高校生活も二年目に入り、勇人は図書委員になった。
図書委員は何かと面倒な仕事が多い。
本の買出し、新書案内の作成、昼休み放課後の図書当番。
これから半年そんな仕事をやらされるかと思うと
「めんどくせぇ〜」
無意識に言葉が口を吐いた。
「自業自得だそ、勇人。なんでったて入学してから一冊も本借りてないんだからな。ったく、おまえぐらいだぜ?」
クラスメイトが茶化す。
「〜〜俺、小中でも一冊も本なんか借りた事ねぇけど本を借りなかった罰なんかなかったぜ?」
机に顔を突っ伏す勇人。
「・・・奇特な奴だな。」
他のクラスメイトも寄って来る。
「勇人!!罰とはなんだ、罰とは!?もう一人の図書委員樋口なんだぞ、く〜〜羨ましい!!」
「じゃあ、代わってくれよっ俺部活あんだから」
「諦めろ。司書の先生御氏名だ。代われる訳ねぇだろ??」
「うわーーーん」
勇人の図書委員初仕事、新書の買出しに放課後相方の樋口綾と繰り出す。
「何処の本屋行くんだ?」
「駅ビルにある本屋さん、です。」
「しゃーっ!気合入れていくか!!」
「・・・・・」
勇人のあまりにも高いテンションに困惑しつつ彼の後に続く綾。
「あの、新堂君?」
「なんだ?」
勇人の切り返しが早く一瞬言い澱む綾だが頑張って先を続けた。
「新堂君はバスケ部もお忙しいでしょうになぜ委員長に立候補なさったのですか?」
「俺、やるからには気合入れねぇとサボっちまうんだよ。だから。」
えへへ、と、はにかみながら言う勇人に綾は好感を持った。
だか、本を購入した帰り道綾に予想も出来ない行動を勇人は取った。
「あ、そだ!煙草キレてんだ。樋口、ちょい悪い。」
そう言ってコンビニに入っていった。
綾が呆然としている間に勇人が戻ってくる。
「お待たせー」
綾は何も言えずにただただ勇人を見つめる。
「・・・どうした?樋口?」
勇人に問われ我に返り
「どなたかご家族のおつかいですか?」
気休めと頭の片隅で解っていながら聞いてみた。
「え、ああ、煙草の事か?」
こくんと小さく頷きなおも勇人を見つめる。
「俺のだよ」
綾はその言葉を待っていたかのように
「!新堂君!あなた未成年なんですよっ判って―」
そこまで叫んで勇人の右手が綾の頭を抱え込む様に後ろから回され口を塞がれた。
「んな大声だすなよ、樋口〜。ま、行こっか」
綾の頭を抱えながら歩く。
また大声で叫ばれては堪らない。
学校に戻る途中の夕日が綺麗に見える公園に寄った。
「わたしとんでもない誤解をしていました!」
ベンチに座るなりそう言い放つ綾。
勇人は苦笑しながら黙って聞いている。
「新堂君は人気者で部活も頑張ってらしてこれからは図書委員長として責任のある仕事もこなす素晴らしい方だと思っていたのに!―なぜ!?なぜ煙草なんか!?」
学校での大人しい綾しかみていない勇人は少々面食らいながらも
「落ち着けって樋口。」
「落ち着いています!!」
キッと勇人を睨み勇人もそんな綾を見つめ返す。
「なぜって言われてもなぁ、別に毎日吸ってる訳じゃないから大目に見てよ。」
「・・・本数の問題じゃありません!」
なんだかんだと綾も冷静さを取り戻し、軽く息を吐いて
「―わたし前々から煙草を吸ってらっしゃる方にお聞きしたかったのですが」
「うん」
「健康を害すると知っていてそれでも吸っていらっしゃるのですよね?」
「・・・まあねぇ。」
「そんなに美味しいのですか?煙が」
綾の『煙』という表現がなんだか可笑しくて勇人はクスっと笑う。
「煙は美味くない。でもな」
そう言って一度言葉を切り茜色に染まりつつある雲を見つめながら続ける。
「ふと、孤独を感じた時孤独を忘れさせてくれるんだ。」
夕日の紅を全身に浴びている勇人が消えてしまう様な気に襲われた綾は彼の名を呼んだ。
「・・・新堂、君」
「なんてな♪」
勢い良く立ち上がり夕日を背に浴びながら
「早く学校に帰んないと日が暮れちまう!急ごうぜ。」
そう言った勇人を見上げ綾はゆっくり立ち上がって言った。
「それでも、体に良くないですよ。止めて下さい。」
穏やかだった勇人の態度が少し変化した。
「樋口には関係ないだろ。それともあんたが俺の孤独を埋めてくれんの?」
冷えた目で睨みつけられいつもならたじろいでいただろうが綾は気丈に返した。
「わたしに出来ることならば」
「じゃあ煙草の代わりにあんたの唇吸っていいの?」
感情の無い声でそう言いながら右手で綾の顎を上に上げ彼女の唇に一度視線を落とし先ほどよりも鋭く冷たい目で彼女の双眸を見つめる。
綾は瞬きを一度して軽く目を見開き
「いいですよ。」
怖がる様子もなく言った。
勇人は暫らく綾を眺め、そして解放した。
「何考えてるんだよ、樋口って何考えてんだかわかんねぇーのは俺か。」
綾に背を向け激しく自分の頭を掻き回しはぁーっと長く深い溜息を吐いて先ほど購入した煙草を取り出し綾に向き直る。
「降参。これは樋口が預かっていてくれ。」
そう言って煙草を渡す。
綾はそれを丁寧に両手で受け取り、ぎゅっと握り締める。
勇人は既に歩き出していて綾は慌てて追いかける。
「新堂君。」
「んー?」
「孤独を感じたら、その!わたしの所に来て下さい。」
「煙草返してくれんの?」
「それは駄目です!お話くらいなら聞いて差し上げられますから」
綾は緊張が解けたのか両目が潤んでいる。
勇人は少々罪悪感を感じながらサンキュと一言呟いた。
細かい事は突っ込まないで下さい・・・
制服姿の勇人が煙草を購入出来たのは多分レジに高校生のバイトの人が入っていたので買えたのだと思います。