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穏やかなとき2

 

 

聖堂を出て、小さな小部屋を通り抜け、回廊を渡ると、

そこには温かみのある調度品とともに、多くの写真が飾ってあった。

教会の奥にあるいわゆる応接室である。

壁や棚の上に飾られた数多くの写真立ての中にはいずれも幸せそうに微笑むカップルの姿があった。

 

「わあ、すごい」

 

その写真の多さに、思わず涼子が感嘆をもらす。

 

「古い写真は本棚に収められていますよ」

シスターはにっこりと微笑みながら、壁を覆う本棚から数冊の黒いアルバムを引っ張り出す。

 

「これが、大体10年前で、こっちが18年まえで〜、ええとご両親がご結婚されたのはいつごろですか〜?」

 

小さな体で精一杯背伸びをしながら、シスターはアルバムを次々と取りだす。

その姿があまりに危なっかしくて、思わず光は手を伸ばした。

するとシスターは

「まあ、すみません〜」

といいつつも、さらに次々とアルバムを取り出していく。

そのうち、ぱらぱらとページをめくっていた涼子が小さく「ありました」と声を上げた。

 

 

「たぶん、これじゃないかしら」

 

少しはにかんだような、照れたような微笑を浮かべながら、彼女はあるページを指差していた。

どれどれ、と光も思わずその指の先に視線をめぐらせて見る。

するとそこには幸せそうな二人の人物を収めた少し色の褪せた写真があった。

 

 

 

 白いタキシードの男性が、

ウエディングドレスの女性の手をひいて階段を降りようとしている光景。

その女性の顔形に、すぐ隣の愛しい人物の面影をみつけて、思わず光は笑みをこぼす。

 

 

「君はお母さん似なんだね」

 

「そうですか?やだ。なんだか恥ずかしい」

 

 

照れながら、涼子は初めて目にする両親の晴れ姿にうっとりと見入っていた。

「お母さん、綺麗・・・。ふふっ、お父さんもやっぱり若いわ」

「そりゃあね。それにしても、絵になるカップルだね」

「本当に。そういえば結婚式の写真なんて見せてもらったことなかったです」

 

 

 

 

 

 ぱらりぱらり、

涼子は嬉しそうに両親の写真を収めたページを何度も見返していた。

その姿があまりに嬉しそうだったので、思わず光はシスターにこんな提案をしてみたのだった。

 

 

 

「この写真、もらって帰ることってできませんか?」

 

 

 

すると、シスターはあくまでおっとりと思考をめぐらせてから、

「いいと思いますよ、ご家族ですし」

とあっさり承諾してくれた。

その回答に、思わず

「いいんですか?」

と聞き返したのは、涼子だった。

なんとも嬉しそうに、微笑んで、彼女は何度も礼を述べる。

 

 

 こんなことで、彼女が微笑んでくれる・・・

 

 

嬉しさのあまり笑みの絶えない涼子を見ながら、光の胸の内もまた、幸福な気持ちで満たされていたのだった。

 

 

「本当に、ありがとうございます」
涼子は笑みを絶やさない。

手当たり次第にシスターが引っ張り出したアルバムを3人で片付けながら、

繰り返し、彼女は感謝を述べた。

 

「いいえ〜、喜んでいただけて、こちらとしてもうれしいですわ〜」

 

相変わらずのほほんと、シスターは答える。

答えながら、彼女は懸命に背伸びをしてアルバムを元の位置に戻そうと奮闘している。

そのあまりの危なっかしさに、再び光が手伸ばそうとしたときだった。

「あっ」という小さな声とともに、シスターの手にしていた太いアルバムが彼女の手を離れ、その頭上へと降りかかった。

しかし幸いにも、頭を覆うようにかがみこんだおかげで、アルバムは彼女を直撃することはなかった。その代わりに、硬いフローリングの床に落ちたアルバムの写真は、無残に飛散していた。

 

おそらくきちんとページにとめられていなかった写真が挟まっていたのだろう。

 

 

「大丈夫ですか?」

そうたずねながら、光はその床に散らばった写真を集め始めた。

「ええ。すみません、私おっちょこちょいで」

申し訳なさそうに、シスターは言いながら、彼女もまた床に散らばった写真を集め始める。

ところが、その手は、ある写真をつまみあげたところでピタリととまってしまった。

その様子に気づきながらも、光は気に留めることなく写真を集める。

一方涼子は、「どうしました」と心配げに尋ねてみた。

 しかし、涼子の問いに答えず、やはりシスターは手元の写真に食い入るように見入っている。

「あの〜」

沈黙が訪れ、数秒後、シスターはゆっくりと声を出す。

それに対し、光と涼子は彼女の顔を見ることで答えた。

 

 

 

 

「ここに写っているのって、アナタじゃありません?」

 

 

 

 

 

 


なんとも思わしげ

story by 仁々

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