その日、あたしは綾子の部屋に泊まりにいっていた。
 相変わらず美味しい綾子の料理を食べさせてもらって、真夜中まで女同士の会話で話を弾ませて。
 眠りについたのは、もう「次の日」になっていた。
 空には明るい月が出ていた。


みどり


 ふっと、あたしは目が覚めた。
 夢を見たわけじゃないけど、ぽんと眠りから覚めてしまった。
 布団をかぶったままで、瞬きをする。
 すぐに目もなれて、そして気が付いた。綾子が泣いているのに。
 綾子は起きていた。
 布団に入ったのは二人同時だった。
 でもあたしはすぐに寝付いちゃったから、綾子が起きているなんて気が付かなかった。
 綾子はたよりない月の光を浴びながら、声もなく涙を流していた。
 何で泣いているのだろう、とかそんなことを考える前に。
 あたしは綾子に見とれてしまった。
 すごくキレイだったから。
 昼間のあの(意味のない)自信に溢れた綾子からは想像つかないほど、泣いている綾子は儚げでキレイだった。
 そんなことを思っていると、綾子の方があたしが起きているのに気が付いてこちらを見た。
 すっと、涙をぬぐう。
「麻衣・・・?起こしちゃった?」
「ううん。綾子、泣いてたの?どうしたの?」
 あたしが尋ねると、綾子は視線をそらした。
 触れられたくなかったのかな?そう思って、あたしが何かを言おうと口を開きかけた時。
 綾子はポツリと呟いた。
「声が聞こえるの」
「・・・声?」
「そう、声が聞こえるの。アタシが『樹』の声を聞けるの知ってるわよね? なんでかはわからないけど、こんな満月の夜は時々、声が聞こえてくるの」
「どんな?」

「悲鳴よ」

 その言葉よりも、その悲しげな声にあたしはドキリとしてしまった。
「都会で生きる『樹』たちの最後の声が聞こえるの。 アタシにはどうすることも出来ないのに、声だけが聞こえてくるの・・・」
 そう言って綾子はまた涙を一筋流した。
 それは満月の光の中でひどくキレイだった。
 しばらくお互い無言でいて、そうして綾子がまた口を開いた。
 口調だけはいつもの綾子だった。
「まぁ、こんなことあんたに言っても仕方ないんだけどねぇ」
そのくせ、まだ涙のあとが見える。とてもキレイナな涙のあと。
 それがとても綾子らしくて、あたしは思わず笑ってしまった。
「なによ?」
 ふてくされたような綾子の声。
「いーや、なんでも。綾子ってキレイだったんだな、と思って」
「・・・何言ってるのよ、今ごろ気付いたの?」
「うん」
「何ですって!?」
「あ、怒ってる顔の方が綾子らしいや」
「・・・あんたねぇ」
「でも、笑ってる顔が一番好きだな」
「おだてても、何も出ないわよ?」
 綾子はそう言ってふいっとそっぽ向いた。
 でもそれが照れ隠しなのはバレバレ。だって耳まで真っ赤になってるから。
 あたしはまた小さく笑った。
「だからね」
「?」
「『樹』も一緒だと思うよ。泣いている綾子はキレイだけど、笑ってる綾子が一番いいよ。 だって、『樹』は綾子のことが好きなんでしょ?だから最後の声を綾子に伝えようとするんじゃない。 『樹』だって、嫌いな人に最後の声なんて聞いて欲しくないよ。
だからね、泣かないで。
あたしだったら、自分のことで泣かれるより、自分のことを思い出して微笑って欲しいもん。ね?」
 あたしの言葉が終わってから、綾子は小さく息を吐いた。
 綾子の瞳から、また涙が零れ落ちた。
「まったく、あんたは・・・単純でいいわよ・・・」
 憎まれ口を叩いて、手で顔を覆った。
「綾子・・・」
「今だけだから・・・」
 小さい声は震えていた。
「次からはちゃんと笑って見送れるから」
「うん」
 そうして綾子は静かに泣いていた。あたはいつも綾子がしてくれるみたいに、背中をさすっていた。
 月の光の中で綾子は泣きながら、あたしに「ありがとう」と言った。
 その言葉を聞きながら、やっぱりあたしは綾子のことが好きなんだなぁ、と思った。

 

 

      あとがき
 相変わらず意味不明のSSです。
 今回は会話の部分からさきに出来たんです。でも最初を書いてるうちに、どんどん話が違う方に進んでいってしまいました(またかい)。  コンセプトは綾子の涙です(←何じゃそれ)。綾子ファンの方、ゴメンナサイ(汗)

 

戻ります

 

 

01/01/01 written by Youko.K.