朝お弁当を作る時間が無かったのでパンでも買って食べようと考えて登校したがいざ昼休みになるとお昼ごはんを食べる気力もないほど眠かった。
机に伏せって寝るのも気が引けたので立ち入り禁止な屋上へ行くことにした。
勿論屋上への扉は鍵がかかり閉ざされているのだが扉の前の狭い踊り場は太陽に近い所為かとても暖かい。
籐矢は学ランが汚れることなどお構いなしに踊り場に寝転がる。
階段の下のほうからお昼休みを楽しそうに過ごす生徒達の声が小さく聞こえる。
携帯のアラームをセットして目を閉じる。
籐矢が眠りに落ちそうになった時直ぐ近くで声がした。
「夏美先輩、俺と付き合って下さい!!」
籐矢の眠気は一気に吹き飛んだ。
飛び起きて下の踊り場をそーっと覗き込む。
案の定愛の告白を受けていたのは橋本夏美だった。
夏美は驚いた様子で告白してきた男子生徒を見上げている。
「先輩って誰とも付き合ってないですよね?」
そう投げかけられて我に返った夏美だがシドロモドロに答えた。
「付き合って・・・ない、のかな?」
ハッキリしない返答だったがなんとなくのニュアンスを読み取って男子生徒はしょんぼりと止めを刺されるであろう質問を口にした。
「・・・好きな人はいるんですね?」
「うん。そうなんだよね。」
今度はきっぱりと答えた。
それを聞いて踏ん切りを付けたのか男子生徒はにこっと笑って
「折角の休み時間に呼び出してしまってすいません。ありがとうございました。」
そう言って丁寧に頭をさげた。
「お礼なんて言われる立場じゃないよ、あたし。」
「先輩も告白頑張って下さいよ!!」
「もう既に付き合っているんだけどね。」
上から落ちてきたセリフに驚き顔を上げる夏美と男子生徒。
「!?深崎っ」
「深崎先輩」
二人揃って赤い顔になって籐矢を見上げる。
「夏美、ケンカしてるからって僕の事彼氏から格下げしないでくれる?」
「盗み聞きなんて趣味悪いよ。」
「いえ、上まで確認しなかった俺が悪いっス。先輩たちの事知らずにすみませんでした!!」
彼は籐矢に一礼して階段を駆け下りて行った。
夏美が籐矢を睨む。
籐矢は夏美を手招きをし、その場に座り込んだのか姿が見えなくなった。
籐矢の顔色が悪いと感じていた夏美は階段を駆け上がる。
籐矢は壁に寄り掛かって目を閉じ頭を下げている。
「深崎!?―って何してんのよっ」
心配して籐矢の肩を揺すった夏美に籐矢は倒れ掛かり彼女の膝に頭を落ち着かせた。
「アラームセットしといたから起こして」
か細い声でそれだけ言って籐矢は眠りに落ちていった。
「・・・あたしまだお弁当食べてないんだけど」勇人は部活が終わると同時に急いで門を通り抜けようとした所誰かに腕を引っ張られた。
「新堂!!!」
「おう、橋本。どうした?」
「どうした?じゃない!!昨日徹夜したわりには元気そうじゃん」
夏美がなぜ自分が徹夜したことを知っているか疑問におもったがあまり気にせず話を進める。
「授業中寝たからな。」
夏美はそれを聞いて大きく溜息を吐き
「あんたはいいけど優等生な深崎はそんな事出来ないんだからねっ徹夜なんかさせないでよ!!」
そう勇人を怒鳴りつけた。
「ごめんなさい―って!なんで橋本に怒られなきゃなんないんだ?関係ないだろ」
夏美の剣幕に思わず謝ってしまった勇人だが夏美にそんな事注意される筋合いはないと反論した。
夏美は仁王立ちで腕を組み勇人を睨みつけ言う。
「関係ない、ねぇ。・・・あたしが深崎の彼女でも?」
勇人は夏美のセリフが一瞬飲み込めなかった。
「橋本・・・おまえ、籐矢と付き合ってんの?」
「そうだよっ」
「・・・おまえ、二股かけられてるぜ?」
「何言ってんの?」
勇人は夏美の両肩を両手で掴み揺らす。
「籐矢はなぁ!樋口と付き合ってんだよ!!」
夏美は何も言えずに真剣な表情の勇人の顔を眺める。
「ショックだろうが、現実を受け止めて別れろ。な?」
「バカ」
心底呆れたといった表情で夏美は一言言い放った。
「ば、バカとはなんだぁ!?お前の為に忠告してんだぞっ」
「バカだからバカって言ったまでよっこのばぁか!!」
「バカバカ言うなよ、お前のほうがバカなんだからよっ樋口に勝てると思ってんのか!?えぇ?」
場所もなにもお構いなしに大声を出している二人。
下校時間なので帰ろうとしている生徒達が皆遠巻きに二人の言い争いを見ている。
丁度帰ろうと校門に来た綾は言い争っている二人が顔見知りだったので慌てて仲裁に入った。
「二人ともこんな所で何言い争いしているの?皆見てますよっ」
綾の指摘に勇人と夏美は周りを見回す。
「兎に角場所変えましょう。」
綾に促されて学校を後にする三人。
勇人と夏美が前を歩き綾が後ろからついていった。
「なぜあんな所でケンカしていたの?二人の言い争い久し振りに聞いて懐かしかったけれど」
「聞いてよ、綾!!」
夏美は振り向き綾の隣に並ぶ。
「新堂って、本当に他人に興味がないんだよ」
「なんだよ、それっ」
勇人は顔だけ夏美に振り返ってそう言った。
「だってさ、深崎と綾が付き合ってるとか言うんだモン。」
綾はそれを聞いて寂しそうに微笑んだ。
「あの小学校出身で深崎と綾の関係知らないの新堂だけだよ、きっと。」
勇人は夏美の言っている事が全然見えてこない。
夏美は勇人の隣に並びなおして言う。
「綾の名誉の為に言うけど、深崎は綾の甥なの。三親等なの!」
「は?三頭身?」
夏美は勇人の腰の辺りを肩にかけているスポーツバッグで殴る。
「三親等だっ!!三親等は結婚出来ないんだよっ習ったじゃん」
勇人は必死に頭の中を整理する。
「深崎が小学校四年まで綾の家に住んでたのも知らないんでしょ。」
夏美は言い捨てて綾の手を取る。
「もう、行こう。こんなのほっといて」
早足で歩き出す夏美に引っ張られながら何か言いたそうな綾だが中々言葉が見つからない。
勇人は遠ざかる二人をただ眺めていた。
数百メートル離れた所で夏美と綾の言い争いと言うには穏やかな掛け合いがボソボソと聞こえたかと思うと綾が小走りで戻ってきた。
「あ、あの!新堂君。」
綾は勇人の目を必死に見つめながら話す。
「うん・・・」
こんな綾は初めてだったので勇人は面食らって一言口にするのがやっとだった。
「こんな時に、ですがっ」
一度目を伏せ再び勇人の目を見つめ言う。
「わたし新堂君の事が好きなんです。だから他の人に交際申し込まれてもOKなんてできません。」
暫らくの間何も言わず見つめ合っていた二人だが綾が沈黙を破った。
「―そういうことなので・・・え、と、夏美ちゃんが待っていますから行きます。さようなら。」
綾は軽く会釈して夏美に駆け寄って行った。
綾の言いたかった事が何か勇人には思いあたる節がある。
あれはリィンバウムに飛ばされた日。
綾の事が好きだと相談をしてきた後輩に告白してみれば以外にOKかも、と言ってしまったことがあった。
苦し紛れに言った事を綾に聞かれていたらしい。
勇人は大きく息を吐いて歩き出す。
つづく・・・