「ありがとうございました」
 店員が明るい声をあげて花束を麻衣に渡す。
 麻衣はそれを受け取り両手で大事そうに抱える。
 そして、色とりどりの花が咲く小さいな花屋を後にした。


 Stand by Me


「お待たせ」
 できるだけ明るい声を出して、麻衣は花屋の前に佇んでいた車の窓をノックした。
「おう」
 運転席に座っていた滝川が答える。
 身を乗り出すようにして、助手席とバックシートのドアをあけた。
「ありがとー」
 バックシートに買ったばかりの花束をそっと置いて、麻衣は助手席のほうへ回る。
「んじゃま、出発するか」
 麻衣が乗り込んだのを確認してから、滝川がステアリングを握った。
 ゆっくりと車が走り出す。

 

 車中は無言だった。
 いつもは快活にしゃべりかけてくる滝川は、前を見据えるようにして運転している。
 麻衣も流れていく景色をずっと眺めている。
 どれぐらい走った頃か。
 音が小さく絞られたカーラジオから流れる曲が変わった時、麻衣が口を開いた。
「つき合わせちゃってごめんね、ぼーさん」
 ぽつりとつぶやかれた言葉。だが滝川の耳にはっきりと届いた。
 滝川が首を振る。
「そんなこと無いって。俺もちゃんとしておきたかったからな。麻衣が言い出さなきゃ、俺の方から言い出してたよ」
「そうなの?」
「ああ」
 不安そうな瞳をする麻衣の頭に、滝川は手を伸ばす。
 ぽんぽんといつもの様に叩くと、麻衣がその手を握り返してきた。
「ありがと、ぼーさん」
「当たり前のことなんだから、気にすんなって。・・・お、見えてきたぞ。あそこだろ?」
 見えてきた目的地に目をむける滝川。
 うん、と麻衣が少し硬い表情で頷いた。

 

 滝川が車の速度を落とす。
 小さな駐車場を見つけ、車をとめる。
 そこは、小さな墓地だった。
 麻衣が車から降り、バックシートに置いた花束を抱き上げる。
「へへ、なんかちょっと緊張してきた」
「お前さんが緊張してたら、俺まで緊張しちゃうじゃん。おじさんのガラスのハートを壊す気?」
 車から降り立った滝川が、軽い声で答える。だが笑った表情が、どこかぎこちない。
「ぼーさんでも緊張するんだ」
「あたりまえだって。ライブなんか、比べもんにならないぐらいだぞ。・・・さぁ、行くぞ」
 ふっと、滝川の声が真面目になる。
 その声を合図に、麻衣が滝川を先導するように歩き出す。
 小さなその墓地に、人影は見えなかった。静謐な空気が辺りを満たしている。
 しばらく歩いて、
「ここだよ」
 麻衣が立ち止まった。

 

 「谷山家之墓」
 そう記された墓石の前で二人は佇む。
 麻衣が墓の前に抱えていた花束を置く。
 膝を落として、手を合わせる。
 滝川は麻衣の後ろに下がって、その様子を静かに見守る。
 しばらく手を合わせておいてから、麻衣が立ち上がった。
 後ろに控えた滝川に視線を移す。
 麻衣の視線に頷く滝川。それに応えて、麻衣は視線を前に戻す。
 そして、はっきりと声にだして言った。
「お父さん、お母さん。この人があたしの一番大切な人です。あたし、この人と一緒になります」
 言った瞬間、なぜだか麻衣は安堵したした気分になった。自然にはりつめていた表情が緩む。
 麻衣の言葉を、今まで後ろに控えていた滝川が引き継いだ。
「滝川法生といいます」
 落ち着いた声だった。そして、一呼吸を置く。
「お嬢さんは、必ず幸せにします」
 言葉にしたのは、たったそれだけ。短く、けれども明確な意思だった。

 

 帰り道。
 ゆるやかに走る車の中で、滝川がつぶやいた。
「なー麻衣。長生きしよーなー」
「そうだね」
 応えて麻衣は、滝川の肩を軽くたたく。
 滝川がいつもの、そしてその日初めての、のんきな笑顔を浮かべた。

 

 

■ あとがき
季節ネタ(笑)。また一人で暴走してます。
言わなきゃ分かんないのがアレですが、一応これは「ぼーさんが麻衣にプロポーズした後、両親に報告に行くの図」です。
法生さん、殴られなくって良かったね〜。

 

戻ります

 

 

6/07/02 written by Youko.K.