「あげる訳ないじゃん。どーせ食べきれないくらい貰うんだから」
デパートの手作りチョコのコーナーを周っている最中事も無げに言い放つ友人に綾は目眩がした。
「・・・夏美ちゃん、そういう問題じゃ無いでしょ?気持ちの問題よ!?」
友人に思いかけず熱の篭った返答をされ夏美は少々面喰う。
「気持ちの問題だからこそ、あげなくてもいいモンでしょ。綾もよしなよ、勇人なんて毎年貰ったチョコ一口食べて後はあたしによこすんだよ!?食べかけだよ!つーか食べ残しか」
「それを有り難くたいらげるのでしょ?」
「ここ何年かの楽しみなんだよね〜」
やっぱり本一冊は買って置いたほうがいいかしら、と綾は手作りチョコレシピ集を手に取りページを捲る。
「籐矢君は全部自分で食べちゃうけれど」
「あ、やっぱり?だろうと思ったよ、変に義理堅いんだから。」
「ふふっ義理堅いといえば、きちんと全員に御返しするのよ、籐矢君。」
本を元の位置に戻し他のを手に取り中を確認する。
「ウッソ!!」
「しかも手作り」
綾は視線だけ夏美に向け彼女の反応を確かめる。
夏美がジト目でゆっくり綾と視線を合わせて
「マジで?」
と、だけ言うと綾は大袈裟に頷く。
「毎年お手伝いしてたのよ、わたし。」
これ作る事にしたわっ、と本を抱きかかえ材料を探しに歩く綾に溜息混じりで続く夏美。
2月14日バレンタイン当日。
いつもの様に夏美と籐矢は肩を並べて帰宅途中。
「今年は勇人のお零れに預かれないだろうけど、その分綾のお零れに預かれちゃったv」
「?何の事?」
籐矢の問いに答えるべく鞄から小さな包みを覗かせる。
「今朝貰ったの。籐矢は貰わなかった?綾から」
「ああ、チョコか。僕は貰ってないよ。」
「ふ〜ん、じゃぁ帰ってから渡すのかな。」
言いながら鞄を全開にする夏美。
「うわっ!何だそれ!!」
と、籐矢が叫ぶのも無理は無い。夏美の鞄の中にはチョコだと思われる包みがぎっしり詰っていた。
「今年は女の子にも贈るの流行ってるのかな?ガッコで後輩とかに貰ったの。」
(別に流行ってないと思うが・・・ただの夏美人気だよなぁ)
そんな事を思いつつあまりのチョコの数に少々不安が募る籐矢。
「綾からはコレだけじゃなくって試作いっぱい貰ったんだよ〜」
鞄のファスナーを閉め綾からの包みだけ手に取り開いて中身のチョコを口に放る。
「籐矢はどのくらい貰ったの?流石に今日は教科書学校に置いてきたんでしょ」
「きちんと持ってきたよ教科書。だってこんなに受け取ってないからね」
夏美の鞄を軽く叩く。
「どういう事?」
「勝手に机とかに入ってたのだけ貰って、手渡しのは皆断ったから。」
「なんで!?折角勇気出してくれてるのに」
「だから、だよ。けじめだろ?夏美と付き合ってるんだから」
「まぁそうかもだけど―」
籐矢の言っている事は正しいと思うが女の子の立場からすれば納得出来ない部分もある。
「今年から手渡しは君からしか受け取らない事にしたんだ。」
籐矢は立ち止まり夏美を見詰る。
真剣な籐矢にチョコを用意していない夏美は途惑った。
「そんな事言っちゃって、綾からは手渡しでも受け取るでしょ」
笑って小さな揚げ足を取って誤魔化そうとするが
「『本命』は夏美からしか受け取らない」
と、断言され逃げ場を失う夏美。
「ご、ごめん!!どうせ籐矢いっぱいチョコ貰うだろうからって用意してないんだ・・・」
「別にチョコでなくてもいいんだ。こういうのって気持ちだろ?」
「そうだよね!?気持ちよね!あたしもそう思う!!」
何時の間にかリィンバウムへ飛ばされた公園に来ていた。
「なんだかんだいっていつも僕があげたり貰いにいってるから今日は夏美から頂戴、キス。」
「はぁ!!?何いきなりっ」
籐矢は夏美の手を引いてベンチに座る。
「はい。」
「―はいって、そんな」
おもいっきり顔を紅くして視線を逸らす夏美。可愛い。
籐矢はにっこり笑って
「確かに『気持ち』頂きました。ありがとう、夏美。」
そう言って夏美の頭を一撫でして立ちあがり歩き出す。
「ま、待って!籐矢―」
「今晩は。籐矢君、コレ義理チョコです。」
「わざわざ言わなくても判っております。今年唯一の手渡しチョコだ、ありがとう綾。」
夏美が持っていた包みと同じ物を受け取る。
「授業の前だし早速頂きます。」
籐矢と綾は同じ予備校に通っているので一緒に登校中。
「どうですか?」
籐矢の反応を見ようと彼の顔を覗き込むと顔が真っ赤に紅潮している。
「と、籐矢君っどうしたの!?御酒は控えて作ったのだけれど平気!?」
「ん、平気。御酒に酔ったんじゃないから」
(??じゃあ何に酔ったのかしら?)
それは籐矢と夏美と綾の手作りチョコだけが知っている秘め事。