ひどい頭痛が彼を苛んでいた。
眠る事が出来るのならば、束の間だけでも苦痛から開放されるのだが、そんな彼を嘲笑うかのように睡魔は彼をすり抜けていく。
汗ばんだ額。それにはり付く金の髪。
靄がかかったように昏い思考。
血の重みが彼を苦しめる。
何度目かの激しい目眩が彼を襲って、そして唐突に止んだ。
永遠に続くように感じた苦しさが、溶けるように消えていく。
それが何故なのか、閉じた瞼を開くよりも明瞭に、彼には見えた。
清冽なまでの光が、彼を包み込んだからだった。
至上の華
「大丈夫か?」
気遣いを含んだ声音は、とても真摯だった。
瞼を開くと、鮮やかに赤い髪が瞳に写った。
彼の唯一の主が、景王と呼ばれる人がそこにはいた。
「しゅじょう・・・?」
久方ぶりに出した声は酷くかすれていた。
慌てて礼をとるために身を起こそうとする彼を、女王は苦笑しながら制する。
「そのままでいいから。見舞いにきたのに病人に無理をさせては本末転倒だ」
そう言って、女王は上半身だけを起こした僕の顔を覗き込む。
「まだ顔色が良くないな。よほど無理をさせてしまったようだ。すまなかった、景麒」
労わりのこもった声は耳に優しく響く。
「もったいないお気遣い、ありがとうございます」
かすれた声で答えながら、景麒の目線は主の手元に向かう。
景麒の視線に気が付いたのか、女王が小さく微笑んだ。
「こちらではない習慣だと聞いたんだがな。見舞いに手ぶらで来るのも何か変な気がして。蓬莱では、よく見舞いの時に花を贈るんだ」
少しだけ照れたように言って、女王は景麒に小さな花束を差し出した。
「ありがとう・・・ございます」
手渡された花束を見つめながら答える景麒。
主の気遣いを嬉しく感じながらも、こういう時にどういう表情をして良いのかが分からないのである。
そんな戸惑いん表情が顔に出ていたのか、女王がくすりと笑う。
「あまりたいした意味はないんだ。そんなに気にする事はない」
女王の笑顔が陽光のようにまぶしく、景麒は思わず花束へと視線を移す。
「どうかしたか?」
「いいえ。―――それよりも主上の方こそ、如何お過ごしでしょうか?」
女王は、先に起こった内乱―――拓峰の乱、そして明郭の乱―――の事後処理に追われているはずである。
本来ならば、自分を見舞ったりする時間など無いほど、忙しいのである。
できることなら、自分も女王のために働きたい。
だからこそ、血の臭気によっていまだ動けない自分がはがゆく、臥牀から降りる事が出来ないのが恨めしい。
「ああ、信頼できる官を見つけることが出来たから、何とか凌いでいっているよ」
市井に出て、民の中で色々な事を学んできた女王の言葉には、どこか深みがあった。
傍らにいるだけで伝わってくる女王の覇気、清冽で誠実な光のようなものを感じながら、景麒は静かに瞠目する。
それは、ほんの短いひと時だった。
本当に激務の合間を縫ってやってきたのだろう、女王は景麒と軽い会話を交わすとすぐに立ち上がった。
「・・・もう行かれるのですか?」
思わず、景麒の唇から言葉がこぼれる。
自分でも自分の言葉に驚いていると、女王が景麒の瞳を覗き込むようにして笑った。
「ああ、お前の様子を見にきただけだから。あんまり執務を休むわけにも行かないだろう。―――だけど、お前の容態もだいぶん落ち着いてきたようで、少しほっとした」
「ご心配おかけしました」
「まったくだ。・・・お前が休んでいる間ぐらいは何とか頑張れるから、だから早く良くなってくれよ」
それだけ言うと、女王は彼の房室から退室する。
ただそれだけの事なのに、急に房室が暗くなったように景麒は感じた。
その理由を考えて、景麒は小さく溜息をつく。
手元には、主から渡された小さな花束。それはまるで、主が残していった光の粒のように淡く薫る。
その光と香りを感じながら、景麒は目を閉じる。
先程までの頭痛はもう感じない。
もう大丈夫だ、と思った。
至上の華が傍らに在るのだから、もう大丈夫。
■ あとがき
何が書きたかったのでしょう、私。
こんなモンになるぐらいなら、景麒の独白とかを綴っていた方がまだ読みやすかったかも・・・。いくらリハビリ中とはいえヒドイ内容(涙)。
09/25/02 written by Youko.K.