~Kanon another short story~

 

Best Feeling =前編=<美汐>

 

「祐一、猫さんだよ!」

「ああ、そうだな」

「ねこー ねこー」

猫のもとに駆け寄ろうとする名雪のコートを祐一はつかんだ

「やめとけ名雪。お前、猫アレルギーだろ」

「うー でもねこさんがいるんだよ。私を呼んでるよぉ」

「何いってんだよ。あとで苦しむのはお前なんだぞ」

「だって… ねこさん、かわいいんだもん…」

「ほら、予鈴だ。いくぞ」

「ねこさーん  ひどいよ祐一…」

祐一は名雪をずるずる引っ張って、教室に向かった

 

その1分後、ほとんどの生徒が急いで教室に向かっている中、美汐はゆっくり校門をくぐった

遠くで体育教師が 遅れるぞ! と叫んでいる

はぁ、また1日が始まるな…

美汐は上履きに履き替えながら、ため息をついた

美汐にとって、学校はなんの意味ももっていない。ただ、知識を得るための場所だ

教室に行っても、美汐の居場所はなかった

なんとなく、惰性で生きているような毎日

もう慣れてしまった

 

友達とおしゃべりをして、恋愛もして…

そういうのが嫌いなわけじゃない

いや、たぶんそうありたいと、どこかで思っている

でも… 私は……

 

にゃ〜

「ひゃっ」

あまりに突然だった。驚いた美汐はつい声をあげてしまった

足元を見ると、灰色の猫が足に擦り寄ってきている

「やだー あの猫汚い」

「ホントだー」

側を通り過ぎた女子生徒がささやくように言った

にゃ〜

確かに一般的に見ると、かわいいとは言えないかも…

でもどこか愛嬌があって、憎めない顔をしている

にゃ〜 にゃ〜

猫は一定のリズムで鳴きながら、美汐に体を寄せてきた

…あなたもひとりぼっちなの?

美汐はしばらく猫を見下ろしていたが、気を取り直したように顔を上げると、

振り返らずに教室へ歩き出した

 

昼休みになると、学食と売店に学生が集中する

特にはじめの10分間は戦場だ

あまり他人と関わりたくないので、美汐は授業が終わって15分してから売店に行くことにしている

どうしようかな…

この15分はいつもすることがなく、手持ち無沙汰なのだ

教室は弁当を持ってきている生徒たちでにぎやかで、一人でただ15分過ごすのは、辛くはないが、気持ちのいいものではない

とりあえず中庭に出てみる。今日は雪が降っていないが、いつもどおり寒いので、人はいないだろう

 

にゃ〜

「………」

にゃ〜

「また会いましたね

 猫は寒がりだと思っていたけど… あなたみたいな猫もいるんですね」

にゃ〜

「おなか、すいてるんですか? 私、売店でパン買ってくるから、ここで待っていて」

美汐は駆け出そうとして、もう一度、猫のほうに振り返った

「すぐ戻るから、待っててくださいね」

 

あの子、どんなのが好きなんだろう。猫など飼ったことがない美汐には分からない

あっ、シーチキンマヨネーズパン… これ、いいかもしれない

美汐は急いで代金を支払うと、中庭に向かった

「あれっ…」

灰色の猫の前に、見知らぬ女子生徒がいた

「わーい ねこさーん ねこさーん」

まるで子どものように、女子生徒は喜んでいる。リボンの色から、1つ上の2年生のようだ

にゃ〜

「困ったなぁ。なにも食べるものもってないんだよ… ごめんね」

美汐にとって、人に話し掛けるというのは、決して簡単なことではないが、せっかくパンを買ったのだから…

「あの、このパン… どうぞ」

「えっ! いいの? ありがとう〜」

美汐は長い髪のきれいな少女の隣に腰をおろした

「私、水瀬名雪っていうの。ねこさんが大好きなんだよー」

「みたいですね… あの、私は天野美汐です…」

「美汐ちゃんかぁ かわいい名前だね! あ、ねこさん嬉しそうだよー」

美汐には、名雪の方がよっぽど嬉しそうに見えたが…

「美汐ちゃんも、猫好きなんだね」

「え? どうして?」

「だって、このパンねこさんのために買ってきたんでしょ? シーチキンだし」

「そんなこと… ない… けど…」

「やさしいね」

「そんなことないです。私は冷たいですよ。友達もいないし」

「じゃあ私が一人目の友達だよー」

「……」

うにゃーん

「ほんと、嬉しそうですね」

「うん。でもこのねこさん、ちょっと汚れてるね」

「え? もとから灰色じゃないですか?」

「ううん。きっと、洗えば白くなるよ」

「じゃあ、こんど一緒にこのねこのシャンプーしませんか?」

「うん! あっ、もうお昼休み終わりだね」

「こんなに話したのは久しぶりでした。ありがとうございます」

「また話そうね、美汐ちゃん!」

「… はいっ!」

美汐は久しぶりに、笑顔だった

 

 

To be continue