どこにいようと。
 どれだけ人込みに紛れ込もうと。
 あのまばゆい光だけは隠しようがない。
 目の前に明るい光を見出して、六太はほくそ笑む。
 そして、光のもとへと駆け出した。

 太陽の王国


 雁州国の首都関弓。関弓山の麓に広がるその街は、国の繁栄を示すかのように賑わい、活気に満ちている。
 特に日中は広途に露店を開く者も多くて、大変な混雑ぶりだ。
 六太はその人込みの中を走っていた。
 目立つ金色の髪は頭に巻かれた布で隠れているため、誰にも見咎められる事はない。
 迷う事無く広途を走り抜け、そして、唐突に立ち止まった。
 にやり、と口の端がつりあがる。
 その視線の先には男と女が立っていた。
 女はしなやかな身体の美女である。男の方もなかなかに偉丈夫で、つり合いが取れている。だが、どう見ても夫婦者ではなさそうだ。
 男がなにかを言って、女が嫣然と笑う。
 どうやら、男が女を掻き口説いているようだ。
 六太がさっと、店の陰に隠れる。
 男と女はしばらく話していたが、やがて双方で合意があったのかお互い笑顔になる。
 男の手が女の肩にかかろうとした、その時。
「何やってんだよ、このロクデナシっ!!」
 六太が店の陰から飛び出して叫んだ。
 女と、周囲の驚いた視線が集まる。
 男―――尚隆は、突然の六太の出現に今にも舌打ちをしそうな表情をした。

 

 はあはあと荒い息をつきながら、尚隆と六太は足を止めた。
 場所は人気のない細い路地。先ほどの広途から二人は走ってきたのだ。
「まったく」
 息を落ちつけた尚隆が忌々しげに口を開く。
「お前は俺に恨みでもあるのか?」
「そんなの、しこたまあるに決まってんだろ?」
 六太が悪びれもせずにかえす。
「・・・。だからといって、あんな風に言う事もないだろうが。おかげで俺は犯罪者扱いだ。しばらく城下に降りれんではないかっ」
「そうそう遊びに行かれたらおれがたまんないんだ。これは暫くは王宮にいろっていう天啓だろ」
 主の非難も何のその、六太がにやりと笑ってみせる。
 尚隆があんな風に、と言ったのは先ほどの広途の場面。尚隆と女の前に飛び出した六太が叫んだ事である。
 曰く。
 ―――このロクデナシっ!!あんまりおれに世話を焼かせるな。今ごろ夏官の成笙がお前の事探してるんだぞ。少しは大人しくしやがれっ。
 夏官とはもちろん、警察・軍事を司る官の事である。その夏官に探索されているのならば、普通は犯罪者である。
 六太の発言は覿面であった。
 一瞬にして尚隆から身を遠ざける女。瞳を険しくする街の者達。
 そうして、二人はこの路地まで走って逃げる羽目になったのである。

 

「それが主に対する口の利き方か」
 なおも不満の声をあげる尚隆。
「だーかーらー、お前が悪いんだろうがって。完っ璧、自業自得だ。大体お前が10日も城を抜け出したせいで、おれがどれだけ迷惑を被ったと思ってるんだ。今度やったら失道してやるからな?」
 慈悲の生き物たる麒麟とは思えない剣呑な目つきで主を見据える六太。
「お前がいない間、おれがあの3人にどれだけ愚痴をこぼされ、文句を言われ続けのか分かってんのか?まったく針の筵とはあの事だ」
 特に朱衡の嫌味な事といったら、と六太は続ける。
 尚隆も自分の腹心ともいえる3人の官を思い浮かべて、さすがにげんなりした。
「それは悪かったな」
「全くだ。今日なんかとうとう朱衡が切れて、王気を頼りに探してこいなんて言い出すし。それもこれも、全部お前が悪いんだぞ。お前がおれを置いていくから、こんな事になるんだっ」
 一息に怒りの言葉を吐き出して、六太がふいと顔をそむけた。
 思いがけない言葉に、尚隆が面食らう。
 ふっと、表情を和らげる。
 そっぽ向いた自分の半身、幼い姿のままの六太の頭を軽く叩いてみせた。

 

「よし、ならば明日は久しぶりに慶にでも顔を出してみるか」
「・・・おい、こら、おっさん。どうしてそうなるんだ?」
 あまりにのんきで、そして脈絡のない言葉に、六太が顔を上げる。
「だから二人で抜け出せば、お互い弊害もなくて良かろうといっておるのだ」
「そういう問題なのかよ。それに、今回は朱衡、かなり切れてると思うぞ。笑顔がメチャクチャ引きつってたし」
 ふっと、尚隆が不適に笑う。
「朱衡の笑顔が引きつる事なぞ、いつもの事だろう。いちいち気にしていて王が務まるものか。・・・なんだ。六太は行かないのか?」
 それは、もう出かける事を前提としている声であった。
 六太はしみじみと溜息をついてしまう。
「ほんと、朱衡たちってかわいそう」
「何を言うか。信頼していると言え」
「お前、ほんっとにバカ殿だな。―――それじゃ、明日の朝一で抜け出すぞっ」
 六太は呆れ果てた声を出そうとしたが、失敗してしまう。どうしても本音が滲み出てしまうのだ。
 尚隆が楽しげに笑う。
 そして、二人は抜け出すために玄英宮へと戻っていく。

 

 

■ あとがき
雁国主従、日常編。絶対この二人は毎日こんなやり取りをしているだろうという妄想から。
やっぱり王と麒麟は、こうでなくっちゃ(笑)。

 

戻ります

 

 

06/02/02 written by Youko.K.