〜奇跡を信じぬ少年〜


奇跡とは何だろう?
幸也は疑問に思っていた。
幸也には恋人がいた。付き合っていたのは八ヶ月ほどであったが、絆は深かったように思える。
彼女の名前は、静歌(せいか)、元は幸也のクラスメイトであったのだが、ちょうど今日より一年前、クリスマスパーティーの夜に告白されて付き合いだしたのだ。
この出会いも奇跡だったし、今、二人がこうしているのも聖なる夜の奇跡のおかげだね。
静歌はあの夜そういった。幸也も照れくさくていえなかったが、心の奥では同じようなことを思っていたのだが。
「幸也、ほら次に行くよ」
さんたの声に、幸也の思考が一瞬にして引き戻された。
ここは重病人を入れるための病室である。二人がここに来たのは、恋人の意識回復を求める男に奇跡の可能性を渡すためである。
この奇跡の可能性を渡すとはどんなものなのかというとかなり簡単なことで、七色に光る粉を振り掛けるだけなのである。
そして、この粉をかけられたものがどれだけ聖夜の奇跡を信じきることができるのかによって奇跡は起きるのである。
「何ぼーとしてる、ほら行くよ」
「う…ん」
幸也は、男をしばらく眺めた後、さんたの後を追いかけて病室から外に出た。
「あの人に奇跡は、起きるんですか」
病室から出た後、あの男のことが気になって問いかけた。
「起きるかも知れないし、起きないかもしれない」
「そうですか」
「あれ、幸也は奇跡を信じてないんでしょ」
「信じてないですよ。ただ……」
目覚めたらいいとは思っていた。これが奇跡であれなんであれ、大事な人と別れ別れになるのはつらいことであることを幸也は知っていたからだ。
「そう、だけどどうなるかは本人の奇跡を信じる力だから」
うなだれる幸也を励ますような力強い声でさんたは答えた。
それからしばらく町のあちこちに奇跡の可能性をばらまいた。
歩けにない少年、いなくなった母親を探す女性、探し物をする老人、ケーキをねだる少女、いろいろな奇跡を信じる人に奇跡の可能性を渡した。
そして………。

二人がそこに来たときは、すでに日も落ちていた。
「さてと、ここで最後だけど」
「ここって」
二人が最後に来たのは、幸也がいた学校の寂しい屋上だった。
向かい側に見える屋上には、こことは違いかなりライトアップされ、その中心には大きなツリーが飾られてあった。
「最後の奇跡を求める人がくるまで、少し時間が余った見たい」
「俺、上で待ってます」
幸也は、顔をふせたままつらそうな声で言うと、空に向かって飛び上がろうとした。だが、
「待ちなさい、そろそろ話してもいいんじゃない。あなたが奇跡を信じない理由を」
さんたの言葉に幸也はその場で制止した。
「そろそろ信じてもらえてると思うんだけど」
幸也の足が地面に付く。
「そうですね、俺には静歌って言う彼女がいたんです。彼女と付き合いだしたのはちょうど去年の今日でした。あの時静歌は俺に出会ったことを付き合うようになったことを、今を奇跡だと言ったんですでも、俺が死んでからちょうど一ヶ月ほどしたあとのことでした、彼女が他の奴と付き合ってるのを見たんです。俺は、その時彼女にあった奇跡を憎みました。奇跡なんて信じられないってでも、今日、さんたさんに会って少し代わることができました。俺は奇跡を信じ抜くことができなかったんだって、それにいつまでも彼女にこんな思いを持ったままじゃただのストーカーですし」
そう言って幸也は笑った。悲しそうに笑った。
「そうなんだ、でも、その奇跡を信じることをいまだに続けている人がいるんだけど」
「え?」
さんたの不自然な言葉に幸也が疑問を投げかけた。
「来たようね」
さんたの言葉に合わせるように屋上のドアの開く音が聞こえた。
幸也の背中にはつーと汗が流れる感覚があった。


       



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