赤になりながら今度は籐矢の右頬もつねる。
籐矢は自分の頬をつねっている夏美の両手を握る。
「痛いよ、夏美。」
夏美はつねるのを止め籐矢の頬を両手で包む。
ゆっくりと屈んで触れるだけのキス。
お互いの鼻がぶつからない程度に顔を離し眉間に皺をよせながら夏美は籐矢に問いかけた。
「勇人とあたしどっちが好き?」
「夏美。」
籐矢は即答し夏美の体を自分に引き寄せ右膝に座らせる。
「綾とあたしどっちが好き??」
「―、夏美。」
「なに?その一瞬の間は!?」
夏美は振り向き籐矢を睨む。
「ずるいなぁ、とおもって。」
「なにが?」
籐矢は夏美の両膝を左手で引き寄せ姫抱っこの体制にし
「僕と綾どっちが好き?」
夏美の顔を覗き込む。
「綾。」
悪びれもなく言い放つ夏美。
「ほら。キミの一番は僕じゃないのに僕の一番はキミじゃないと納得しないんだから。」
籐矢はゴツっと夏美のおでこに自分のおでこをぶつける。
「イタイ!!図星でイタイし、おでこも痛いよ。」
籐矢はクスっと笑ってから夏美に深く口付けする。
お互いの体温を確かめ合うかのように抱擁を交わす。
夏美は籐矢の肩に埋めた顔を起こし艶っぽい瞳で彼の双眸を見つめながら
「さっきの勇人の攻撃避ける気なら避けられたのになんで甘んじて受けたの?」
そう言ってから先程勇人が籐矢にしたように彼の唇を奪い数ミリの距離を取る。
「キスしてもしなくても僕にキスしようとした事実は変わらないのだから我に返った時あいつは後悔する。でも僕からも攻撃しておけば共犯者になるだろ?俺も悪いがあいつも悪いってね。」
にっこりと答える籐矢のセリフを夏美は理解できないといった複雑な表情で見つめそして自分の思っている事を口にする。
「・・・良く分からないのだけれど、一つ気付いたことがあるの。」
「ん?」
「あたし勇人と間接キスしちゃった事になるのよね。」
「・・・そうだね。」勇人は資料を手にした綾と校門の近くで鉢合わせた。
「樋口!!」
「―新堂君。部活お疲れ様でした」
勇人は綾の両肩を掴む。
「樋口!悪い事は言わない。あの男とは別れろ!」
綾には勇人の言っている事が理解出来ない。
目を丸くして勇人を見つめる。
「"あの男"とは一体何処の」
綾のセリフを聞かずに勇人は叫ぶ。
「あんな奴と別れて俺と付き合ってくれ!!」
そう叫んで勇人は我に返った。
(俺は一体何を口走ってんだ?)
「え、と。何処にお付き合いすればいいのでしょうか?」
天然な綾の返答で更に白くなった頭の中を勇人は必死に整理して
「とりあえず、今日一緒に帰ってくれるか?」
そう言いながら先程籐矢から引っ手繰った綾の鞄を彼女に差し出す。
綾は一瞬驚いたようだが
「はい!お安い御用ですよ」
にっこりと答えて鞄を受け取った。「それにしても遅いな。」
「寒い?」
冬の北風が容赦なく二人を襲う。
「否。夏美が風除けになっているから平気。」
夏美は籐矢の両腕を振り払って彼の隣に座りなおす。
「!!つめたーい。」
勿論ベンチは冷えきっている。
「無理しないでおいでよ。」
そう言いながら再び夏美を自分の膝に座らせる。
「う〜なんか籐矢だけ温まっているのは釈然としないんですけど」
と、言いながらも寒さの為籐矢に擦り寄る。
「じゃあ、もう帰ろうか」
「え?綾は!?」
夏美は姿勢を正し籐矢を睨む。
「僕たちの事なんか忘れて彼に送って貰っているんじゃないかな、と」
「そんなわけないじゃんっ」
「きっと告白されて舞い上がってそのまま」
「そんなわけ―あるかも。」
怒りの形相から一変不安な表情で携帯を取り出し電話をかけてみる。
籐矢の予想は的中していた。
夏美は通話の終わった携帯をワナワナと握り締める。
「勇人の奴・・・なんて手の早い。」
「いくらなんでもまだ手なんか出してないんじゃないか?」
籐矢の楽観的な発言に力いっぱい反論する。
「綾と二人っきりになって手ぇ出さないのはあんたくらいだよ!!」
「どうも。」
「褒めてないよ!!」
「よしよし。僕が朝まで慰めてあげるから。」
今にも泣き出しそうな夏美の頭を撫でる籐矢。
夏美が落ち着くのを暫らく待ってから置いてけぼりをくらった二人は公園を後にした。
設定説明
この話では勇人は籐矢と面識がないことになっております。
その他は
綾と夏美は従姉か何か。(曖昧だなぁ。)
綾と籐矢は幼馴染。
勇人と夏美は幼馴染。
籐矢と夏美のみ○○の記憶があったりなかったり(いえ、あります。)。あとがき。
キレると何をやらかすか予想のできない勇人君を書きたくておこしてみました。
終わってみれば籐夏いちゃつき過ぎ☆
表現下手で同じ様な単語いっぱいで申し訳ありません・・・
話的には消化不良ですね。
このときの段階では勇人と綾は夏美がおもっているようなことは一切無くなんともなっていません。
勇人はこの日を境にガンガン綾に惹かれていくことでしょう。
綾は無意識のうちに多少なりとも勇人に好意をよせていたのだとおもいます。
じゃなきゃ親友2人を公園に置いて忘れて行ってしまうことなんてないでしょう。
気が向いたらその後の話書くかもしれません。