~Kanon another short story~

 

はっぴーくりすます <あゆ

 

今日は祐一がこの街に来て最初のクリスマスだ

はじめは慣れなかったこの寒さにも、少し親しみがもてるようになった

というのは…

「祐一くん!」

「よっ 相変わらず、派手な登場だな」

こいつが… いま、俺の背中に顔から突っ込んでいる、こいつがいるからだろう

2人でいるときの暖かさは、この寒さが教えてくれた

だから、祐一は夏より、むしろ冬が好きになった

「うぐぅ 痛いよっ 祐一くんがちゃんと受けとめてくれないからだよっ」

そうそう。一日一度は「うぐぅ」を聞かないとなっ

「なんでだよ お前が勝手に突っ込んだんじゃ… あれっ?」

「な、なに?」

「あゆ…」

「なんなんだよっ」

「………」

「早く言って!」

「あゆ、羽、片方しかないぞ?」

「うぐぅ?」

 

「うぐぅ… ないよぅ どうしたんだろう」

「とりあえず、この辺にはないぞ。それからな、片方だけつけてると変だから、これもはずしとけ」

祐一は、あゆが背負っているリュックの、右側についているプラスチック製の羽を取ろうとした

数年前、ちょっとだけ流行っていた、天使のリュック

たぶん、いまだに現役で活躍しているリュックはこれだけじゃないだろうか…

「だめだよ…」

「え? なんで」

「だって、これ取っちゃったら、ボクの思い出が消えちゃう気がして…

 ボク、この一年間の思い出をこのリュックに入れてきたから…

 羽、なくなっちゃったら……」

悲しそうなあゆの表情が、祐一の心に突き刺さった

「わかった。探そう、あゆ

 今日はなんてったって、クリスマスイブだそ

 サンタさんがプレゼントしてくれるさ」

「う、うん」

あゆ、お前の笑顔、きっと取り戻してやる

俺にとって一番大切なものだからな

 

祐一とあゆは、あゆの記憶を頼りに、立ち寄った場所を探して歩いた

「あゆ、お前、食い物屋とおもちゃ屋にしか行ってないのか?」

「うぐぅ、そんなことないよぅ」

なかなか見つからないのだ

あゆの羽は、透明なプラスチックだが、ちょっと青みがかっている

それはまさにこの街の雪の色で、見つけにくいのだ

ほぼ南にあった太陽が、輝きを増して西の空に傾き、やがて街のイルミネーションが輝く

商店街の中央に設けられた時計台が、710分前を指した

祐一の恐れていた、雪が降り始めた

これで、ますます探しづらくなるのは必至だった

「祐一くん、もういいよ

 やっぱり、見つからないよ…」

「そんなことない。俺が必ず見つけるから」

「祐一くんだって、分かってるはずだよ…?」

あゆ…

ごめん

たぶん俺はわかってたのかもしれない

最初から、無理だって

けど、伝えたかったんだ

おれの気持ちを示したかったんだ

俺のエゴかな

でも、その気持ちはうそじゃない

だから……

「あゆ、今日はきっと、お前の卒業式なのかもな」

「そつぎょう…しき?」

「そうだ。天使の卒業式だ

 きっとさ、神様が、あゆはもう大丈夫だって、羽をはずしてくれたんだよ」

「………」

「思い出はきっとあゆの中に残ってる

 なければ、これからまた作ればいいんだ

 俺たちは、まだこれからだろ?」

「ゆういち くん…」

商店街の時計台が、7時を告げた

定番のクリスマスソングが奏でられ、サンタや天使が、時計の中から現れる

「あゆ、お約束すぎかな…」

祐一はそっと、頬にキスをした

「うぐぅ  ずるいよ、祐一くん。でも、ありがとう」

「ほら、他の天使たちも、祝福してくれてるぞ」

時計から出てきた天使たちは、音楽に乗ってゆっくり回り続ける

「うん。ボク、もう奇跡起こすの疲れちゃったから…

 これからが、ボクの本当のスタートなんだよね?」

「あぁ」

音楽がなりやみ、ひときわ明るく輝いていた商店街の広場が、落ち着きを取り戻した

「あゆ… ん?」

あゆの目は、祐一を捉えていない

「あゆ?」

祐一はあゆの視線を追った

“羽 135円 (プラスチック製)”

………… 雑貨屋のショーウインドーで輝いている………

 

「祐一くん、あったよっ ボク、あれでいいよ。プレゼント」

あぁ、あゆ。そんな最高の笑顔…

君の笑顔が35円とは……

てゆーか

サッキノカイワハ、ナンダッタンデスカ?

 

 

Fin