「なんですって―!!?」 まどかの絶叫が、渋谷サイキックリサーチのオフィスを揺らした。 和やかな歓談の終わりを知って、リンは深い溜め息をつく。 「これはゆゆしき事態だわ!!」 握り拳を作って力説するまどか。 同席していた安原は、リンとは正反対ににこやかに笑っていた。 うんうん、とまどかに同調する。 「本当ですよね。僕もずっと気になっていたんですよ」 にこにこにこ。 明らかに状況を楽しんでいる安原が、リンは非常に恨めしかった。 まどかが渋谷サイキックリサーチのドアを開いたのは、三十分ほど前。 例のごとく「驚かせたかったの ちょうど昼を過ぎた時間だったため、ナルはリンと入れ代りで昼食をとりに出かけていた。 麻衣はもちろん学校である。 そのため講義の関係で午前中からオフィスに詰めていた安原が、リンとともにまどかを迎えたのである。 安原が三人分のお茶を入れ、互いの近況を話す。 そんな穏やかな雰囲気が続いていく事を信じて疑わなかったリン。 だが話がナルと麻衣の関係に進んでいくうちに雲行きが怪しくなっていった。 「でもあのナルがねぇ〜。本当、谷山さんってすごい人よね」 「本当に。谷山さんのことになると、所長、目の色が変わりますから」 「そうなの?ナルがそういう普通のオトコノコしているとこ見てみたいわ〜。でも大丈夫なのかしら。あの子ってそういう方面にとことん疎かったから。プレゼントとかに専門書を贈ったりしているんじゃないかって、心配していたのよ」 かなりな言い草だったが、実際リンもそう思った事があるので軽く笑って流した。 そういえば、と切り出したのは安原だった。 その表情はリンが見る限り、いかにも楽しそうだった。 「この前、谷山さんが自分の手を見て、さみしそーに溜め息をついていましたよ。あれは確か、松崎さんが恋人からもらったって言う指輪を見せにきた時だったかなぁ」 余計な事を、とリンが舌打ちしたのを誰も責める事は出来ないであろう。 きらり、とまどかの瞳が輝いて見えたのは、リンの気のせいだっただろうか。 「ナルは谷山さんに指輪も贈ってないのかしら?」 首をかしげる動作が、まどかにはよく似合う。 けれどもそれは、リンにとっては精神的圧迫でしかなかった。 悪霊相手にはおくれをとる事のない彼だが、生きている人間とではそうもいかない。 安原はそんな彼とは対照的に、さらりと返事を返した。 「そうだと思いますよ。谷山さんはあまりアクセサリーをする人ではありませんけど、恋人からもらった物なら別でしょう。女性にとってそういうものは特別でしょうから。でも・・・」 谷山さん、していませんねぇ。そう続ける。 その言葉を受けて、まどかの表情が険しくなった。 そして、 「なんですってー!!?」 冒頭に戻る。 「まったくあの子ったら、肝心な所で相変わらず抜けているんだから。指輪を贈るのは恋人に対する義務よ、礼儀よ。恋人に対する礼儀を果たさないで、谷山さんに捨てられたらどうするつもりなのかしらっ」 溜め息とともにまどかが吐き出す。 谷山さんはそんな子ではありませんよ、と言いたかったがそれよりも先に安原が相槌を打ってしまった。 この時ほど口下手な自分が恨めしかった事もない。 そしてリンを置いてどんどん加速していくまどか。 さらにそれを煽る安原。 「本人は気付いてないみたいですけど、谷山さんはあれでかなりもてますからねぇ」 「やっぱり?ナルみたいな堅物ですらまいっちゃうぐらいですものね〜。あら、でもそれじゃぁ本当にナルが捨てられちゃうわ」 「・・・それは、この職場がかなり恐ろしい事になってしまいますね」 「う〜ん、それもそれで見てみたい気がするけど。でもここは私たちが一肌脱いで、ナルに恋人に対する礼儀ってモノを教えてあげない?」 にっこり それに対して安原は、越後屋スマイルと人が呼ぶ表情で応える。 「いい考えですね〜」 そして二人は笑顔を浮かべてリンを見つめた。 「もちろんリンも、手伝ってくれるわよね?」 「もちろんリンさんも、手伝ってくれますよね?」 リンは呪った。 まどかが来た事を。 安原が事務所にいた事を。 ナルがこの場にいない事を。 今自分が置かれている状況を。 だがコトは刻一刻と進んでいく。 当事者達を抜きにして盛り上がる二人の横で、リンは天井を仰いだ。 そしてタイミング良く(悪く?)帰ってきた所長に向かって、二人の悪魔は極上の笑顔を向けたのだった。
■ あとがき 最近お馬鹿なことばかり書いているような気が・・・。 777記念SSの裏話、のつもりで書きました。あちらを書いている段階で、まどかさんがどんどん暴走し始めたんですよね。 それにしてもリンさん、不幸です。最初のうちは3人の共犯、って感じだったのに・・・。いつのまにか被害者になってしまいました(笑)。 |