美術館の絵 |
| ここへ来ればまた会える 今日はいつもより少し早く来てみたよ 僕の心の中にある小さな美術館 すぐにいつもの絵の前に立ちたいけれど この美術館に敬意を表して 礼儀正しくそして行儀よく 身なりもきちんとして 思い出コースを守る僕 出会い 言葉 不安 驚き 確認 そして確信 やがて1枚の肖像画の前で立ち止まり 何時間でもそこに立っていたい気持ちに今日もまた 保存状態はいつも最高レベル 一番素敵な笑顔で僕を見つめるだけで 決して触れることのできない絵がそこに 優しく でも少し冷たく 離れていった君は そう、あれから美術館の絵になった 僕には届かない場所で 君はそこに居続けることになったのさ 防弾ガラスのケースに納まり 高いところで輝く君 今は何を考えて 僕のことをどれくらい忘れているのか あの頃と同じ夢を追っているのかも そして今は誰を愛しているのかなんて 僕は知らされる事などないまま 永遠にその微笑みを独り感じていく こうして君の絵を眺めていると 一度君を手に入れかけたあの頃が蘇る 寒い季節に寄り添って君を抱きしめていた あの頃 君は僕のそばにいたよね 僕の首元に顔を押し付けて 「ここにいるのが好き」って言っていたよね 君の気持ちの移り変わりを知らないまま 君を一人占めしていると信じて 僕はいつも陽気にはしゃいで 待ち合わせの場所へ駆けていった 僕の涙で君も泣かせてしまったあの日 君をぼんやり見送っていた時も こんな季節だったっけ 絞り出すように別れを切り出す君の横顔や そのあと握り締めた手の冷たささえも 全てが忘れたくないほど 大切な思い出になっていったあの日 人ごみの中で君が最後に残したものが 握手だったのかキスだったのか 今はもうどうでもいい 僕が真剣に君を愛したこと そして 君が僕だけの為に微笑んでいたことが 宝石のようにきらめいて たたずむ僕から全てが湧き出して泣き出しそうになる でも そこから誰かが完全に君を持ち去るか 僕が年老いて記憶をなくすまで 二人の間でこっそり起きたいくつかの 思い出の背景をからめたまま微笑んでいてくれよな やがて別れた時とおなじような時が迫るころ 閉館時間を知らせる鐘が聞こえて 僕はいつもの僕になる また近いうち来てもいいよね 君を見つめに来てもいいよね だってここは僕だけの 心の美術館なのだから |