01
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久方の陽光 さは夕去りの 薄墨色の雲居を染めて
水無月 |
02
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くゆめる気空のせいたるか
けぶった視界に目を凝らせども
水滲(にじ)みたる描線は 閉曲線と化せたりつ
眼(まなこ)閉ざさば ますます見えぬ 身辺落花の色(いろ)美(み)さえ
ただ胸中の漆黒闇の形も成せぬものに怯えぬ
いづくのときに気づけるや
己の足元の落花の芳香
極彩色(ごくさいしき)花(か)にかこまるる ありがたかりし自らの幸(さち)
水無月
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03
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強くあれよと 他も我も 願いて戦地に赴けど
いつの間にやら歩は緩み 声も気力も萎えにしを
奮い立たせてこその花
奮い立たせることあたはぬは 弱者敗退の当然の理
いと情けなく いとけなく 力なく去る者の常
水無月
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04
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卯月 小さな緑の葉があって
皐月 壊れた自転車が投げ捨てられた
水無月 蔦がそれをとらえて
葉月 新緑で形も判らない いまここに在るものは、いずれいつかは朽ちるだろう。
しかし朽ちるものをも覆う、緑の生命を持つものたちは、
たとえ人が壊した地でも、辛抱強くその色に覆う。
いつか人が絶えたとき、どうか道路も建造物も、まばゆい緑に覆われて
見えなくなってしまいますように。
葉月
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05
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遠き地に思いを馳せ 彼方の人の安否を思う
長き時間の過ぐるを思い いつか叶う願いを口ずさむ
私を必要といってくれるあなたが いてくれるから生きていける
私があなたを必要としていることが あなたにも伝わっているだろうか
葉月
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| 06
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平行回転する半球を 思い描いて幸せになる
昔々の自分が何を 楽しみとしていたか思い出す
夜空に浮かぶ微光に目を凝らし
喚起していた頃は幸せ
今の私の瞳は濁り、微光を捉えることさえできない
眼前に頓挫する分厚い雲を吹き飛ばしたなら見えてくる
星々に変化などありはしないのに
葉月
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07
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雲幕を 透かして注ぐ 望月光
黒き水面は 千々に乱れて
長月
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08
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ぷつりと潰れて 光を放つ 夜光虫
さは死の証明 さは生の痕跡(あと)
長月
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09
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鋼の翼を手放して 地上で一人 遥かな距離の空を見上げる。
それを哀しみ泣くことはない。それを僻み(ひがみ)恨んでも意味がない。
再び自由を手に入れた。
目的地へは歩けばいい。
幸いにして、今日は晴れ。
瞼を閉じても知れる光源に、ただ向かって歩けばいいだろう。
神無月
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10
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肌寒き 気空を震わす 口笛の 音に薄穂(すすきほ)も 揺れ動き
神無月 |
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