~Kanon another short story~
早起き大作戦 <名雪>
「香里ぃー ちょっと相談にのってくれないかなぁ」
「へぇー 名雪が相談事なんて珍しいじゃない。でもどうせ相沢君のことでしょ?」
「えっ なんで分かるの? 香里、超能力者?」
「名雪がわかりやすすぎなの! で、相沢君がどうしたって?」
「うん、あのね…」
「…なによ」
名雪の頬が少し赤く染まっている
「あの、私、祐一にお弁当作ってあげようとおもって」
「いいんじゃない? きっと相沢君驚くわね」
「うん、それでね…」
「好物でも聞いてきてほしいの?」
「ううん、祐一の好きなものは知ってるんだよ。祐一って、タコさんウインナーがすきなんだよぉ」
「……」
「それにね、お砂糖たっぷりの卵焼きつくって、おにぎり3つ作って…」
「で、何の相談があるのよ」
「う、うん。それで、お弁当作りたいんだけど、朝起きられないの」
香里は半分あきれているらしい
「どうすれば祐一に気づかれずに早起きできるかなぁ」
「………」
「ねぇ」
「そうね、名雪が相沢君のことをホントに好きなら起きられるんじゃない?」
自慢ではないが、名雪が早起きしたことは、17年間で数えるほどしかなかった
高校に入ってからも10時間睡眠はかわらず、目覚し時計の数だけは増え続けた
普段は祐一かお母さんが起こしにきてくれる。けど、それじゃお弁当はつくれない
香里が、夜のうちに作っとけばいいじゃない、っていってくれたけど、それじゃ祐一にばれちゃうかもしれないし
―名雪が相沢君のことをホントに好きなら起きられるんじゃない?
私は祐一のこと、大好き…かなぁ
試してみようか…
名雪はいくつもある目覚し時計の中から、ひとつだけを選んで、普段より1時間、はやく仕掛けた
私は祐一のこと、ホントにすきだもん… たぶん…
翌日、名雪は秋子さんの声で目覚めていた
「名雪、もう起きないと、遅刻するわよ」
「うにゅぅ いまなんじ?」
「7時よ」
「うわぁ、6時に起きるつもりだったのにっ」
階下から祐一の声が聞こえる
「名雪ぃー はやく飯食って学校行くぞー」
名雪はため息のついて、ベッドから起き上がった
あしたこそ祐一のためにがんばらないとっ!
自分に言い聞かせ、今日も1つだけ6時に仕掛ける
ホントは数十個の目覚ましを全部6時に仕掛けたかったが、それでは祐一が起きてしまうだろう
祐一… おやすみ 明日のお昼は私のお弁当だよ
それから3日間 祐一が弁当を食べる姿は見られない
私と、名雪と、北川君と相沢君。いつもの4人で学食へ向かう
名雪は見るからに元気がない。ひょっとして、私のせい…?
名雪は今夜も目覚ましをセットした
でもこれが最後。明日起きられなかったら、もうあきらめるつもりだった
自分の祐一への気持ちも、なんだか嘘のように感じられた
「………」
なに? 声が聞こえる
「名雪、……」
ゆういち?
「名雪、香里に聞いたよ。俺のために早起きしようとがんばってくれたんだってな
俺はお前がそんなふうに頑張ってくれて、うれしいよ。けど、無理なんかしなくていいんだぞ
俺はいまの名雪が大好きだから」
こんどははっきりと祐一の声が名雪の意識に届いた
「名雪……」
メッセージが繰り返される。そこでようやく名雪は声の主が目覚し時計だと気づいた
以前、名雪が祐一に貸した、声を録音するタイプだ
どうやら寝てる間に祐一がもってきたらしい
祐一… ありがとう 私も祐一のこと、大好きだよ
この日、名雪は6時に起きた
そのうちお母さんが起きてきて、祐一も起きてくる
祐一と目をあわすのが少し恥ずかしかった
学校へ行くと、香里が話し掛けてきた
「名雪、今日はちゃんと起きれた?」
「うん、ばっちりだよ。香里、いろいろありがとうね」
「別にいいわよ。で、どんなお弁当作ってきたの?」
「……お弁当……?」
「……あんた、まさか…」
「忘れてたよ…」