~Kanon another short story~

 

Best Feeling =後編=<美汐>

 

どんっ

「きゃっ」

「えへへ、美汐ちゃん、驚いた?」

どうやら名雪がぶつかってきたらしかった

「……驚きました…」

「今日もまたねこさんと遊ぼうよ」

「ええ。でもあの猫、学校に住んでいるんですか?」

「そうみたいだね。国語の先生が餌あげちゃってから、ずっといるみたいだよ」

「でもこの季節、猫には辛いでしょうね」

「うん… 飼ってあげられればいいんだけど、私、猫アレルギーだからだめなんだよ」

「えっ? じゃあ猫と遊ぶのもだめじゃないですか」

「お母さんたちには秘密だよー」

 

猫と、名雪と出会って、1週間になる

猫の名前は名雪と考えて、ミカにした

あいかわらず猫は灰色だ。一度学校のシャワー室でシャンプーしようとして逃げられた

最近では授業がつまらなくなった。というより、終わるのが待ち遠しくなったのだ

昼休みの、名雪と猫と遊ぶ時間は、何かに包まれているようで、安心できる時間だった

放課後… この時間に猫を見ることはあまりない

名雪も部活があるらしい。しかも陸上部の部長さんらしく、かなり意外だった

美汐が教室を出ようとした時、数人のクラスメートが声をかけてきた

「天野さん、今日一緒にたいやき食べに行かない?」

「え?」

「しっぽまであんこが入ってるのはお約束だよ?」

「私も一緒に行っていいんですか?」

「だから誘ってるんだよ」

クラスメートと話すことなんて、授業の半活動くらいしかなかったから、美汐はうまくしゃべれるか心配だった

 

「私さ、天野さんってちょっと不思議な人なのかなって思ってたよ」

「そうですか?」

「それそれ。敬語使うし。私たちには普通でいいよ」

「わかりま… う、うん」

「そうそう。でもやっぱり天野さんも普通の女の子だったよ」

「あたりまだろ」

ちょっとボーイッシュな子がチョップした

「そういえば、私たちは天野さんのことなんて呼べばいいかな…」

「美汐でいいで… いいよ」

「わかったよ、美汐!」

 

何かが変わっているのは明らかだった

今まで友達をつくろうなんて、思いもしなかった

遠足のお昼の時とか、ちょっと寂しかったけど、一人の方が居心地がいいと思ってた

でも… 今日は楽しかったな…

安心できる空間が、少し増えたみたい

前はこの部屋の中だけだったのに

凍っていた心が、鮮やかに色づいていく… 美汐はそんなふうに感じた

 

次の日の昼休み

美汐が中庭に走ってやってくると、名雪がもう来ていた

「はやいですね、名雪さん」

「うん、でもねこさんいないんだよ ねこさーん ねこさーん?」

「そういえば…」

この時間には必ずここに居るはずの猫の姿がなかった

2人は一生懸命猫を探したが、結局その日、見つけることはできなかった

 

次の日も、その次の日も、猫はいなかった

「ねこさん、だれかに拾ってもらったのかな… きっとそうだよね」

名雪は寂しそうに、けどそれを隠そうと、明るい声で言った

もちろん美汐にも名雪にも、最悪の事態になっているかもしれないということはわかっている

野良猫が生きていくには、この街の気候はあまりにも厳しい

 

なんだか、心にぽっかりと穴が空いた気分だった

クラスの新しい友達が心配して声をかけてくれた

「美汐、顔色が悪いよ? 大丈夫?」

「う、うん。大丈夫、大丈夫…」

友達が心配してくれることが嬉しかった

けど、ミカ… 君がいないと、私明るくなれないよ

ミカと名雪とのあたたかい時間が、私には必要だよ…

 

 

 

その夜、美汐は夢を見た

真っ白な世界

何かが昇っていく

それは、金の輝く翼をもった、真っ白な猫だった

猫と目があった

ミカ… なの?

どうして私を置いていくの?

――まわりをみてごらん――

ミカが微笑んだように見えた

瞬間、真っ白な世界は、もっと真っ白になった…

 

 

 

「ねこさん、やっぱりいないねぇ」

名雪が呟く

「いいえ、私、みつけましたよ」

「どこ? どこにいるの?」

「ほら、私たちのここにいるんです」

美汐は胸に手をあてて、そういった

 

ねぇ、ミカ

私わかりました

私の周りには、はじめから愛情に満ちていて

あたたかい場所なんて、いっぱいあって

私は、みんなみんな、好きだったんだって

きっと気づくのがこわかったの

自分が変わってしまうことが、こわかったの

 

君は、灰色の君は、やっぱり天使なのかな?

真っ白な、天使なのかな?

 

ミカ

私ね、いま、最高にいい気分です

 

Fin