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「頑固者だな」
第一印象はそんなものだった。都電の小台停留所の近くで自転車を道路の縁 石にぶつけてしまった。前輪がスムーズに回らなくなって担ぎ込んだのが半 兵衛さんの自転車屋。
「どうしました?はぁはぁ、乗り上げたね。これはフレームが歪んだかな? 」
半兵衛さんは薄暗い店の奥から出てくるなり、ワタシの説明を聞こうともせ ず、腰を曲げて自転車を覗き込んだ。
「仕事中でしょう。なんだったら、ウチの自転車を使いなよ。時間がかかり そうだから。それに結構修理代もかかるよ。まぁ買い替えるよりは安く上が るだろうけど」
断定的で反論を許さないような口ぶりだ。しかし、けっして悪意は感じられ ない。ワタシが急いでいることも彼は瞬間的に見て取ったようだ。「頑固者 だな」ワタシは勧められるままに自転車を借りることにした。借りたママチ ャリをすこし走らせて、驚いたのはその乗りやすさだ。ペダルが軽く、足の 力が少しの無駄も無く車輪に伝わる感じがする。ワタシは、ほんの100mも走 らないうちに、自分の自転車を壊してしまった悔しさも忘れ、すっかり楽し い気分になっていた。
それから二度三度と半兵衛さんの店を訪ねるうち、作業場の奥で半兵衛さん がいれた渋いお茶をご馳走になるようになった。そしてついに、半兵衛さん が親しみをこめて「ヒマ親父たち」と呼んでいる連中と同様に、用事も無い のに立ち寄るようになってしまった。
ワタシは田端の駅近くで小さな広告代理店−そう名乗れば聞こえはいいが、 広告チラシを家々のポストにくまなく投入する仕事を主にしている会社―を 経営している。得意先が半兵衛さんの店の周りに数件あり、週に2・3度は出 かけてゆく。その度に、オクムラ自転車屋の奥に「ヒマ親父たち」に混ざっ て車座になり、世間話に花を咲かせているのである。
さて、この日記とも小説ともつかぬ、だらだらとした物語は、半兵衛さんが 時折発する辛辣ともいえる社会批判あるいはグチを中心として、下町の人間 模様を描き、そしてやがてはミステリーへと発展する、インターネットの小 説サイトの新しい形を追求しようとする作品である。
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