南スラムの崩れた城壁付近で少女は呼び止められた。
「クラレット〜〜!!」
クラレットが振り向くと丁度城壁の穴からハヤトがサイジェンとに入って来たところだった。
「・・・ハヤト。外に行っていたのですか?」
「みりゃわかるだろ。クラレット、プラーマのサモナイト石持ってる?」
ハヤトの行動をけげんに感じクラレットは探るような目線で彼を見た。
「持ってんのかよ、持ってないのかよ?」
返答のないクラレットに痺れを切らし少々キツイ物言いになる。
「持っていますよ。」
「じゃあ、パパッと召喚してくれ。」
「なぜ―、!?」
吐き出される筈の言葉はクラレットの中に戻っていき新たな言葉が紡ぎ出された。
「どどど、どうしたの!?」
ハヤトの左腕は真っ赤に染まっている。
「ぶっ叩かれた。」
ケロッと答えるハヤトだが出血量が軽症ではないことを物語っている。
「はやくジャケット脱いで!!」
「―クラレット。おまえの気持ちはうれしいが俺にその気は全くないぞ?それでもいいんなら抱いてやってもいいけどな。」
「何理由の解らないこと言ってるの!?速く腕見せて!!」
有無を言わせずジャケットを剥ぎ取り左腕の傷の具合を確認する。
「痛くありませんか?」
「いてーに決まってんだろ!!速くプラーマ喚んでくれ!」聖母プラーマの癒しがハヤトを包む。
「出血は止まったわね」
「ああ、サンキュ。貸して。も一回俺が喚ぶから」
サモナイト石を渡すよう右手を差し出す。
「ハヤトが召喚するよりわたしのほうが効果的です。」
再び聖母プラーマが現れる。
「おお、きれいに塞がった!」
「でもまだ痛み残っているでしょう?フラットに帰ったらアヤにオーロランジェ喚んでもらうといいわ。」
「ご配慮どーも。」
ジャケットを拾い右肩に引っ掛け歩き出す。
「ハヤト、フラットそっちじゃないわよ?何処行く気ですか?」
「この腕じゃ帰れないだろ?アルク川で洗い流してから帰る。」
傷は塞がっても流れ出た鮮血はハヤトの左腕に残っている。
「それも、そうね。」「ほい。」
「え?何??」
アルク川の水辺に着くとハヤトはクラレットに自分のジャケットを渡す。
「何じゃねーよ、袖洗ってくれるんだろ?その為に付いて来たんじゃないのか?」
クラレットはバツが悪そうにジャケットを受け取り左袖の部分を水に浸す。
「ぬぁ〜派手に破れちまったな。なんて言い訳したもんか」
凝固しかけている血に水をかけながらクラレットが洗うジャケットを見、悩むハヤト。
「アルク川の辺で休んでたらクラレットがいきなり背後から襲いかかってきて左腕から川に落ちて尖った石で切り裂いた。―ってのはどうだ?」
「なぜ、わたしがあなたを襲うのですか?」
呆れ気味に答える。
「あー。ナツミくらいにしか通じないか。」
一人納得して腕を洗うのに専念するハヤトを静かに横目で見つめる。
「そんな顔すんなよ。まだ平気だから安心しとけ」
「・・・なんのことです?」
「わかってるだろ。訊かなくても」
クラレットは息を呑んで黙った。「よし!落ちた落ちた。そっちはどうだ?」
「まあまあ、落ちました。」
水分を絞って皺を伸ばす。
「サンキューな。」
ジャケットを受け取り濡れたままだが羽織って破けた袖口を確認する。
「バックリいってんなぁ〜」「一体何処で何をしてきたのですか?」
クラレットはハヤトを見ずに川の水面に視線を漂わせている。
「鬼神の谷でレベル上げ。」
「一人で!?」
水面から視線をハヤトに転じ問い詰めるような口調で叫ぶ。
「ってーのは建て前、本当の理由は」
クラレットを嘲笑うかのような顔で見つめ返し言い放つ。「血がみたかった」
呆然と黙り込むクラレットを余所にハヤトはいつもの表情に戻る。
「っていっても、まさか自分の血をこんなに拝むとはおもっていなかったけどな。」
クラレットは無意識に後退さる。「さてと。帰ってアヤにオーロランジェ喚んでもらお」
ハヤトはクラレットに背を向け
「クラレット。もう時間の問題だ。俺には、どうにも出来ない。覚悟はしとけよ。」
そういい残してフラットに帰っていった。残されたクラレットはペタンとその場に座り込み陽が沈むまで緩やかな川の流れを眺めていた。