俺は知っている
あいつがあの部屋へ行く日
あの人はその部屋に一晩中篭る事を
あいつがあの人に何をされているのかも
俺は二人の儀式にも似た行為の最中
彼女に会いに行く
大人達は多分気付いてる
でもあの人にさえ事が露見しなければ問題無い
皆あの人に仕えてはいるが一人俺達と引き裂かれた彼女に同情しているのだろう
彼女に会っても別に何を話すわけでもなく
何をするわけでもなく
ただ一緒に時を過ごすだけ
話しを始めたら止まらない事をお互い理解っているから
夜半に俺と彼女は彼女のベットで一緒に眠る
彼女は眠る前に必ず俺に或る事を質問してくる
それが唯一の会話
「カシスとキールは元気ですか?」
俺は彼女の髪をすきながら
ああ、とだけ答える
彼女はそれだけで満足し、眠りにつく
何時間もしないうちに俺は悪夢で目を覚ます
おそらくかなり魘されているのだろうが
隣で眠る彼女は死んだように深い眠りについていて目を覚ます事は無い
そして俺は自室に戻る
自分のベットに身を投げ想うはあいつの事
俺は知っている
今頃あいつは隣の部屋にいる
あの人から受けた人道に外れた行為を忘れる為に
吐き気がする
あいつに
あの人に
否
俺自身に吐き気がする
気が付くともう太陽が中天にある
そろそろあいつがここに来る
耳を澄ませていなければ聞こえないほどの力の無いノックの音
今この時が俺とあいつの我慢の限界
必死に涙を堪え震える手でドアを開ける
そこに立っているのもやっとといった感じのカシスを見ると
もうだめだ
俺は力を振り絞って半ば強引にカシスを部屋にいれる
よろけるカシスを抱き止めるが
俺も立っていられない
その場にしゃがみ込む
カシスが俺の首に両腕を回してきて
そして泣き始める
俺も
泣く
俺は
最低だ
俺は
卑怯者だ
彼女に会える歓びを味わう為に
今
俺に縋り付いて泣くカシスを見殺しにしている
カシスに対して罪悪感でいっぱいで
でもどうにも出来なくて
どうしていいか理解らなくて
いや
頭ではこうすればいいと答えはでている
だが俺にはそれを実行する勇気も力も無い
カシスの事は大切に想う
でも
彼女も大切で
なにより
俺は
俺自身が大切なんだ
と思う
あの人に逆らった所で
結果は目に見えている
自分の保身の為に俺は見て見ぬ振りをして
あまつさえ彼女に会いにいく
カシスの為に
泣く事しか出来ない
俺が
一番の罪人
俺の胸で泣いているカシスは
何を想い泣いているのだろうかEND