芝村的愛と青春の日々


 
 
 
 「厚志、話がある」

 いつもながらの堅い口調で、舞は憮然として切り出した。
 とはいえ、二人がいるのは学校でも戦場でもなく、何の気兼ねもなくいちゃつける数少ない場所――厚志の自宅だった。
 一応自他共に認める恋人同士の二人が、こんな抜群のシチュエーションにありながら、膝詰談判の如くに正座で向かい合っているのは、誰か(奥様戦隊とか奥様戦隊とか・・ってそれだけか)が見れば滑稽ではあった。

 「どうしたの、一体」
 そう言って小首をかしげる姿は高校生男子にはあるまじき可愛らしさであり、この手の可愛らしさにえらく弱い姫は、危うく陥落しそうになる。
 しかしここでうろたえてはいけない。
 最近判明してきたが、この男、見かけと中身を平面上に置くと三次曲線のように捻じ曲がっているのだ。

 (なんだか赤い顔してるし、潤んだ瞳で・・もしや誘ってるのかな? もう、舞ったら(放送禁止用語)。でもそれにしちゃ仏頂面だけど・・ん?もしやこれが芝村的媚態・・?)
 案の定、頭の中では妄想爆走中。

 「しばらく、その。きき、禁止だ」
 いつもなら心の中にも盗聴器を仕掛けているかのように、彼の妄想には即座にチェックが入るところなのだが、今回はそんな余裕はないようだ。
 舞は厚志から斜めに視線をそらし、一気にこう言い放った。
 「何が禁止なの?」
 「だから、その、何というか・・我らの、だっ男女の、だな」
 「・・」

 (はは〜ん)

 彼女の言わんとすることはようやくわかったが、何故いきなりそんなことを言い出したのか不思議に…は思わなかった。
 実は心当たりが明確に、それこそ『30字以内で説明してくださいね』、と芳野先生に言われてもすぐに答えられるぐらいに、はっきりしていたのだ。

 
 
 
                            *


 
 
 ――この日に先立つこと一週間前。

 二人が付き合って一ヶ月を過ぎる頃から、週末はどちらから言い出すでもなく一緒にいるのが普通になっていた。
 その日は土曜日で、順調に仕事を済ませた二人は、いつものように明日の日曜を共に過ごそうと、自然に誘い合わせて舞の自宅に向かった。

 4月も半ばを過ぎると、出撃の回数は一気に増していた。
 二人の乗る複座式の3番機は着実に戦果を重ね、今や撃墜数200を越えるまでになっていた。 
 毎日が戦闘、そして殺戮。 
 だから、二人は一緒に眠りたかった。
 同じ夢を見るために。

 (…ん。) 
 …!?
 翌朝目が覚めたとき、舞は人生初の金縛りを体験したのかと本気で思った。
 腕を動かそうとしても力が入らず、意識は覚醒しているのに体が言うことをきかない。
 「ん・・、起きたの、舞?」
 隣から憎々しいばかりの嬉しそうなぽよよん声が聞こえてくる。
 「そ・・ゴホン、(かなりの掠れ声)そな・・た、元気だ・な・・」
 まるで某占い衛生官のような語り口。
 「だって舞と一緒に寝たから。体力・気力MAX!だよ♪」
 (こ、こここやつーーーーーーー!!) 
 姫、怒り心頭に達する。
 無理もない。
 昨晩は四拾八手のコンボ技を見事に決められ、結局明け方まで粘られた。
 今の舞のパラメータといったら、栄養補給なしには学校も病欠間違いなしだ。
 「そなたっ!昨夜あれほど言ったのにまたっ」
 「あれ? 舞も喜んでたのに〜。昨夜可愛かったよ、かなりvv」
 「たわけっ!人間節度というものが必要なのだ!これでは任務に支障を・・」

 ピー―!!

 多目的結晶から発する聞き慣れた電子音。 
 途端に顔を見合わせる。
 …出撃だ。

 
 

                            *


 
 <戦闘記録>
 4月18日(日)本日の戦闘結果
   1番機 敵8体撃破
   2番機 敵4体撃破、損害小破
   3番機 中途異常アリ、戦線離脱。損害中破。
    オロカモノ(←善行走り書)        


 
                            *


 
 「とにかく。あのような無様なことは二度とあってはならぬ。芝村の恥だ」

 正座で向かい合ったまま、舞は苦虫を潰したような顔でクドクドとお説教を始めた。
 「如何に我らが常日頃戦果を挙げていようとも、日々の努力と精進を怠っては何にもならぬ。その、そなたとその・・するのは嫌なわけではない。コラ、にやけた顔をするでない!・・コホン。だがその、我らには課せられた使命というものがあってだな、」
 いよいよ芝村的演説も佳境に入ってきたそのとき、思わぬ伏兵が現れた。

 「にゃ〜♪ゴロゴロゴロ」

 (ほっ…)
 (お、おのれー。…しかし憎めぬっ)

 愛しのマイに意表を突かれた一瞬の隙を、厚志は見逃さなかった。
 「ねえ、舞。じゃあ今日は普通に一緒に寝ようよ、手をつないで」
 「…その手には乗らぬぞ。今まで何回騙されたか数えてやろう。私は暗記が得意だ」
 「じゃあ普通に寝たこともあったの覚えてるでしょ」
 「それはそなたが騙し討ちをする以前の話であろうがっ」
 「騙し討ちなんて〜。ひどいなあ〜」
 これを捨てられた仔猫のようにつぶらな瞳で言うから始末におえない。
 そして、彼は続けざまに追撃をかけた。
 「じゃ、約束。今日は服着たまま」
 「…本当か?男に二言はないな?」
 返答は無敵のあっちゃんスマイル。

 
 
 「――だからかわいいんだよなあ、舞は」
 横目に熟睡(気絶?)している少女の寝顔を見ながら、厚志はつぶやいた。
 (やっぱり買っといてよかったな。これ。)
 目線が追うのは舞が着ているフリフリのネグリジェだ。
 シャワーを浴びている彼女に、『いつものパジャマ洗濯まだなんだ。これ着てね』と言って手渡したもの。
 『約束が違うではないかっ!!』と騒いでも後の加藤運転手。
 (まさか役に立つとはね、ふふっ。裏マーケットって何でもあるよね〜ホント♪)

 
 …こうして騙され記録、また更新。
 しかし厚志よ、どんな顔してそれ買ったんだ?

 
 
 

 end.



 
 

*afterword*

 初めて書いたGPMss。というより、まともに書いた初めてのお話…。
 綾さんのHP(⇒
コチラ)のウラ見たさに(…)書いて送りつけたもの(爆)。
 アップまでしていただきましたv
 これ書いたときはまだ裏設定よく知らんかったので、あっちゃんがちょっと青いぐらいです。
 今ではあっちゃんなんて呼べません。「速水様」。
 

 
 

 
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