いつもの朝。
登校して来た籐矢は教室に入り夏美を目で探す。
夏美は籐矢が来るのを待っていたかのように既に彼に視線を送っている。
二人の視線が交わった瞬間、夏美はプイっとそっぽを向く。このやりとりが既に一ヶ月近く続いている。
原因は夏美が何故勇人の交際関係を知りたがっているか、籐矢がいくら問い詰めても彼女は口を割らない。
なら自分は勇人の交際関係を聞き出す事に協力しないと突っぱねた。
夏美はそれじゃ約束が違うと猛反発。
お互い一歩も譲らず今に至る。
だが折角付き合うことになったにも拘らずいつまでもケンカ状態が続くのも辛くなってきたので籐矢は夏美には内緒で勇人に探りを入れることにしたのだった。
この間偶然勇人と鉢合わせた公園で彼を待つ。
約束の時間から十分経ち二十分経ち一時間経った所で勇人の携帯に連絡した。
「籐矢!!悪ィ!!約束すっかり忘れてたっ」
通話になるなり謝られても怒りは収まらず
「ざけんな」
と、発声したのだか勇人の耳には入っていかなかったらしく
「今、行くからな!ちょっと待っててくれ!!」
そう言うだけ言って切られた。
籐矢が脱力していると公園の奥から自分を呼ぶ声がした。
振り向くと勇人が走ってこちらに向かって来ているではないか。
「勇人!?この公園にいたのか?」
勇人は息を切らして
「うん、奥の見晴らし台のほうに」
そう言い、暫らく呼吸を整える。
「なんだよ、彼女とデートでもしていたのか?」
さり気なく本題を聞き出そうと質問する。
「だったらよかったんだけどな、生憎彼女なんかいねーよ」
よし、これで夏美と仲直りできる!!もうコイツに用はないぜっ
と心の中で呟き体よく別れようと考える。と、
「そういや、籐矢って一人暮らししてんだよな?」
「あ、ああ。そうだけど」
籐矢の返事を聞くと勇人の顔が見る見る明るくなった。
「あのさっ今晩、否、明日からでいいから暫らく籐矢ん家に泊めてくんない!?」
合わせた両手を頭の上に掲げ籐矢に頼み込む勇人。
「あ゛ぁ?何言ってんだ、家出でもするつもりなのか?」
「否、俺じゃなくてさ、えとぉ、話せば長くなる事ながら・・・」
「長くなるなら聞かない」
そう言い捨てて立ち上がる籐矢に縋り付く勇人。
「待ってくれぇ!!後生だから頼む!!せめて話だけでも聞いてくれっ」
「・・・わかったから、抱きつくな。」
見晴らし台に場所を変える。
そこには先客が一人いた。
勇人はその人物に籐矢を紹介する。
「俺の幼馴染で深崎籐矢。」
「初めまして。」
そう言いながらその人物は立ち上がる。
籐矢よりも少し背の高い彼は少し違和感を覚えるが学生服らしき服装をしている。
「で、俺の親友でキール。」
勇人にそう紹介されて彼、キールは少し照れている感を籐矢は受けた。
「あれ。籐矢ん家電気ついてんじゃん」
勇人とキールから事情を聞き取り敢えず籐矢の家に行き今後の事を相談する事になり玄関に着くと明かりがついていた。
「そうだ、今日は約束の日だったんだ」
そう呟いて籐矢は呼び鈴を押す。
「女か?」
「・・・まあね。」
ヒュ〜と冷やかすように口笛を吹く勇人。
『はい。』
「ただいま。帰るの遅くなってごめん」
『いえ、今チェーン開けます。』
インターフォンが切れる音がし少しして中からチェーンが外されドアが開く。
「お帰りなさい、籐矢君。」
「ただいま、友達連れてきちゃったけど、あげていい?」
「あ、ではわたしが帰りましょうか?」
「いや、だってもう始めちゃってるんだろ?一人は君の知らない奴じゃないし、二人とも入れよ」
籐矢は勇人とキールを玄関に招き入れる。
玄関先には制服姿にエプロンを着けた少女が立っている。
少女―樋口綾と勇人を見比べて籐矢が言う。
「あれ、そういえば二人とも同じ高校じゃないか」
「クラスメイトだよ、な、樋口。」
「・・・はい。」
取り敢えず籐矢と綾の約束とやらが終わるまで勇人とキールは籐矢の部屋で時間を潰す事になった。
「ハヤトが人にあんな態度取るの初めてみたよ。」
「"あんな"ってどんなだよ」
心なしか不機嫌そうに返答する勇人にキールは益々違和感を覚えたが次の瞬間彼の思考は停止した。
「・・・ハヤト。何をやっているんだい??」
勇人は床に伏せてベッドの下を覗いている。
「エロ本とかないかな、とおもって」
「は?エロなんだって??」
バターンっと大きな音を立ててドアが開く。
「そんなものないよ、あってもそんな所には絶対隠さない。」
絶対零度の視線を勇人に浴びせて籐矢は茶器を持って部屋に入ってきた。
「まあ、な。折角一人で住んでんだから女に見られる危険を冒して自分の部屋に置かねぇ、か。」
勇人は起き上がりあぐらを掻いて座る。
「他の部屋にだってねぇよ。キールは緑茶初めてかな?」
籐矢は勇人に眼を付けて急須にお湯を入れながらキールにそう聞いた。
「否、ハヤトが好きでシオンさんに分けて貰ったのをよく一緒に飲んでたから。」
「そういや、シオンさん元気か?」
キールは勇人の質問に小さく溜息を吐いてから答えた。
「君と一緒に元いた世界に還っていったよ。」
勇人は自分が決断した事を思い出し
「そうか。」
と、小さく呟き納得した。
二人の会話が全く解らない籐矢だがここは何も聞かず退散する事にした。
「あんまり人の部屋家捜しするなよ、マナーだぞ。」
「はい。もうしません。」
籐矢は勇人によし、と言ってから部屋を後にした。
直後にまた勇人は床に伏せてベッドの下を探っている。
「ハヤト・・・キミって奴は」
キールは止めさせようと勇人に近づくが勇人は直ぐに起き上がった。
手に何か握っている。
「あ、れ?これハヤトが持ってたのと同じだね」
「・・・うん」つづく・・・