missing piece
 


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 ラボにいたときと違って外出は許されていたので、時には外で買い物もした。
 食糧難は日毎に増していて、町を歩いたとしてもどうせろくに品物は手に入らない。
 けれど、あちこちを見てまわるだけでも面白かった。
 「合成タンパク…芋羊羹?」
 「ああ、それ? まあ粉っぽくて食えたモンじゃない粗悪品だけどよ。やっぱり甘い物は楽しみだからねえ。」
 「…そうだな、もらおう。」
 「まいど。……ってこれ…」
 差し出したカードを見て、相手が凍りついた。
 軍関係者でも余程の高官にしか許されない無制限の配給ポイント。何故こんな小娘が、と不気味な目を向けられる。
 だが、客は客だ。しかも上客。
 こちらがじろっと睨みつけると、ガラリと態度を変え、主人は愛想たっぷりで送り出した。
 「またどうぞ、お嬢さん!」
 自室で買ってきた芋羊羹を食べた。代用の、粗悪品。
 それでもいいはずだ。必要とされているのなら。
 そう納得しているのに、…なぜ苦しいのだろう?
 

 
 
                            *
 

 
 
 彼とそういう関係になってから、次第に遠慮なく、あからさまに揶揄されることも増えた。
 『竜師専属の娼婦』、『何度でも蘇る、芝村の亡霊』…。
 特に気にはならなかった。実際そのとおりだったので。
 むしろ問題は、その内容のほうだった。
 『何度でも蘇る』
 何故、蘇らなければならないのか。――何故、死んだのか?
 
 
 
 「…で、どうして私に聞くんです?」
 「貴方なら知っているはずだと思ったので。…自分が女衒呼ばわりされているのをご存知ない?」
 「それは、初耳ですね。」
 そう云いつつ、善行は眼鏡の奥の瞳を面白そうに閃かせた。
 …今まで『彼女』が自分に直接問いただしてきた例はなかった。これは、珍しい。

 「たまたま不幸な事故が重なっただけでしょう。あなたは量産型ではない…いわば、テストケースですから」
 「それにしても、少々穏やかならぬ例が多すぎないか? 二人が縊死、一人は第二種損傷により廃棄。…」
 つまり、自殺と第二種…精神障害。しかも廃棄するほど、重度の。
 「私と同じ操作を受け、調整された備品がこうまで破損している。気にしてもかまわないはずだ。何故だ?」
 「私には理解しかねます。本当にね。――あなたはどう思うんです? 誰よりも正確に、彼女達の心情をトレースしうるはずですが」
 「…」
 「原因は何だと思うんです? …『彼』では、ないのですか?」
 じっと様子を眺めていると、彼女は苦しそうに答えを吐き出した。
 「――おそらくは」
            
 

 
                         *
 

 
 
 「どうしたの、舞? …具合でも悪い?」
 「何でもない。」
 「…このところ忙しかったからな。僕が無理させたしね。少し、休んでもかまわないよ」
 休みたくなどなかった。むしろ――
 「…戦場に、行きたい。戦いたい。」
 「何を…。どうしたんだ、いきなり」
 戦ったら、今の自分とは変わるかもしれない。
 オリジナルに近づくかもしれない。もしかしたら――
 
 「駄目だ、危険すぎる。許可できない」
 
 そこで、抱きしめられて、決心が挫けた。いとも簡単に。
 所詮、彼の傍を離れて生きられない。それが自分の限界だった。
                      
 

 
                         *
 
 

 
 何故、死んだのか?
 その答えを、ずっと考えた。
 厚志が彼女達を自殺や狂気に追い込んだとは、到底思えなかった。
 そして、自分と同じように考えてみるとしたら、彼を置いて死のうとは思わない。

 『…あてつけではないのですか。彼や私に対する』
 
 違う。
 
 『では、絶望ですか。』
 
 …そうかもしれない。
 
 だが、納得できなかった。
 私なら、それでも厚志が苦しむのをよしとしない。例え、楽になるためだとしても。…
 そこまで考えて、彼女は暗い笑みを漏らした。
 これだから、私は出来の悪いコピーでしかありえないのだ。
 本当の芝村舞は厚志だけを見ていたわけじゃない。彼女は正義と未来のために戦う少女だったから。
 自分が厚志だけを見て盲目になればなるほど、本物からは遠のいていく。
 
 だがどうしようもないではないか?
 彼に会ってしまったら、彼を想わずにいられない。細胞の一つ一つが恋い慕う。
 そうなるように、自分は造られている。
 
 …。

 
 それならば、もし会う前に戻れたら…?
 
 

 (――ああ、そうか。…そういうことか――)
 
 そこで、わかった。『彼女達』が死んだ理由。
 絶望したからではない。ましてや、あてつけなどではありえない。
 

 
 
 
 『何故、何度も造る?』

 
 『…人は、希望がなければ生きていけませんから』
 
 

 
 そう。だが別の考え方もある。
 人は、希望があれば――
 
     

             
                         *
 

 
 
 「それで、どう云ってるんだ」
 「まあ勝算は五分五分だと。例の作戦も承諾は得られそうですよ。…おっと」
 
 そのとき、覚えのないアドレスからの送信が入った。
 数秒、中身を見てそのまま目を閉じる。
 「…誰からだ? 珍しいな、そんな顔は」
 「彼女からです。内容は…」
 「そのまま送ってくれないか。読んでみたい」
 「きちんと始末してくださいよ、一応査問に引っかかりますから」
 釘を打って転送した後、手元のファイルはすぐに消去した。
 
 「……前にもありましたよ、こういう訴えはね。けれど理由を教えてくれたのは今度の彼女が初めてです。――といっても、もう生きてはいないでしょうが。」
 「叶えてやったらどうだ? …最期の願いを」
 「無駄ですよ。彼にとっての本物は、1999年の熊本にいた、あの少女だけなんですから。――それでも、我々には彼女が必要ですけれどね。…彼を引き止める、『楔』として」
 

 
       
                *
 
 

 
 『厚志に会う前に、芝村舞として生きさせて欲しい。
 たとえわずかな間でもいい。自分が自分であるために必要だ。
 
 ――私達は絶望していない。むしろ、希望を持っている。
  次に生まれる私は、失われた欠片になれるかもしれないから。

  …そして、今も幸せだ。
  彼は悲しんでくれると知っているから。』
 

 
 
 送られた文面が脳裏に残ってしばらく離れなかった。
 哀れというより、忌々しく思う。

 「あなた方は芝村舞そのものだと思いますよ、私は。――そうやっていつも彼をおいていく。死でもって、彼を裏切っていくんですから。」

 
  

 
 
end.
 


*afterword*
 
 
 …暗い話でごめんなさい。でも本人は書いてすっきりしました(鬼)
 魔王一歩手前の速水様、という設定です。が、あちこちいいかげんですのでご勘弁を。
 作中の舞ちゃんは限りなくクローンに近いレプリカだと思ってください(--A
 
 

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