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「ごめん、そういうの受け取れないから。」

葉月珪は目の前に差し出されたプレゼントを拒否した。
拒否された方、女の子は茫然自失。本人より連れ添った女の子の方が口を出すものだ。

「この子、葉月君の誕生日にプレゼント渡したいだけなの。受け取ってあげて。」

「ごめん…受け取れない。じゃ!」

それだけ言い残すと立ち去る珪。
残された少女はガクッとうなだれて友達に付き添われてトボトボと教室へと帰る。
きっと教室につくまでに「葉月珪は冷たい男!」と言いふらすのであろう。
そんな事は珪の気にする所でもない。



「…先、来てた?」

珪の顔が先ほどと違って優しく和む。視線の先には一人の少女と…。

「にゃ〜。」

可愛い子猫達。は校舎の裏にひっそりと住みついたネコ達とじゃれ合っていたのだ。

「今、ミルクあげたとこ。ほら!珪くんとこに行って。」

はそっと子猫達を珪に渡す。子猫達は珪の腕の中で無邪気にじゃれ合っている。
目を細めて愛しおしむ珪。は彼のこの優しい一面を見るのが好きだ。
だから…。

「教室ですれ違う事もあるのに…なんで快く受け取らなかったの?」

の言葉に珪はふと顔をあげる。いつものクールな珪の表情。

「見てた?」

「うん。珪くんの声がするのになかなか来ないからつい…。
私のクラスの子達だったね。松本さん、泣いてたよ。」

「気安く受け取る方がひどいと思うけどな、俺は。」

珪との間に少しの間、冷たい空気が流れる。
「今日」と言う特別な日にこれ以上、珪と気まずくなりたくない。
しかし目の前で珪の冷たい一面を見てしまうとは自分とリンクしてしまう。

に他の女の気を使って欲しくない。気にするな。」

「う…ん。」

うつむくを見て珪は…。

「きゃっ!!!」

ペロッと頬を舐められてビックリする
珪は子猫を手に取りの顔の前に差し出すと見事にペロッと舌で舐めてくれた。
そして一言「にゃ〜」と。

「『』」も気にするなってさ。

「う〜〜〜〜もう!」

ようやくが笑顔を見せてくれた。珪の好きな表情。
猫のようにコロコロ変わる表情。それを本人は気づいていないようだが。

「私、そろそろ帰るね。あなた達は珪くんに甘えさせてもらいなさいね!」

はそう言うと鞄を持って立ち上がる。しかし珪は。

「きゃ!」

グイッと腕を引っ張って強引にを座らせる。
大きな衝撃に子猫達の動きがピタリと止まる。が、すぐに兄弟とじゃれ合いだした。

「もう少し一緒にいろよ。」

「珪くん…?」

「一緒にいたい。」

珪は校舎の壁に寄りかかってを横に座らせる。
目の前の子猫達の遊ぶ様子を見つめつつ二人の間にしばしの沈黙。
は悩みあぐねて鞄の横から紙袋を取り出した。

「あの…これ。」

オズオズと差し出された紙袋の中には綺麗にラッピングされたプレゼント。
珪はそれを両手で受け取った。

「誕生日おめでとう。」

「サンキュ。」

先ほどと違って優しい微笑。は内心、ホッとしていた。

「開けていいか?」

珪は言うと同時に丁寧にラッピングをはがす。
はドキドキしながら彼の反応を待っていたが。

「ジグソーパズル…いいな、これ。」

『子猫のジグソーパズル』に珪の表情が一気にやわらかくなる。
目を細めてじっくり眺めている彼の様子にはホッと胸を撫で下ろす。

「あんまり可愛かったからこれに決めちゃったの。」

「ああ、サンキュ。組み立てて部屋に飾る。俺、呼ぶから。」

大事に包んで再び紙袋へと戻す。
珪は自分の鞄の傍に袋を置いてふと横を見る。ホッと息をついていると視線がぶつかる。

「もらえないかと思った。帰るなんて言い出すから。」

「え?!もしかして袋の中身、気づいてた?」

「上から見えた。このまま来年まで持ち越されたらやだから…催促したようなもんだな、俺。」

「…どうしようかと思ってたの。
珪くんの誕生日だから絶対あげたいな〜と思ってたけど目の前で先越されちゃって。
断られるのも怖いけど私より先にプレゼント受け取ったら…正直、嫌だった。
色々考えたら何だか渡し辛くて。結局は自分の事ばかりで…。」

「それでいいよ。」

「え?」

の顔を隠すように珪の顔が近づく。
珪は触れるだけのキスを彼女にするとの肩にピッタリと寄り添う。
は…気が動転して顔を上げられないでいた。

「おまえは他のコの事を気にして欲しくない。
外野がどうであろうとおまえが俺を嫌いにならなきゃそれでいいよ。」

「嫌いになんて…ならないよ。その逆が怖い。」

「逆?」

一瞬見せた彼女の本音。心のどこかで抱えた不安。
珪はそんな彼女の不安を拭う様に手をとってギュウっと握る。

「珪…くん…。」

再び重なる唇。
お互いの感触を確かめ合うように…の不安を拭い去るように何度も何度も離れては重なり合う。

「好きだよ、。」

目の前に珪がいる。唇が触れる寸前で囁かれての顔は耳まで真っ赤だ。
ゾクゾクする。
校庭の壁にすがってなければこのまま卒倒しそうな位、意識が遠のく。

「…?」

「私も…珪くんが好き。」

肩にすがるのがやっと。は珪の顔もまともに見れずにいた。

「ああ。」

彼女の手の上に珪の手が重なる。と、同時に校舎に鐘の音が鳴り響く。

「…そろそろ校門、閉められるかな。」

この時間を名残惜しそうにたたずむ二人。
もう少しこのままでいたくても時間は容赦なく過ぎていく。

「あのね…この前、ケーキの美味しい店を見つけたの。
内装もシンプルで珪くんも入りやすいお店だと思うから…行かない?
誕生日のお祝い、二人でしよ?」

「ああ。」

の頬が少し赤い…位まで回復していた。
珪が先に立って彼女の手をとる。彼の目の前では相変わらず子猫達が仲良く戯れていた。

「来年はおまえの手作りがいいな。」

「…うん。」

はニコッと微笑んで珪に心地よく返事を返してくれた。
また来年。その次もずっと傍にいたい。それだけでいい。

「また明日な。」

「美味しいミルク持ってくるからね。」

猫達に帰宅の挨拶をすると二人は寄り添うように秘密の場所を後にした。