放課後の清掃を終え部活に向かおうとしている籐矢を夏美は呼び止めた。
「深崎くん、ちょっといい?」
籐矢は肩にかけた鞄を机の上に置き、夏美に怪訝な顔を向ける。
「"くん"?気持ち悪いよ、橋本。」
昔と少しも変わらない調子で話しかけてくる籐矢に気を使って呼んだ自分が馬鹿らしく思え夏美も遠慮しないことにした。
「あのさ、深崎は新堂とまだ連絡取ったりしてるの?」
「中学卒業以来途絶えてるけど」
そっかぁ〜、と言い何かを考えている様子の夏美。
「勇人に連絡とりたいの?」
「え?ん〜最近どうしてるのかぁ?って」
「別に引越ししてないから昔の名簿の自宅に電話して自分で聞いたら?」
籐矢は鞄を背負い直して教室を出て行こうとする。
「あ、ちょっと待ってよ」
「それとも携帯の番号とメルアド教えようか?」
鞄から携帯を取り出そうとする籐矢。
なんだか不機嫌になった籐矢に恐る恐るお願いする。
「深崎が聞いてくれない?」
「なんで僕が?」
「だって、あたしはもう四年以上話もしてないけど深崎は一年ちょいでしょ?」
籐矢は不機嫌そうに近場の机にドカっと腰を下ろし取り出した携帯を握り締めている。
そして思い立ったように顔を上げ
「橋本が僕と付き合ってくれたら連絡取ってあげるよ。」
そう言って夏美の反応を待ったが彼女は微動だにない。
籐矢は夏美に歩み寄る。
夏美は歩み寄ってくる籐矢の顔を見上げる。
「橋本が僕の彼女になるのなら勇人に連絡取るよ。」
「本気で言ってんの?」
夏美は籐矢を睨む。
「勿論本気だよ。」
籐矢も笑みを浮かべながら夏美を睨む。
「本気であたしを彼女にしたいの?」
「本気で彼女にしたい。」
夏美は籐矢から顔を逸らして椅子に座る。
籐矢は夏美が座った椅子と机の端に手を置き上から威圧しながら言う。
「で?僕と付き合ってくれるのかな?」
夏美は籐矢の威圧を少しも感じないといった様子で上目使いで籐矢を見上げ
「いいよ。」
軽くそう言った。
予想外の返事に言葉を失う籐矢を余所に夏美は矢継ぎ早に言う。
「早く、新堂に彼女いるか聞いてよ。」
夏美は籐矢を睨み籐矢は夏美を見つめる。
「僕、もう部活に行かなきゃだから部活が終わった後ね。」
「あっ!あたしも早く行かなきゃだ!!じゃあ、帰り一緒に帰ろうね、深崎!!」
夏美は自分だけ言いたい事を言って教室を飛び出していった。
対して籐矢は呆然と彼女が開け放していった扉をしばらく眺めていた。
籐矢と夏美は小学校が一緒だった。
同じクラスになった事はなかったが委員会が一緒だったので多少気が知れている。
夏美が気にしている「新堂」も同じ委員会仲間だった。
部活終了後、夏美は武道館に向かった。
柔道部も剣道部も練習は終了したらしく帰る生徒達数名とすれ違った。
剣道部の使用している側に行き下窓から中を覗き籐矢を探す。
籐矢は窓の戸締りをしていた。
そして夏美が覗いている窓にやって来た。
「お疲れっ!深崎!!」
「おわっ、びっくりした。橋本?」
「まだ終わらないの?」
「あと職員室に鍵返しにいくだけだよ。」
「そ。早くね!!」
「・・・了解。」
ピシッっと窓を閉めてまだ中に残っている部員達に鍵を閉めるから早く出るように言い電気を消して武道館の戸締りを完了させた。
すると夏美がパタパタと寄ってきた。
「早くねv」
「わかってるよ」
執拗な夏美に多少冷たく言い放ち籐矢は鍵を返しに職員室に向かった。
玄関で待っていた夏美は籐矢の姿を確認すると満面の笑顔で迎えた。
「帰ろっか、深崎。」
「―うん。」
夏美は教室でもいつも笑顔を絶やさない人なので彼女の笑顔は見慣れたものだとおもっていたがやはり自分に対して向けられる笑顔は特別可愛く見えた。
肩を並べて歩く。
夏美はとても機嫌がいいらしい。
歩き方からしてご機嫌なのが伝わってくる。
「橋本。」
「ん?」
「随分ご機嫌だね」
冷ややかに指摘されて夏美は我に返った。
「はぁ。自分の事しか頭になかったよ・・・反省。」
溜息を吐きながらそう呟き今度はお通夜並みに重苦しい空気をかもし出しはじめた。
それはそれで鬱陶しいので籐矢は夏美の機嫌を取ろうと
「で?勇人になんて連絡すればいいのかな?」
わざと明るく切り出した。
「新堂。」
「そう。勇人の近況知りたいんだろ?」
「深崎!!あれ、新堂じゃない!?」
籐矢の制服の肘の部分を引っ張り公園の中を指差す夏美。
夏美の指差す方向になるほど勇人がいた。
「ほら!!丁度いいじゃんっ早く話しかけてよっ深崎!!」
「え?でも、あれ僕の知ってる勇人じゃ、ない気が・・・」
勇人はベンチに座って何か真剣に考えている様子だった。
「何いってんの?あれが新堂以外のなんだってーの」
夏美は煮え切らない籐矢を置いて勇人に歩み寄る。
「新堂!!」
バシっと勇人の肩を叩く。
勇人は驚いて顔を上げ夏美を確認する。
「・・・橋本?」
「久し振り♪」
昔と変わらない笑顔。
思わず勇人は立ち上がる。
「マジで久し振りだな、おい!!」
向かい合って立つと勇人と夏美の視線はかち合わない。
「橋本、縮んだーー!!」
小学生の頃は同じ様な身長だったので勇人は夏美を指差して大笑いした。
「んな訳あるかい!?あんたがでかくなったの!!」
「そっかぁ?樋口とはあんま差が変わってない気がしてたからな、自分が成長したのわかんなかったは」
まだ笑いの収まらない勇人を夏美は一人冷静に見つめる。
夏美の来た方向から学生服姿の見覚えのある人間がこちらに向かってくるので勇人は何者か確認する。
「籐矢?」
「久し振りだな、勇人。」
完璧な作り笑顔を勇人に向けた籐矢も合流した。
「お、俺もう帰んなきゃだ。また、今度な!!」
そう言い残して勇人は走って公園を出て行った。
あまりに素早い行動で呆気に取られていた二人だが夏美が先に我に返った。
「あ!!肝心な事聞けなかった!!」
「橋本、随分楽しそうに勇人と話してたじゃないか。僕に頼んだ意味あったのか?」
腕組をしながら視線だけ夏美に落とし言い放つ。
籐矢の冷たい物言いに少々ムッとして答える。
「話くらいは出来るよ、ただ、プライベートな事って聞きづらいじゃん。」
「そんなの僕だって同じだよ。」
「深崎は同性でしょ!!あたしが聞いたらあたしが新堂に気があるみたいじゃん。」
夏美は先程勇人が座っていたベンチに腰を下ろし溜息を一つ。
「違うの?」
「え、なに?」
籐矢の言わんとしていることが分からず彼を見上げる。
籐矢は意を決して真っ直ぐ夏美を見つめ質問する。
「橋本って勇人のこと好きなんじゃないの?」
「あたしが新堂のこと好きならなんであんたの彼女になるの承知すんのよ!?」
眉間に皺を寄せ叫ぶように答える。
「そこまでしてでも勇人のこと知りたいから、だろ?」
「勝手に変な解釈しないでよ!!あたしは好きでもない人の彼女になろうなんておもわないよ!」
夏美は立ち上がり籐矢に詰め寄りながら啖呵をきる。
「橋本、僕のこと好きなんだ。」
「悪い!?ぶっちゃけ小六の時から好きだったよ!!」
と、言ってから自分が何を口走ったか自覚し顔を真っ赤に染めて硬直した。
籐矢も釣られて赤くなる。
「ありがとう。こんなことなら卒業式の時当たって砕けとけば良かったな。」
「―砕けないって。」
「そうだね。」つづく・・・