Study Hard
からん。
軽いドアベルを鳴らして「渋谷サイキックリサーチ」の扉が開く。
「いらっしゃいませ」
営業スマイルを浮かべてデスクから立ち上がった麻衣は、入ってきた顔を認めるやいなや
「なーんだ、ぼーさんか」
そういって、また椅子に座り込む。
ドアベルが鳴ったと同時に放り出したシャープペンシルを握り締め、かりかりと手元に置いたノートに何かを書き付けはじめる。
「なんだは無いでしょ、麻衣ちゃん〜〜」
入ってきた滝川が、笑いながらひどーいと声をあげる。
だが、麻衣は視線を手元に移したままだ。
「何やってるの、お前」
真剣な表情の麻衣に興味をそそられたのか、滝川が麻衣のデスクを覗き込もうとする。
「テスト勉強だよ。ほら、ぼーさん、邪魔しないで。コーヒーなら作り置きが冷蔵庫に入ってるから適当に飲んでて。もうすぐしたら安原さんも来るだろうから、それまでおとなしくしててよ」
軽く笑いながら、いつもより少し早口に答える麻衣。
そしてすぐに、自分の手元に視線を戻す。
滝川はそんな麻衣を見ながら、やれやれと肩をすくめてオフィスの小さな給湯室へと向かう。
「ほら」
アイスコーヒーを入れにたった滝川が戻ってくる。その手にはグラスが2つ納まっていた。
そのひとつを麻衣のデスクへと置く。
カラン、とグラスに入った氷が小さな音をたてる。
「あ、ありがとう」
麻衣が顔を上げると、ちょうど自分専用のグラス(いつの間にかそうなっていた)に口をつけている滝川と目が合った。
「勉強熱心なのもいいけど、ちゃんと休憩ははさめよー。ぼーさん特製のアイスティーで身も心もリフレッシュ」
にんまりと笑う滝川に、麻衣もつられて笑う。
そして並々と注がれたアイスティーに口をつける。
「定期テストか?」
「そー。来週から始まるから今週はジゴクなのー」
テストのことを思い出したのか、うーと麻衣が顔をしかめる。
「それでオフィスで勉強しているわけね。お前もテスト前ぐらい、休めよ」
揶揄するように笑うと、だって、と麻衣が頬を膨らませる。
「貧乏学生には一週間もの休業はツライのよ。それにこっちの方がイゴコチ良いから、勉強はかどるんだもん。お客さんが来たら、ちゃんと勉強止めるし。優秀な家庭教師もいることだし」
「なるほど、少年が目当てが」
滝川の言葉に、麻衣が小さく舌を出す。
「だって、分かんないとこ多いんだもん」
再び参考書と格闘をはじめる麻衣。
ただし先程のようにペンがスムーズに動いていない。
問題につまずいたのか、眉間にしわを寄せて、小さくうなる事すらある。
「何だ、難しいのか?」
「前回の調査で休んだときに習った項目が、よく分かんないの〜〜」
ペンの後ろでこめかみをつつきながら答える麻衣。
「安原さん、早く来ないかな〜」
どことなく恨めしげに、オフィスのドアを見つめてしまう。が、待ち人が来る気配はまったく無い。
そんな麻衣の行動に、滝川は軽いため息をつく。
「ほら、貸してみ」
「ん?」
「だから、勉強みてやるから参考書貸してみ」
そういって麻衣の方へ手を伸ばす。
思わずその手をまじまじと見てしまう麻衣。
「ぼーさんが?」
「何だ、その不安そうな声は。少年ほどじゃないが、オジサンだって大学は出てるんだってば。高校生の家庭教師ぐらいはできるさ」
「・・・んじゃぁ、お言葉に甘えて」
差し出された滝川の手に、麻衣が使っていた参考書を乗せる。
「ただし、ちゃんと報酬はもらうぞ」
「えー、なにそれ。お金なんか払えなよ〜〜」
慌てて滝川に渡した参考書を取り返そうとする麻衣。
「安心しろ。貧乏学生から金なんか取らないって。現物給与でいいから」
「はぁ?どういう意味?」
「だから、こういう事」
にやりと笑った滝川が、すばやく動く。
参考書を取り返そうとしている麻衣の腕をつかみ。
引き寄せ。
その頬に唇を押し当てる。
ほんの一瞬後、麻衣が顔を真っ赤に染めた。
「これが報酬の前払いな。んで、テスト終わったあとにデート一回。どう、安いもんだろ?」
楽しげに笑って、滝川は参考書に目を落とす。
その滝川の態度に、麻衣は脱力する。
「安いもんだろって・・・そういう問題じゃないような気がするんだけどぉ」
「ん?嫌なのか?」
「そういう訳じゃないけど」
「なら、商談成立。さっさと勉強やっちまおーぜー」
いっそ、無邪気なまでの声を上げる滝川。
麻衣が小さなため息をつく。
「ま、いっか」
そして、二人の勉強会が始まる。
■ あとがき
こんな予定では・・・。
書いているうちに話が変わるのはいつものことなんですけど・・・。
いつもより「こんなハズじゃなかった度」が高くなっております。ぼーさん、ゴーイングマイウェーです。
本当は、麻衣ちゃんに「勉強教えて」と言ってもらうはずだったのに・・・。
05/14/02 written by Youko.K.