その日は珍しく中学時代からの友人勇人が勉強しに図書館に行こうとの誘いがあった。
なんでも中間試験の成績が芳しくなく期末で挽回したいらしい。
一人だとサボってしまうから図書館でとの事。
籐矢はわざわざ図書館まで行かずとも自分が勇人の家に行ってもいいし
なんなら自分の家に来て貰っても構わないと申し出たが
たまには気分を変えて外で勉強したいとか。
倦怠期のカップルじゃあるまいしなんだその理由はと不信におもったが大人しく勇人に従った。「おい。何をソワソワしてるんだ?勇人。何しに来たとおもってる。」
参考書やノートを開いたとおもったら勇人は勉強を始めるでもなく辺りを見回している感じだった。
勇人はバツが悪そうな顔をしてから何も答えずに勉強を始める。
図書館独特の本の匂いに包まれながら勇人と籐矢は勉強に勤しむ。外はいつしか雨が降り出していた。
閉館時間になり勉強道具を片付け外に出ると雨はまだ降り続け止みそうに無い。
「勇人が珍しく勉強しようとか言うから雨が降ったんだなぁ」
「んな訳ねぇだろ!?大体いま梅雨なんだから雨ぐらい何もせんでも降るっつーの!」
「そうかぁ??」
籐矢が勇人をからかっていると
「あら?こんにちは」
後ろからそう話しかけられた。
何気なく振り向く籐矢に対して勇人は凄い勢いで声の方へ振り向いた。
「よ、う。樋口」
勇人はやっとの事でそれだけ口を吐いたという感じだ。
「お二人がお知り合いだったなんて世間て狭いですね。」
「ああ、勇人と綾は同じ高校か」
「そうですよ。クラスメイトでもあります。」
一人状況の飲み込めない勇人は言葉を失っている。
「傘、ないのですか?」
「そうなんだ。濡れて帰るにはちょっと降り過ぎだし」
籐矢は空から降ってくる雨を見上げる。
綾は少し考えてから
「お貸ししましょうか?」
そう言った。
「自分はどうするんだよ。」
「お友達と相傘で帰ります。私の傘は赤ですしデザインもみるからに女性物なのでこっちのお友達の傘、お貸しします。」
傘立てから灰色より少し暗い色の傘を取り出し籐矢に差し出す。
「そんな事綾が勝手に決めていいのか?」
「こんな事で怒ったりする女性じゃないので平気です。」
強引に籐矢に傘を押し付け
「では、新堂君明日学校で。」
にっこりと勇人に笑いかける。
いきなり自分に振られて我に返り
「お、おう!明日な!!」
またもやっとのことでそれだけ言うと勇人は雨の中を早足で歩き出す。
「ちょ、待てよ!勇人―、綾、お友達に宜しく伝えといてくれ」
「はい。わかりました。お気を付けて」
にこやかに二人を見送る。
「この傘―籐矢色だ。」
図書館を出てから約三十分。
珍しく沈黙を通していた勇人がポツリと言った。
「・・・言っている意味が理解らない」
「黒に成れない灰色」
一度区切って籐矢を見据えながら
「お前そのものだな」
そう言ってにっこり笑った。
疑問が更に増した籐矢は理解する事の出来ない自分に苛立ち
「疲れたから勇人持ってくれ」
そう言いながら傘の柄を勇人に押し付け八つ当たりした。
「俺が持ったのとお前が持ったのじゃ断然俺のが疲れるんだぞ!?愛が無ぇなぁ」
「どっちが。大体な勇人に一日付き合ってやったのは僕なんだぞ?傘くらい持ってくれたって罰は当たらないだろ。」
籐矢は空いた両手で腕を組みいかにも偉そうに言い
「それに―"お目当て"にも遇えただろ?いい事があった時はいい事しとけ」
訳知り顔で続けた。
「っ!!お前に傘差してやんのが『いい事』な訳ねぇーだろ!!?」
男二人の相傘という奇妙な光景は雨の中騒がしく消えていった。