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予感


 会った回数などほとんどないのに、

なぜか涼子に心を許している自分が不思議だった。

 


誰も、何も信じないと決めた自分が・・・・。

 

「人を好きになる」って、こういうことなんだろうか。

 

様々な女性と数え切れないくらい付き合ってきた光だが、今更そんなことを考えた。

 

 

「好きになれば、その人が一番信用できなくなるの。それが恋愛なのよ。」

 

 

かつて、付き合った女性の誰かがそう言っていた。そうかもしれない。

それは確かに間違っていないのかもしれない。

付き合えば・・・・

 

 

浮気はしていないか?

自分のことが本当に好きだろうか?

仕事で会えないって本当?

その人とはどういう関係?

 

電話に出られないのは何故?

 

 

 

・・・・疑いだしたらキリがない。

 

 

でもそれは、好きだから。

好きだから、信用できない・・・・。

 

 

・・・じゃあ、涼子は?

 

 

付き合ってはいないけれど、何故こんなに信用できるのか分からなかった。

こんなに彼女といると安心出来るのは何故?

もしかして、本当の意味で、「愛してる」というのは、

こんな、涼子に対する気持ちを言うのではないのかと、ぼんやり思った。

 

 

・・・・そして、光は、10年前に同じような気持ちで見ていた人のことを思い出した。

 

 

 

 

「姉さん・・・なんで・・・晴彦と心中なんかしたんだ・・・・?」

 

 

 

過去の事実を改めて口にして、口にできるくらい時が経ってしまったことを実感した。

あの時のショックは、もう過去のこと。

本当の意味で愛せる存在が、現れたのだ。

俺は、もう大丈夫。涼子がいるじゃないか。

俺の居場所は、彼女の側。

だんだんと視界に大きく入ってくる見慣れた扉からじっと視線を外さずに、光は呟いた。

 

 

 

 

その時。

 

キキーーーーーッッッッッッ!!!!!

 

突然、聞き慣れないタイヤスピンの音が闇の街に鳴り響いた。

と同時に、顔を上げた光の目に、黒のセダン車のボンネットが

視界いっぱいに飛び込んできた。

 

「!!!!!」

光は、とっさに隣の壁に張り付き、背中すれすれを猛スピードで走り抜ける車をやりすごした。

そのまま車は通り過ぎた。

そしてまた曲がり角で派手なタイヤの音をさせながら、

低いエンジンの音は遠ざかって行った。

 

「・・・・」

 

冷たい汗が、光のこめかみを伝う。

 

 

 

・・・今の車・・・・ナンバーを隠していた・・・・。

 

 

・ ・・・命を狙われた?

 

 

 

 明らかに、自分に向かって車が走ってきたことは分かった。

そうでなければ、壁に張り付いた自分の真後ろギリギリを通過するはずがない。

それにあのナンバープレートの覆面。

間違いなく、犯罪を犯す為のものだった。

 

 

 

 

 

 と、star-voiceの扉が勢いよく開き、

ウェーブのかかった短髪の小柄な青年が顔を覗かせた。

青年はきょろきょろと辺りを見回し、視界の隅に光を発見すると、慌てて駆けてきた。

「光さん!!!!?どうしたんですか!!!??」

嗅ぎ慣れたウィークエンドのレモンの香りが辺りにふわりと広がる。

「あぁ・・・・輝・・・。」

「今、すごい車の音、しませんでした?!・・・もしかして光さん・・・危なかったんですか」

光のただならぬ様子を感じ取り、輝は眉をよせ軽く首をかしげて光を見上げた。

「光さん・・・大丈夫ですか・・・?」

光はゆっくりと息を吸い、そしていつもの穏やかな笑顔をみせた。

「大丈夫だよ、輝。・・・暴走する車に、運悪く出くわしてしまったみたいだ。」

光の作り笑顔を怪訝そうに見つめ、

輝は

「そうですかぁ?」

と疑いの声を出す。

「なんだか汗かいてますよ〜?光さん。轢かれそうになったんじゃないですか?」

「・・・・輝にはばれてしまうなぁ。うん、実は下むいて歩いてたら、
車が来てることに気づかなくてね。あやうく轢かれるところだったよ。」

笑いを含ませた声で、光は嘘をつく。

輝は、その嘘は見破ることができなかった。

「やっぱり。・・・もぅ。気を付けてくださいね?暴走してる車なんて、
この辺多いんですから。・・・さすがにさっきの音にはびっくりしましたけど・・・」

「それで店から出てきたのか。この野次馬め!」

光は、軽く輝のくせっ毛を引っ張る。

「もう店の準備は出来たのか?」

「痛っ!・・・もう、やめてくださいっ!・・・・僕が出てきたのは、
光さんを呼びに行こうとしたのもあるんですよっ!」

「・・・・俺を呼びに?」

「そうです!光さん、何回携帯にかけても繋がらないし。」

乱れた髪の毛を手ぐしで直しつつ、輝は言った。

「白河涼子って女来てないか、って、男が数人訪ねてきたんですよ。
まだ開店前だっていうのに。知らないって言ったらすぐ帰りましたけど。
で、リョウコって、たしか光さんが以前言・・・・」

 

 

そこまで聞くと、光は踵を返し、駆けだした。

 

 

嫌な予感がする。嫌な予感がする・・・!!!!

 

 

遠くで自分を呼ぶ輝の声は、もう聞こえない。

 

 

 

 

 あぁ・・・どうか、神様・・・!

 この予感は、外れますように・・・!!

 

光は無意識に、ポケットのマリア様をぎゅっと握りしめた。

 


story by さし美嬢

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