一体何ヶ月まともに眠っていないのだろう?
思えばリィンバウムに来てからは熟睡していない。
慣れない所で緊張して寝付けないのだろうと思っていたが
どうやら違う。
この世界の生活にも慣れた。
信頼出来る仲間。
量は少ないが美味い飯。
なによりこの世界に一緒に飛ばされ苦楽をともにした仲間。
そして
前々から焦がれていた女性。
彼女は同じ学校のクラスメイトで
入学式の時一目惚れした。
俺は誰とでも直ぐ話せる性質だが
どうも彼女とは話せずに一年半が過ぎた。
やっと話せたと思ったら幸か不幸か一緒にリィンバウムに飛ばされた。
俺の執拗なアプローチに嫌な顔しないで受け入れてくれた彼女。
今の生活に不満は無い。
なのに眠れない。なぜ?
俺は俺に問いかける。
何も知らない俺は俺に問いかける。
本当は―
解かっているが俺は解からない振りをする。
俺は
彼女の傍に居たいだけなんだよ。
「ハヤト?」
いつもの様に浅く夢の中を彷徨っていたら不意に呼ばれて目が醒めた。
辺りはまだ暗い。
声の方に目を遣ると幼馴染で一緒にリィンバウムに飛ばされた仲間の一人ナツミが俺の枕元に立っていた。「・・・これからトウヤとヤルのか?」
ベシっとナツミの手刀が俺の頭を襲い
「バカな事言ってないでちょっと付き合え!!」
飽く迄小声でそう言いながらリプレが作ってくれた俺のジャケットを投げつけてきた。
誘う相手が違うんでねぇの?
とおもいつつ俺はベットから起きだし隣のベットで眠るトウヤを起こさない様に静かに出ていったナツミの後に続いた。
何処に行くのかと思ったら屋根裏から屋根の上に出た。
真夜中の所為か星がいつもより輝いて見える。「綺麗だね。ね、憶えてる?小学生の時臨海学校で夜中部屋抜け出して屋上に上がって星見てたらそのまま眠っちゃったの。」
「忘れるかよ!朝陽が眩しくて目が醒めたんだよなぁ。あん時よく先生にバレなかったよな。」
「ホントだよ。二人して仲良く風邪引いちゃったのにね。」そんな事もあったな。
「だから今日は毛布持ってきた。」
そう言って毛布を俺に渡すナツミをよく見ると自分はトウヤのマントを羽織っている。
俺にジャケット渡した時一緒に持ち出したんだな。
毛布に包まった俺とトウヤのマントに包まったナツミは並んで腰掛ける。
言葉も無く二人で夜空を見上げる。
ふとナツミが俺を誘った理由が聞きたくなった。「ナツミ―」
俺が声を発すると同時にナツミは子守唄を口ずさみ始めた。
星空からナツミに視線を転じるとナツミも俺に視線を移してきた。
唄い続けるナツミは
ゆっくりとした動作で
俺の頭を撫で
頬を撫で
瞼を撫でる。
俺はされるがまま目を閉じ唄に聞入る。
心地よい眠気が訪れて体勢を崩しそうになる俺の頭。
それをナツミは自分の膝に乗せ尚も唄う。
俺はリィンバウムに来て初めて
眠りの奥底に沈んでいった。
「アヤ、ナツミはまだ寝てるのかい?」
「ええ。起こしたのだけれど起きてくれないの。」あれから朝陽 が昇るまで起きていたであろうナツミがそうそう起きだしてくる筈がない。
後ろめたさを感じながら俺は朝飯をパスして散歩に繰り出す。
朝ってこんなに気持ちいいモンだったっけなぁ?
アルク川の辺に腰掛ける。
しまった。
釣り道具持ってくるんだった。「ハヤト君。忘れ物ですよ。」
振り向くと釣り道具を抱えたアヤ。
俺が笑うとアヤも笑い返す。
道具を受け取り早速針を垂らす。「それと、はい。朝ご飯食べないと体によくないですよ。」
そう言いながらパンを差し出すアヤ。
優しさが染みる。
なぜ?
俺は俺に問いかける。
何も知らない俺は俺に問いかける。
本当は
解かっている。
だが俺は解からない振りをする。
俺は
アヤの傍に居たいんだから―