今日はクリスマス・イヴ。
終業式後の部活を終え玄関で籐矢を待つ夏美。
暫らくして剣道部員達が玄関に現れたので下駄箱の死角の柱の陰に隠れる。
最後に籐矢が現れたので思わず顔を出すと目が合った。
籐矢はにっこり笑って夏美に歩み寄る。
「お待たせ、夏美。」
人目も憚らず話しかけてくる籐矢に慌てる夏美。
「ちょ、ちょっと来ないでよっ!」
「なんで?僕の事待ってたんでしょ?」
「そりゃ、そうだけどっ!!」
初めの台詞はトーンを抑えて言ったが籐矢の考え無しな台詞に声を荒げてしまう夏美。
「あ、夏美センパイ!お疲れ様です!!」
夏美は我に返って話しかけてきた人物に目を向け
「カツヤ君。お疲れサマ〜」
そう言いながら籐矢から離れる。
「今日のイヴはお二人で?」
籐矢と夏美の顔を交互に見ながら嬉々として聞いてくる克也。
一瞬で顔を紅潮させ黙り込む夏美に対して
「だったら良かったんだけどね。残念ながら友人達とね。」
冷静に受け答えする籐矢に
「いいから、早く靴に履き替えてきてよ、深崎君!!」
一人で赤くなっているのが癪で少し強い口調で籐矢を急かす夏美。
更に、要らん事聞くな!と、言わんばかりに克也の痛いであろう所を突く。
「カツヤ君!!エミちゃん体育館の前で待ってるよ!」
「あ!やべっ!!じゃ、夏美センパイ良いイヴを!」
言うが早く体育館へ続く廊下を走り出す克也を見送って、ふと、視線を籐矢に向けると玄関を出て行くのが見え、慌てて後を追う。
校門を出て学校から大分離れた所で籐矢の後ろを離れて歩いていた夏美は彼の隣に並ぶ。
「何、怒ってるの?」
籐矢は何も応えない。
仏頂面で何も言おうとしない籐矢に痺れを切らして夏美は声を荒げる。
「籐矢!?」
呼ばれてその場に立ち止まる籐矢に倣って夏美も止まる。
キョトンとしている夏美を真摯に見つめながら
「キミは散々むこうでキミの名前が呼べない僕を責めたけど今の夏美はどうなんだ?」
物凄く怒りが伝わる形相になる籐矢に弁解する夏美。
「だ、だってあっちと学校じゃあ情況が違うじゃん!」
「そうかな?」
再び歩き出す籐矢。
「待ってよ、籐矢は知らないだろうけど―」
いきなり立ち止まった籐矢の背中にぶつかる夏美を振り向き様に抱き締める。
「苦、しい〜よっ」
と、訴える夏美を無視して
「僕達の関係を世間に隠す必要が何処にあるんだ?僕等は親子でもなければ兄妹でもないんだよ?」
怒ったような口調だったが夏美は籐矢が寂しい思いをぶつけて来たような気がした。
籐矢の頭を優しく撫でながら
「ごめん。ごめんね、籐矢。でも色々あるのよ、学校だと人間関係が。だから、もう少し時間を頂戴?ね?」
子供に言い聞かせるような口調で優しく語りかける。
籐矢は抱き締める手を緩めて夏美の顔を覗き込む。
夏美も籐矢の顔を見上げる。
納得は出来ていないといった表情を浮かべている籐矢だが
「解かったよ。夏美が僕にクリスマスプレゼントくれるなら僕も時間をあげる。」
「え?だって四人で交換するんでしょ?プレゼントって―」
夏美の唇に自分のそれを落とす。
触れるだけのキス。
「でも、僕は気が短いよ?」
不敵に笑う籐矢を見て
(人の気もしらないで・・・)
脱力する夏美の手を引きながら勇人と綾の待つ深崎家の家路に着く。
「あ、綾?なんかお皿三枚しかないけど?」
ダイニングテーブルの上に食器類が綺麗にセッティングされているが一人分足りていない。
「夏美ちゃん、籐矢君、私の三人だもの三枚で足りるでしょ」
食事の準備の手を休めずに素っ気無く答える綾。
籐矢と夏美は顔を見合わせる。
「勇人来れなくなったのかな?」
「そんな訳ないだろ?」
夏美の天然な思考回路に少々呆れながらも其処が夏美の良い所でもあるんだよな〜と思いながら綾に歩み寄り
「勇人と喧嘩でもしたのか?」
と、聞いてみた。
「いいえ。わたしが一方的に怒っているだけです。彼には急に籐矢君のご両親が帰国する事になったので食事会は中止になりました。と、伝えておきました。」
「・・・真実味の有りそうな嘘吐くなよ、信じるだろ?夏美、勇人に電話してくれ。」
夏美は籐矢に了解の返事を返して携帯を取り出し勇人の短縮ボタンを押し呼び出す。
「おお、夏美。今か?今籐矢ん家に向ってるよ。ケーキ屋混んでてさ、時間食っちまった。あん?・・・あぁ、あれ嘘だろ?綾のやつかなり怒ってたからなぁ〜判ってる。うん、そっち着いたら詳しく話すは。ああ、じゃあな。」
「―だって。勇人、綾の嘘判ってたみたい。」
「へぇ。勇人なら騙されかねないと思ったんだけど」
「綾!!籐矢ってば勇人の事バカにしてるよ!!」
「事実でしょ」
冷たく素っ気無く答える綾に夏美も流石の籐矢も凍りついた。
暫らくしてチャイムが鳴ると綾は玄関に向って駆け、勇人が玄関に入るなり一言浴びせる。
「新堂君はわたしの事信用してないんですね」
「綾―」
「気安く呼ばないで下さい!!」
そう言い捨ててリビングに駆け戻る。
勇人は大きな溜息を吐き靴を脱いでゆっくりとリビングに向う。
「綾、ちょっと言い過ぎじゃないか?」
籐矢が苦笑しながら言う。
玄関の声がリビングまで筒抜けだった。
「ちっとも言い過ぎなんかじゃないわよ、わたしなんか、話し掛けるなって言われたんだから!!」
籐矢と夏美が並んで座っている三人掛けのソファーの空いているスペースに腰掛けながら怒りを露わに主張する綾。
「それは『学校で』って言っただろ」
肩をガックリ落とし、そう言いながらリビングに入って来た勇人を見ずに
「理解出来ません!!」
そう言って俯く綾。
静寂の中勇人の溜息が響く。
勇人は買ってきたクリスマスケーキをダイニングテーブルの中央に置く。
「僕も『学校で』ってのが良く解からないけど、夏美も同じ様な事言ってたよね?一体なんなのさ?」
人事だと思っていた所に自分に話しが振られ多少動揺したが夏美は意を決し話し始めた。
「あたしの場合はね、あんまり本人を目の前にして言うべき事じゃないと思うんだけど・・・その、うちの学校に籐矢の、えと、ファンクラブがね、あったのぉ。よくよく聞いてみたら、うちのクラスあたし以外の女子皆それに入ってるんだって!だから・・・」
「遠慮してたんだ。」
「う、うん。」
籐矢の指摘を素直に肯定する夏美。
「夏美は入ってなかったのか・・・俺は入ってんだよ」
小さく呟く様に言った勇人の言葉の意味を三人は各々考える。
「!?勇人、籐矢のファンクラブに入ってるの!!?」
「違うって。綾のに入ってるんだろ?」
籐矢の問いに顔を赤くしながら頷く勇人。
「道理であっちで綾に手出すのが早かった訳だな」
「し、仕方ないだろ!!高校入学した時から好きだった、んだから!」
「勇人君。」
籐矢と夏美が見守る中、綾は勇人の前に進み出る。
「わたしとお付き合いして下さい。」
「へ?あの、え?と・・・」
綾のいきなりの申し出に勇人は戸惑う。
「駄目ですか?」
聞き返す綾に大きく頭を振って答える勇人。
「駄目じゃないっ―けどなんだよ?いきなり」
「わたしから勇人君に交際を申し込むのは問題ありませんよね?」
「なるほどね。それなら勇人の体面立つな。」
「え?何々?どういう事??」
隣に座る籐矢の袖の裾を引っ張りながら夏美が問う。
「抜け駆けにはならないだろ?綾から申し込めば」
「「なるほど!!」」
勇人と夏美が同時に納得する。
「全員揃った事だし、お食事にしましょうか。」
すっかり機嫌の治った綾がにっこり笑ってキッチンに向う。
「え?でも三人分しか用意してないんじゃ―」
「食器だけね。料理はきちんと人数分用意してあったよ。」
夏美の疑問に答えて籐矢もキッチンに向う。
「手伝うよ」
「有難うございます、籐矢君」
コンロに火を点け料理を温め直す。
後ろの二人に聞こえない様に小声で
「あの二人にも困ったモンだ。」
「本当に。自分の事理解してないんですよね」
そう囁き合って笑い出す籐矢と綾を後ろから怪訝に見つめる勇人と夏美。楽しいクリスマス・イヴの始まり。