Arthur's Queen, Guinevere (in Welsh Gwenhwyfar), her name means White Phantom. Arthur chose to marry Guinevere against Merlin's advice. The wise wizard prophesied that the queen's beauty would bring about the destruction of Arthur's kingdom.
素性が明らかになったその日から、モルガンは請われてキャメロットに滞在することになった。 初めはそれこそあからさまに嫌がっていたが、母イグレーヌが宴会の席に出席するためここに逗留するとマーリンに宣告され、しぶしぶ従った。 ――全てが白日の下に晒され、どこか張りつめていた糸が切れたような、そんな様子で。 彼女は物心ついて初めて、アヴァロン以外の場所で三ヶ月を過ごした。 アーサーは異父弟として、常に付かず離れずの位置で彼女に接した。 日中は王の執務に奔走し、夜は夜で、戦場に出ていた間に溜まっていた懸案事項に忙殺されていた。 それでも、彼女が傍にいると思うだけで、不思議と心は満たされた。 とはいえ、少しは共に過ごす時間も持った。 時には二人で、キケロやカエサルの書物について話をしたり、政治や宗教について論じたりもした。 驚いたことに、エクター卿の元でローマ風の教養を身に付けたアーサーと同じ程度に、彼女も様々な知識を体得していた。 俗界から切り離されたような環境でも、彼の地にはあらゆる事象を見渡す術があるらしかった。 ただし、物を見る視点はやはり独特で、ローマ人の造った街道や水道を彼女はことごとく忌み嫌った。 『樹を切り倒して大地を殺し、泉を壊して石の中を通った水を使うなんて』 ――そう云って、大地を穢すローマ人の傲慢を非難した。 またキリストの教えをも同じ目線で、まるで思想家の一人を評するように云ってのけた。 『救世主と言う割には、少々やり方があざといと思うわ』。 そうした意見を女性が云うこと自体がこの時勢では珍しく、アーサーはいつも興味深げに耳を傾けた。 彼女の存在そのものが、彼にとっては興味の対象に他ならなかった。 そんな風にして、瞬く間に月日は流れた。 ――このとき、彼はあまりにも幸せで、いろいろなことを見過ごした。 例えば、彼女が侍女たちに身の回りの世話をされることに慣れず、身に触れられることを極端に嫌がっていたこと。 時には時点鐘を鳴らす塔の上に立って、鳥たちを呼び寄せて話しかけていたこと。 食事の席で丸焼きにされた鹿や兎の肉を見るたびに、白い顔を更に蒼白にしていたこと。 中庭にある大きな樫の木に寄り添って、気を失ったように一日を過ごすこともあった。 それら全てを、彼は気付かない素振りでやり過ごした。 …あるいは、見て見ぬ振りをした。 *** 五旬節の祝宴は、アーサーの威勢を示すように、方々から何十人もの騎士を引き連れた諸侯が集う盛大なものとなった。 即位した後、当初はロンドン周辺の征圧を目標にしてきたが、今では王国の南半分を間接的にせよ勢力下に置くまでになっている。 その晴れの席で、王の出自について改めて生きた証拠、――つまり母のイグレーヌが、父王の代から仕える譜代の家臣であるウルフィウス卿とエクター卿によって紹介された。 彼女を知る領主達はこれによって王の出生に納得の言を漏らし、イグレーヌを知らぬ者達も、王と母君とを見比べて、その容貌の類似に証を見出した。 とはいえ、いくら確かな証とはいえども、アーサーが挙兵した時の無力な少年のままであったなら、こんなことを証明しようとも何の意味も持たなかった。 彼が自らの手で力を誇示してみせたからこそ、この茶番もわざわざ見せつける価値がある。 アーサーもマーリンも、このことを誰よりよく承知していた。 ――即位したての頃、彼に見せつけるようにしてわざわざ大勢の騎士を引き連れて恫喝してきた諸侯が、今では彼の顔色を伺いにやってくる。 それが、四年の戦いで彼が得た成果だった。 「色男のランスロット卿は、一体どなたに見惚れておいでかな」 無意識にぼうっと上座にいる王を眺めていたランスロットは、横からかかった声に意識を引き戻された。 「…ああ、陛下をね…」 誰を見ていたのか、と云われたものと思って返答した彼は、盛大なため息と共に頭を小突かれた。 「陛下に見惚れてどうするのだ、卿は。それよりも見るべき花が横にいらっしゃるだろう」 「花…?」 ああそうか、と視線を横にずらすと、アーサーの脇に位置を占める女性の姿が目に入った。 宴の初めに王の姉君と紹介された二人の御婦人。モルガンと、上の姉であるモルゴース。 「我が母上もまだまだお美しくていらっしゃるが、叔母君は本当にお若い。しかも麗しい。あのような方が叔母に当たるとは。……非常に、無念だ」 非常に、のところをいやに強調して、彼はわざとらしく嘆息した。 確かに、モルガンが身分に見合った衣装を身に纏ったところは彼も初めて見た。 いつもの質素なローブとは違い、スカーレット織りの布地に金糸の縫い取りを施した、豪奢な正装を着た彼女は、神秘的な髪と瞳も加わって、紛う事なき美姫であった。 それが証拠に、先程から彼女に向けて、意味ありげな視線が方々から集中している。 その真向かいに座るモルゴースは、モルガンの姉というよりはアーサーの姉そのものといった容姿で、温かみのある濃い目の金髪に薄い碧眼を持つ、落ちついた貴婦人だった。 彼女と王は二人とも、この場からは退出したイグレーヌとよく似ていた。 「…そういえば、君は陛下の甥御に当たられるわけだな、ガウェイン」 モルゴースから転じて、ランスは横にいた若い騎士、…まだ叙されて間もない、といった年格好の少年に目を向けた。 彼は母であるロト王の王妃、モルゴースとは毛色の違う顔つきで、『私は父似だからな、これもまた残念なことに』と自ら云うだけあって、父王譲りの男らしい容貌をしていた。 彼…ガウェインは、王の嫡子として恵まれた環境に育ったにしては豪放磊落な性で、どんな境遇にあっても平気で自分のスタンスを保つことのできる戦士でもある。 素朴で男気のある性格で、多くの騎士たちに慕われてもいた。 「ああ。確かに陛下の甥であるということは私にとって誉れであり、喜ばしいことには違いない。だが…、陛下にお仕えする上ではあまり関係はないさ! 叔父上としてではなく、我が君として、私は陛下を尊敬申し上げているのだから」 照れくさそうに、ワインを傾けつつそう云う彼を見て、ランスは羨ましさとともに、少々妬ましさも感じざるを得なかった。 「…君はいい男だな、本当に」 「――残念だが、君が麗しい女性だったら、喜んでその賛辞を受けたよ。だがなあ…」 片眉をそびやかし、そう云ってにやりと笑い、ガウェインは野兎の肉に齧り付いた。 『おおよそ、事態は理想通りに動いている。』 ――そう考えているのだろうな、と推し量りながら、アーサーは背後にいたマーリンをそっと視界に入れた。 それがわかるのは、自分も彼と同じ尺度で物事を見据えることができるようになったからだ。 マーリンのような常人を超えた能力は無いとしても、洞察力と判断力とがあれば、ある程度の推察は容易に出来る。 自分に王たる資質があるとするならば、この能力――すなわち、人材を見抜く力、そしてその人材を活用する判断力があることだろう、とアーサーは思う。 マーリンのことを用いるのは、彼が他にはない才を持つ有用な人材だからだ。 それ故に、嫌悪の情にかからわず、自分は彼を顧問に任命した。 …だが同じ理由で、しかし正反対に。 アーサーは自身の心の寄るべだった義父と義兄を重用することができなくなった。 今でも、昔と変わらずに彼らを愛し、慕っている。 それなのに、王として、一軍の将として判断したとき、彼らを必要以上に用いることは適切ではなかった。 無論、彼らは秀でた騎士であり、それなりの役職に就けて自分の側で活躍してもらうことはできる。 事実、即位してすぐにケイ卿を国務長官に任じたが、エクター卿の功績と鑑みられたのだろう、ほとんど反対はなかった。 しかし彼ら以上に優れた騎士――例えばランスロットやガウェイン――と比べて、どう贔屓目に見たとしても特別扱いすることはできなかった。 それだけでなく、縁故の者を特別な功無しに用いることは、王としての彼の公正さを問われることになる。 …自分がこんな風に、人間を物のように、有用かそうでないか、使えるか使えないかで見定める『支配者の思考』をするようになったと気付いたとき、アーサーは愕然とし、次に本気で自分に嫌気がさした。 ただ、もう後戻りはできないこと、昔のように無邪気ではいられないことを身に沁みて知ってもいた。 ――そんなとき、ジレンマに苦しんでいた自分を、『彼女』は救ってくれた。ただ傍にいるだけで。 本当に苦しくて堪らなかったときに、自分の痛みを分け合ってくれた。 四年の闘いを経て、彼は自らに必要不可欠な存在を痛感した。 だからこそ、必ず手に入れてみせる――そう決心して、そのときから考え始めた。 どうすれば叶うか。どうすれば、やりすごせるか。 マーリンがこのことに反対するとしたら、それはアーサーの治世に影を落とし、ひいては王国の安寧に影響する場合に限られた。 複雑なようで、分かってみれば彼の思考は案外単純だった。 嵐や雷をやりすごす方法を考えるように、少し頭を働かせれば、彼を出し抜く手を打つこともできる。 要は妥協点を見つけること、そして自分の役割を完璧に果たすこと。 それさえできればいい。―― 「陛下、先程のお話ですが。承諾の返事をしても宜しいでしょうか?」 執事のルーカン卿が横に廻って、こっそりと耳打ちをしてきた。 先方の意向も確認できたのだろう。興奮しているせいか、人の良さそうな顔がいつにも増して赤かった。 「…ああ。――マーリン、そなたの意見は?」 「……賛成は致しかねる。が、王がようやく同意なされたものを否定するわけにもいきますまい…」 無表情のまま渋面を作るという器用な一面を見せ、マーリンは条件付きの賛同を示した。 「…だそうだ。ルーカン卿、あとの交渉は頼むよ。…いや。そうだな、ここで云ってしまおうか」 「は? 陛下、なんと――」 「皆、その場で聞いてくれないか」 アーサーは立ち上がり、戦場で鍛えた張りのある声で、大広間の隅々にまで聞こえるように朗々と語りかけた。 「これまで、主のいない王国で皆を苦しめた混乱と悪徳はもはや一掃された。私は今ここで、卿らにこれから先の、この地の平和と繁栄とを約しよう。我が力の及ぶ限り、私はこの誓いを守り、正義と秩序によってこの国を治めると宣言する」 力強い《上王》の誓約に、広間が震えるほどの歓声と歓呼が鳴り響く。 アーサーの言葉に王国の長い混乱を思い起こし、思わず感涙にむせぶ者もいた。部屋の隅では、感慨にふける義父の姿も見えた。 …だが、彼自身は、他人事のように冷静だった。 (これから、私は皆が望む理想の王でありつづけねばならない…) 「そして、今日は皆に報告することがある。…ああ、慶事だから、安心して聞いてくれ」 王の冗談めいた言い方に、軽い笑いが起こる。 すわ、と色めきたった者も多かった。予てより噂されてきたことだ。 「私はカメラードのロデグランス王に、ある申し込みをした。遠からぬうちに、王の美しい姫君は、王妃として我が傍らに立つことになるだろう」 この突然の報せに、先程よりもなお一層大きな歓呼が広間を包んだ。 誰もが口々に、これから先の繁栄と豊穣とを確信して喜び合う。 ――アーサーの声にならないもう一つの誓いには、誰も気付くことはなかった。 (この玉座と引き換えに、私は必ず手にする。絶対に、妥協できないものを) ――そう。これは、その第一歩。 *** 祝宴の三月後、王妃となるべき姫君を迎えに赴く使者に、ランスロットが任じられた。 大役に逡巡した彼も、直々の頼みを断りきれず、緊張の面持ちでキャメロットを旅立っていった。 カメラードまでは、普通ならば半月もかからない距離だが、今回は仰々しい嫁入り道具を連ねた花嫁行列となるため、数ヶ月はかかることになるだろうと思われた。 アーサーの本心を知るランスロットは、そんな長旅になる予定の出発に際して、王に遠慮がちに意図を窺った。 だが、明確な返答はなく、アーサーはいつもの微笑で彼を送り出した。 『私は王妃として、最もふさわしい姫君を選んだつもりだよ』 (では、政略結婚と割り切って妻に迎えるということですか、アーサー…) 行く道すがら、ランスは複雑な心境で悩みこんだ。 初めから王妃としてしか見られないとしたら、どんなにか相手の姫君は悲しむことだろう。 だが、一地方に勢力を誇る王の娘として、生まれたときから名も知らぬ相手に嫁がされる境遇を当然として育った女性ならば、それほど不思議とも思わないのかもしれない。 自分やアーサーの女性観のほうが、あの中では異色なのだから。 (できれば、そういう心積もりのある、大人の女性がいいのだろうな。アーサーは王妃として出来る限り遇するつもりだろうから、女主人として宮廷を取り仕切ることになるだろう。《上王》の妃、宮廷の中心となる貴婦人。そんな称号で自尊心が満たされて、満足するような…) そんなランスロットの抱いたわずかな、淡い期待も。 しかし、カメラードに到着し、王に手を引かれた姫君の姿を見た途端、粉々に打ち砕かれた。 「初めまして、ランスロット様。ロデグランス王の娘、グウィネヴィアと申します。道中よろしくお守り下さいませ」 年齢の頃12、3の、それは愛らしく可憐な姫が、花がほころぶような笑顔でそう云った。 ランスロットがかすかに苦しそうな顔をすると、心配そうに小首をかしげ、…その拍子に、黒い巻き毛を象る清楚な白いベールがふわりと揺れた。 彼女はマントの裾を優雅に抑え、胸の飾り紐に少し指をかけた、まさに絵に描いたような、理想的な淑女の様で現れた。 幼いながらも大切に慈しまれ、躾られた、王女の気品に満ちていた。 ――だがその表情は。 彼の予想とはまるで違う、期待と不安に彩られた、普通の少女そのものだった。 *** 「…何故、あれに命じた?」 「それは勿論、彼が、私の第一の友だからだよ。未来の妻とは仲良くなって欲しいと思ってね」 細心の注意を払って、自信に満ちた、楽しげな微笑を形作る。 もうすぐ国を平定し、王妃を迎え、順風満帆な人生を送ろうとしている、偉大なる若き王。 (おそらくは、こういう表情をしているものだろう?) 「ならばよいが、…。なにやら不吉の芽があるように思えてならぬ。我にはこうした兆しが気に障って仕方がない」 「先が視えるというのも不便なものだな。今の所は、万事そなたの思い通りに進んでいるのではないのか?」 「…心外なおっしゃりようだな、王よ。所詮は、我のすることなど、少しばかりの気休めをしているにすぎぬのです。如何に緻密に事を治めようとしたところで、結局は強い星辰の下にある者が全てを決する。――貴方やあの若者、そして、あの娘のような…」 「――だから、彼も共に育てたのか? つくづく思うが、ランスは私の半身だな。互いに入れ替わっていて。…どうせなら、私と共にエクター卿に預けてくれればよかったものを。彼があの異界でどれほど疎外感に苦しんだか知っていよう? それに、そのほうがそなたにも都合が良かっただろうに」 「どう転ぶかは分からぬもの。今も、この先も…」 達観した彼の表情が、アーサーには久々に小憎らしかった。 分かっているようで、全く分かっていないのだ、この老人は。 (…共に育っていたなら、少なくともこんな事態は防げたんだよ、ご老人。最も、そちらの思惑としては、あの二人を結びつけようと画策していたのだろうけれど) (……。) ――そこまで考えて、彼はふと自嘲せざるを得なかった。 人のことを言えた義理ではなかった。 ランスに対して思いやりが足りないなどと、よくも云えたものだ――恥ずかしげもなく。 自分は今、彼に同じ事をしようとしているのではなかったか? (分かっていないのは、僕も同じか) *** 「陛下はまだ二十ほどの、お若い方なのでしょう? どんなご様子でいらっしゃるのですか?」 「陛下は、私より少し年上なのですが、ずっと落ちついておいでで、お若いのに威厳もおありです。近頃では、崇拝の目で眺める者も多いですよ。…その、失礼ですが、姫はお幾つなのですか?」 「わたくしは、今年十二になります。あの、それほど幼く見えますか?」 「そういうわけではないですよ。ただ、てっきり陛下と同じくらいの年の方かと思っておりましたので…」 キャメロットへ向かう間中、少女は臆することなくランスに話しかけ、アーサーや宮廷の様子をつぶさに質問した。 元々物怖じしない性格なのだろうが、可愛がられて育った生い立ちがすぐに読み取れるような、そんな快活な話し方をした。 ランスは自分よりも幼い少女と会話すること自体が初めてで、もし妹がいたらこんな感じなのだろうかと、くすぐったいような気持ちを覚えた。 彼女は素直で無邪気で明るくて、無条件に守ってあげたいと思わずにはいられない。 だが当然、見知らぬ宮廷に王妃として迎えられることには不安があるのだろう。 ランスの問いかけを気にして、少女はわずかに俯いた。 「…お母様は、まだ早いと反対なさったのですけど、お父様は是非にと…。それは素晴らしい王でいらっしゃるから、きっと幸せになれる、と」 「……」 「陛下は、お優しい方でいらっしゃるのでしょう…?」 救いを求めるように、同意を促す少女の問いに、答えないわけにはいかなかった。 「…ええ。とても、寛大で公正な王でいらっしゃいますよ。私は、生涯あの方だけにお仕えする覚悟です。命ある限り、誠実に」 「まあ…。でも、そんな風に誓約してしまってよろしいの? だって、貴方のことをもっと評価して、厚遇して下さる主君がこれから先にいらっしゃるかもしれないのに」 「それでも、どんなことがあっても、です。私が自分に課した誓いです。あの方は、私を騎士として認めてくださった初めての――そう、恩人なのです」 その熱っぽい応えに、グウィネヴィアは嬉しそうに顔をほころばせた。 「そんな方にお仕え出来るのは幸せね。きっと、陛下も貴方のことを大事に思っていらっしゃるのね…」 「いえ、そんな…。その、貴女のことも、きっと大切にして下さると思います。…私が、保証いたします」 「ありがとう。ランスロット様は、陛下を本当に慕っていらっしゃるのね。…あのね、怒らないで聞いて下さる? わたくし、初めは貴方のことを宮廷の侍従か何かだと思ったの。だって、見たことがないくらい、とてもお綺麗だったのですもの。でも武勇で名高い騎士様だと聞いて、とても驚いたわ!――わたくし」 グウィネヴィアはそこで、顔を上げて明るく微笑んだ。 その健気な様子を見て、ランスはますます胸が痛んだ。 この姫君は、新しい居場所で懸命に生きようとしている。新しい家族となるアーサーに尽くそうと、愛されようとしている。―― 「わたくしも、陛下に一番にお仕えするつもりなの。…ランスロット様に負けないように、競争しなくてはいけないわ」 (…ああ、アーサー! この少女は、真に貴方の王妃になるべき方です。そして、貴方に愛されなくては生きていけないでしょう。お願いですから、この笑顔を曇らせてないであげて下さい――!) キャメロットで迎えに出たアーサーの手に、グウィネヴィアの手を預けたとき、ランスロットは祈るような気持ちでそう願った。 柔らかく微笑むアーサーと、頬を染めておずおずと彼の傍に寄り添うグウィネヴィアは、本当に似合いの一対になるだろうと思われた。 ――だが。 キャメロットに戻って早々、ランスロットはアーサーから私室に呼ばれた。 この際だからと、王妃を大切にしてほしいと僭越ながら進言しようと心に決めて、彼は意気込んで部屋へ向かった。 ところがそこで、昼間にはかけらも見せなかった、王の憔悴しきった顔を目の当たりにして、ランスはとっさに言葉を失ってしまった。 アーサーは拳を組み合わせて、絞るような声で懇願した。 「戻ったばかりで、またすぐにこんな依頼をして本当にすまない。…だが、君にしか頼めないんだ。何度も喚びかけたし、八方手を尽くして探させた。自分であの森に赴いてもみた。けれど、駄目だった。僕の前に《扉》は開かなかった。彼の地に招かれる人間は、やはり限られているんだ。――頼む。君なら入ることができるかもしれない。彼女を、探してきてくれないか。お願いだ……」 まさか、というより、やはり、という思いが胸に湧き上がった。 やはり、王は諦めてはいなかったのだ。 あれほどの想いを消し去ることなど、出来るはずがなかったのだ――。
・・・to be continued.
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