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崩壊の足音5 |
突然のクラクションに涼子は振り返った。
「涼子!!!」
深いメタルグリーンのフォルクスワーゲンから顔を覗かせ、光が叫ぶ。 ぱっと涼子の瞳が輝いた。 「光さん!」
ゆっくりとアクセルを踏んで、光は涼子に近づいた。 真横に車を寄せ、ハザードをたいて停車させる。 すばやく車を降りると、涼子が駆けてきた。
「昨日は、ありが・・・」
「涼子!!大丈夫か!?」
「・・・え?」
息せききって光が訊ねた。 「昨日・・・!!何もされなかったか?痛いとことか・・・・!!?」 「・・・・??何ですか、それ?」 「昨日だよ!!俺達、誰かにつかまって・・・」 「???」
ゆっくりと瞬きをし、じっと光を見つめる涼子の瞳に嘘はない。 「覚えてないのか・・・?」 驚愕した表情で、光は独り言のように呟いた。
「え?何ですか?」 涼子の瞳がまっすぐ光の眼をとらえている。 ふと光は視線を地面に落とした。 「いや・・・・なんでもない。」 「?」 「・・・・あの・・・昨日晩、君は何をしてたんだい?」 「昨日晩ですか??・・・・私はよく覚えてないんですけど。 「え?」 「違うんですか??お医者様からそう聞いたって、郎が言ってたんですけど。」 「・・・・・」 「そんなわけで、今日は遅番出勤ですけど、仕事にも出られそうです。
涼子はふわりと微笑み、深く頭を下げた。
「あ・・・いや・・・」 「そういえば、気を失ってる間、私、夢みてたんですよ」 くすくすと涼子は笑いながら話す。 「夢?」 「学生の頃の夢。あこがれていた先輩がいたんです。
涼子は笑いながら、少し悲しそうな表情をした。
「『ごめんな』・・・だって。・・・今さら・・・ふふ。可笑しいな」
「??」 「ふふ。ごめんなさい。なんだか可笑しかったの。 「涼子・・・」 「あ、じゃあ、仕事に遅れますので、これで。
そう言うと、また軽く会釈し、涼子は図書館へ向かって再び歩きだした。 光は、ゆっくりと自分から離れてゆく涼子を止めようとして手を伸ばし、 しかし少し考えてその手をゆっくりと下ろした。 そして人混みの中に消えていく彼女の後ろ姿を、そのままじっと見つめ続けた。
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story by さし美嬢 |