悩めるボクに愛の手を
俺には、『恋』っていうものが、よくわからないんだ。
「おぉー、すっげぇ」
「げー…俺、興奮してんだけど」
「ヤバくねぇ? こんなの見せちゃっていいのかよ」
俺は友達の祐の家にいた。みんながテレビに寄ってたかって見ているのは、エロビデオだ。今、祐の家には誰もいないから、小声にする必要はないのだが、みんな自然にひそひそ声で、縮こまりながら話している。
「おい、祐、お前こんなのどうしたんだよ。借りてきたのか? もしかして、買ったとか?」
「んなんじゃねぇよ。こんなの、恥かしくて借りれねーし、買えねーよ!」
祐は笑いながら言った。そしてニヤリと笑って、
「兄貴の部屋にあったんだよ」
と、声を潜めて言った。
いつもなら俺も、みんなに加わって、バカ騒ぎをしているが、今日はエロビデオにも興味がわかず、みんなの様子を遠巻きに見ていた。祐も、ビデオはもう一度、兄貴と見たらしく、俺の隣でぼーっとしていた。
「どうしたんだよ勝。元気なくねぇ? ビデオ見ねーの?」
祐が静かな俺に気がついたらしく、顔を覗き込んできた。
「今、そーゆー気分じゃないんだ」
「何だよ、かっこつけやがって」
ビデオが終わったらしく、みんなが俺と祐の周りに集まっていた。
「別にかっこつけてなんかねーよ」
「じゃ、なんで見なかったんだよ」
「だからそういう気分じゃなかったんだよ」
「わっかんねーなぁ。そういう気分じゃなくても、興奮するけどなぁ」
「俺も普段はそうだよ。でも今女のことを考えたくない」
俺は真剣に言ったつもりだっかが、おかしく聞こえたらしく、みんな吹き出した。
「なんだよお前ー。なんかあったのか?」
けらけら笑いながら、祐が聞いてきた。
「・・・・・・」
「おら、勝。吐け吐け」
他の奴等が吐け吐けコールを始めた。俺は溜息をついたが、内心、誰かに話したかったらしく、ちょっとほっとしていた。
ここにいる奴等の顔を見渡す。ここにいるのは、俺と祐と、眼鏡の賢と、坊主の剛と、かっこいい涼の五人。
うん。大丈夫だ。口の軽い奴はいない。みんな俺の親友だ。
「実はさ、俺、告白されたんだよ」
しばらく静かになった。
「えー!!」
一番最初に反応したのは祐だった。
「誰に?」
「クラスの・・・女子に」
「誰だよ」
「それは・・・やばくね? お前らならいいかもだけど、やっぱ相手に悪いから言わない」
「それで、返事は?」
「明日でいいって言われたからさ。・・・なぁ、どうしよ?」
「付き合ってみれば? 悩んでるってことは、そう嫌な奴でもないんだろ?」
「うん・・・。でも話した事だって、全然ないんだぜ。何で俺? って感じなんだよ」
「そんなもんじゃねー? 好きな人なんてさ」
眼鏡を直しながら賢が言った。
「そんなもん・・・なら、なんで付き合いたいとか思うんだろ?」
「そりゃ、楽しいからじゃねぇの?」
「話したこともロクにない相手と付き合いだしたからって急に親しくなるか?」
「うーん・・・」
「俺、よくわかんねぇよ。付き合うとか、好きとか・・・」
告白された時、本当に驚いた。顔と名前を知っている程度の子だったから。多分クラスが違ったら、卒業するまで知らなかったかもしれない。
そういう子が、「ずっと好きだった」という。「よかったら付き合って」と。
付き合うって何をするんだ? 好きってなんだ? 話したこともないのに。俺はひとめぼれするほどかっこよくないぞ。話上手ってわけでもないぞ。
そりゃ、俺だって、女の子に興味がないってわけじゃない。エロビデオも見るし、可愛い子を見ると嬉しくなる。
でも、そういうのと好きって違うだろ。よく、わかんねぇよ。
「俺もよくわかんねぇ」
祐がぽつりと呟いた。俺も、俺も、とみんなが言った。
「どうしよ・・・」
「断りゃいいよ」
かっこいい涼が言った。
「俺もさ、告白されたこと、実はあるよ。でも俺は勝みたいに深く考えないで、さっさと断っちゃった」
「なんで?」
「だって」
涼はニカっと笑った。
「つまんなそーだったから」
「そんな・・・理由? 相手が好きだっていってんのに」
「んなの関係ねーよ。まずは自分だろ自分」
「そそ。勝は真面目すぎんだよー。相手を傷つけるとか思ってんのか? んな優しくねーだろ」
坊主頭をかきながら剛が笑った。
「はい、では質問デース。勝くん?」
祐が新聞紙を丸めて、マイクのように持った。
「ボクたち四人と遊ぶのとぉ、告白してくれた、可愛いィ女の子とデートするの、どちらが楽しいと思いますかァ?」
新聞紙を俺の方に向けた。祐の変な言い方に、俺は吹き出してしまった。
けらけら笑いながら、答える。答えなんか決まってる。
「キミたち四人と、遊ぶことでェす」
「ハイ。それがキミの、彼女に対する答えでェス」
祐が二カっと笑った。
そうか、こんなに簡単だったんだ。
あの子には悪いけど、つまらなそうだもんな。あの子にOKして、こいつらと遊ぶ時間が少なくなるのは嫌だし。
俺は俺が、楽しめる方を取らしてもらおう。
俺には、『恋』っていうものはわからないけど、まだまだそれでも、充分楽しいみたいだ。