「やっぱ、トウヤと一緒だと気が楽だはな。」
例の召喚儀式跡に二人で降り立った後ソルがそういった。
「そう思うのならわざわざ迎えに来なくてもいいのに」
誓約者のトウヤがリィンバウムと名もなき世界を行き来するのは簡単な事だがいくら強大な魔力を有するソルでも一人で世界を移動するのは多大な精神力が必要でかなり疲れる。
「お前がこっちに来るの待ってたら俺達皆爺さん婆さんになっちまうよ!」
トウヤがサプレスの魔王を送還して自分の世界に還ってからトウヤ一人でリィンバウムに訪れた事がない。いつもソルが迎えにいって渋々やって来るという感が否めないソルは厭味を込めてそういった。
「ひどいな、それはちょっと言い過ぎじゃないか?」
「いーや、そんな事ない!」
辺りはすっかり暗くなって月と星々が天空に煌いている。
いつもは歩いてサイジェントの街まで帰るのだが、今回はソルがトウヤにゲルニカを喚ばせて乗って帰った。
「有難う、ゲルニカ」
トウヤの呼びかけに小さくウォーンと答えてゲルニカはメイトルパに還っていった。
「いいかげんなんで急いでるのか教えてくれよ、ソル」
早足で前を歩くソルに問いかける。
「フラットに着けば判る。」
先程からその一点張り。
何か釈然としないものを感じたが諦めてフラットに向った。
(う〜、お腹空いた・・・でもフラットは夕飯終わってる時間だし、何か残ってないかなぁ〜)
お腹を擦りそう考えながらフラットに入ると食べ物のいい匂いがする。 不思議におもいながらリビングに入ると物凄いご馳走がテーブルを埋め尽くしていた。
「も〜遅いよぉ二人とも!!」
フィズがトウヤとソルに不満をぶつけて来た。
「コラ!フィズ、トウヤにだって都合があるんだからそんな事言わないの!!」
トウヤに向ってごめんね、と謝って
「じゃあ皆揃った事だし、ガゼル呼んで来るはね。」
そう言ってリプレはガゼルの部屋に向った。
リプレが席を外した事をいい事にフィズがなぜ遅れたのか問いただして来た。
「トウヤが部屋に女連れ込んで来たから遅れた。」
「お、そりゃあ隅におけねェな、トウヤ」
スタウトがからかう。
「変な言い方しないでくれよ、ソル!」
「何々?その人お兄ちゃんの恋人なの??」
フィズが歯に衣を着せずに聞いてくる。
「ち、違うよ!そんなんじゃ―」
赤くなって否定しようとするトウヤにすかさず
「ほう、トウヤも赤面するのだな。」
と、突っ込みを入れるラムダ。
返す言葉を失っているトウヤに止めの一言。
「近いうちに連れて来て皆に紹介しなさいね。」
さらっとセシルがそう言った。
「そうだ、今度長期の休みがあるって言ってたよな?その時一緒に連れてくるか。」
「何無茶な事言ってるんだい?ソル。連れて来れる訳ないだろう!!」
そこにガゼルとリプレがやって来た。
「ったく、おせーぞトウヤ!俺達を餓死させる気かぁ?」
言いながら席に着くガゼルをリプレが叱る。
「ガゼル!!あんたがそんな事ばっかり言ってるから子供達が真似しちゃうのよ!?」
「何怒ってるんだよ?」
先程のフィズとのやり取りを知らないガゼルは自分が何故怒られているのがサッパリ解っていない。
そんなガゼルの様子にその場の皆から笑いが零れる。
居心地の悪そうなガゼルにトウヤは助け船をだした。
「所でこのご馳走はどうしたんだい?」
一瞬場が静まる。
「・・・今日はな、バノッサの誕生日なんだ。」
少し寂しげな笑みを浮かべてエドスが言った。
次の日。
トウヤはいつもより早く起きた。
身支度を済ませ台所に向う。
「おはよう、リプレ」
「おはよう!どうしたの?今日は早いわね。」
「ん、ちょっと出掛けてくる。朝ご飯には間に合わないかも」
「そう、じゃこれ」
そういってロールパンを二個包んで渡す。
「こんなのしかなくてごめんね?昨日言ってくれればお弁当作ったのに」
申し訳なさそうに言うリプレ。
「いきなり思い立ったからさ。これだけあれば十分だよ、ありがとう。」
御礼を言い残してトウヤはフラットを出発した。
「おはようございます。精が出ますね。」
花壇の世話をしているキムランに声を掛けるトウヤ。
「何者だぁ!!?」
背後から声を掛けられたキムランは凄い勢いで振り向き腰の刀に手を掛ける。
トウヤは肘を曲げ両手を顔の高さまで上げ降参のポーズをとった後右手の人差し指を己の口元に立て
「朝早いから静かに。」
と、小声で言った。
抜きかけた刀を鯉口に収め再び花壇に向いぶっきらぼうに言うキムラン。
「何か用か?」
「・・・少し言い難いのだけれど―」
「ハッ!世界に混乱を起こした張本人がなんと謙虚なお言葉を」
トウヤは返す言葉が無かった。
バノッサに降臨した魔王をサプレスに送還した後、リィンバウムに何者にも壊す事の出来ない結界を張ってこの世界から召喚術を無くしてしまったのは何を隠そうトウヤなのだ。
その所為で今まで召喚術で権力を欲しいままにしていた召喚士達は力を失い、暗殺者に狙われる事が少なくない。
キムランの異常なまでの警戒のしようはその為だった。
黙り込むトウヤを見て少し言い過ぎたかと反省し
「なんだよ、いいから言ってみろ。あぁん?」
他人には滅多にみせない表情でトウヤに語り掛けるキムラン。
「では、遠慮無く。花を分けてもらいたいんだ。」
木々の隙間からのほんの少し差し込む朝日に照らされてきらりと光る。
バノッサの墓標にと大地に刺されたサモナイトソードに花が供えられている。
秋桜のような白い花が一輪。
先程キムランに分けて貰った花と色は違うが同じ種類。
―まだ萎れてない?
その花の隣に持参した花を添えると同じ様に瑞瑞しいのが判る。
(こんな早くにくるなんて、誰だ?エドス・・・かな??)
一輪の花に関しての思考はそれで終わりにした。
腰に帯びている死散剣を鞘越しに擦る。
視線はサモナイトソード。
先の戦いが頭に甦る。
あの時結界を張った事は後悔していない。
召喚術でこの世界に召喚されたすべての存在を元の世界に送還した事も。
リィンバウムの住人達だけでこの先平和を造っていってほしいと思ったからこその決断だった。
だがトウヤはリィンバウムの大地に立っている。
―異世界の干渉をなくした本人が干渉していたら世話ないな・・・
自嘲して小さく息を吐く。
―でも、
「トウヤ?」
呼ばれて引き戻される。
「ソルだったのか、この花。」
「まあ、な。序でだけどな」
ソルはトウヤの隣に並び墓標を見つめる。
「序でって何の?」
ちらりとトウヤに視線を向け再び墓標に戻し溜息、
「ちょっと着いて来てくれ」
それだけ言い残して森の奥へと歩き始めるソル。
トウヤは黙ってソルの後に続いた。
「オレの腹違いの兄妹達だ。」
迷霧の森の最奥にひっそりと土山が三つ盛られている。
「前言ったよな?魔王の器の候補者でもあった奴らだ。」
「そう、か。」
トウヤはなんと言って良いものやら言葉が浮かばずそれだけ言って黙る。
「オレが殺した。」
木々から鳥が飛び立つ音が響き渡った。