ロストマン
辛い辛くないは、周りの状況が決めるんだと、ボクは最近知った。
長い長い道のりも、困難だらけの道のりも、友達がいれば楽しくなって、冒険になる。恋人がいれば幸せな旅路になる。
一緒に手を繋ぎながら歩く。他愛もない話をしながら、求めるものに辿りつく為に歩く。時々歌ったり、おいかけっこしたり、喧嘩したり、大きな声で笑ったりしながら歩く。
長い長い道のりなのに、困難だらけの道のりなのに、歩くのは嫌じゃない。
それは一人じゃないから。
「この地図にゴールを描くのが夢よ」
ボロボロの地図を丁寧に開きながら君は言った。その地図には、ボクらが今まで歩いてきた道のりが書き込まれている。
「ゴール?」
「そうよ。ここにあるのはスタート地点と現在地だけだから。ゴールがなくちゃ。目指すところがなくちゃ、この地図は完成しないわ。冒険の地図なんだから」
目指すところ? ボクは首をかしげた。
「ボクらは何を目指して歩いているんだっけ?」
「まあ、呆れた! 目的もなく歩いていたの?」
君は眉を吊り上げて、少し怒った顔をした。ボクが肩を竦めると、君は顔を和らげて、「しょうがないわね」と笑った。
「私たちは、ゴールに向かって歩いているのよ」
君の言葉にボクはまた首をかしげる。
「でもさっき、君はこの地図にゴールを描くのが夢だと言っていたじゃないか。君の言う通り、この地図にはスタート地点と現在地しかないよ。ゴールはどこ?」
「だからそれを探しているのよ。忘れちゃった? この旅がどうして始まったのか」
ボクは忘れていた。覚えている、と嘘をついてもしょうがないから、ためらいがちに頷くと、君は少し傷ついた顔をした。ボクの胸にも棘がちくんと刺さった。
「長い旅だったものね…。この旅は私たちが、…ううん、悲しい出来事に躓いて泣いている人、みんなが、幸せになれるところを探す旅なの。それが、私たちのゴールなの。私たち二人とも幸せになるために、一緒に旅を始めたじゃない」
ボクは少し考えた。この旅の始まりを思い出そうと記憶の糸を辿る。でも、頭に映るのは今まで歩いた色々な旅路だけ。
君は笑っている。君は泣いている。君は怒っている。君は悲しんでいる。
ボクの長い旅路の隣りには君がいる。それはずっとずっと一緒に旅をしてきたから。この旅を思い返して、浮かぶのは君の顔。
旅の始まり、君は、泣いている?
「旅の始め、君は、泣いているね」
君は俯いた。
「あなたも泣いていたのよ」
ボクも俯いた。思い出したよ、旅の始まり。
ボクと君は泣いていた。悲しみの波に流されてしまって、溺れそうになっていた。でも溺れたくはなかった。でも一人では泳ぎきれなかった。だからボクらは手を繋いだんだ。必死で泳いで、岸まで泳いで、ぼろぼろの体で起き上がった。そしてまた、歩き始めることにした。幸せになる為に。
ここがボクらのスタート地点。真っ白な地図にシルシをつけた。もう遠い日。
「ボクらは幸せになる為に歩いているんだね」
「そうよ。幸せになれる場所を探しているのよ」
幸せになれる場所。ボクは地図を見る。今まで辿ってきた所は、幸せになれる場所ではなかった?
ここは楽しかった。ああ、ここは痛い思いをしたな。ここは死にそうなほど辛くて悲しかった。ここは、涙が出るほど笑った。
色々な旅をした。良いものばかりじゃない。辛いことも、悲しいこともあった。それでもボクは、あの旅の始まりのように、悲しみの波に溺れることはなかった。
そう、ボクは……
「ボクはこの旅路、幸せだったよ」
君はボクを見上げた。最初は目を見開いて驚いたような顔、そのあと、目を反らした。
「そう……」
小さく呟く君の横顔はどこか悲しそう。その日はその後、一言も君は喋らなかった。
次の日、起きてみると、君がいない。君だけがいなかった。
ボクは走った。ボクは君の名前を叫びながら走った。次第に息が切れて、足が痛くなって、倒れこむまで、ボクは君の名前を叫びつづけた。
君がいなくなって開く地図。君を探して歩く旅路は、他の地図に描くことにした。
ここがスタート地点。ボクは真っ白な地図にシルシをつける。君を探す旅のスタート地点。
君と作っていた、幸せを探す地図は、君がいなくなった『現在地』で止まってしまった。でも、その『現在地』はボクにとってのゴール。そこでボクは、幸せを見つけてしまったから。幸せに気付いてしまったから。
君と旅をすること。君と歩くこと。幸せを探しながら君と歩くことが、ボクの幸せなんだと気付いてしまった。
けれど、幸せを失ってしまった。だからボクはまた旅を始める。今度の旅は、ゴールがわかっている旅。でも、どこにゴールがあるかはわからない。
ボクは今、一人で歩いている。そして君もきっと、一人で旅をしているんだろう。
そっちの様子はどうだい? 元気で頑張っているかい?
こっちは順調だよ。君を探して、旅をしている途中だよ。
君はその地図を完成させてね。悲しみに沈む全ての人が、幸せになれる場所へいける地図を作って。それが君の幸せなら。
ボクは君が居なくなって、少し寂しいけど、君と時々歌った歌を唄いながら、楽しく歩いているよ。
今はいるところは現在地。いつかゴールにつくから。
★あとがき★
勢いにまかせて描いたお話です。本当に未熟で、曖昧な部分は多いですが、
結構気に入ってます。
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