人には自分に見合った役割というものがある―――。

 

 適材適所

 

「ねぇ、ぼーさん。やっぱりナルが帰ってくるか、せめてジョンが来るまで待ったほうがいいんじゃない?」
 あたしがぼーさんを見上げるように呟く。
 ぼーさんは小さく息をついた。
「ま、な。俺もそうしたいとこなんだが、打てる手は早めにうっておいた方がいいだろ?」
 そう言って、あたしの頭をぽんと叩く。
 でもぉ・・・。
 それでもやっぱりあたしは不安だった。
 あたし達がいるのは、今回の調査の依頼人一家が住んでいる家。
 ナルが調べ物があるといって安原さんと家を出て行った矢先。
 依頼者の一人が憑依霊に操られて暴れだした。
 それはかまいたちを使う、凶悪な霊だった。
 依頼者の家族は、綾子とリンさんが結界を張ったベースに避難してもらっている。
 憑依された依頼者は、つい先程リンさん・ぼーさんと乱闘になって、やっと捕まえたのだった。
「ジョンだって、明日の朝一番で来てくれるって言っているんだし。憑依霊の事はやっぱり専門家に任せた方がいいんじゃないの?」
「そうは言ってもな。あの霊はかなり凶暴だ。あんなのを野放しにする訳にもいかんだろ。それに綾子とリンの結界だっていつ破られるか分らんしな。破られないにしろ一晩中結界を張っておくのはかなり気を殺ぐ。本格的な除霊をはじめる前に疲労するのは、なるべく避けたいからな」
 言いながら、ぼーさんは憑依された人を隔離した部屋へと進みだす。
 あたしは慌ててぼーさんを追いかけた。
「で、でも、ぼーさん。憑依霊を落とした事無いって前に言ってたでしょ。ほんとに大丈夫なの?」
 あたしが不安げに訊ねると、ぼーさんが明るく笑った。
「安心しろ。この前ジョンから除霊のコツを教わったからな」
 自信有り気に軽く言ってのけるぼーさん。
 あたしはその言葉にホッと一息をついて、ぼーさんについていった。
 だがあたしは覚えておくべきだったのだ。
 霊能者が自信たっぷりの時は、大抵あてにならないということを。

 

 部屋に入ったとたん、背筋が凍るような感覚がした。
 依頼者に憑依した霊が、こちらをものすごい形相で睨んでいたからだ。
 依頼者は身動きが出来ないように縄で縛られている。
 だから唯一自由になる頭をこちらに向けて、禍々しい表情でこちらを見ている。
 やっぱり、この家の霊は怖い。
 あたしが自分を抱きしめるようにして、ぼーさんが除霊の準備にかかるのを見ていた。
 ぼーさんが金色の法具を持って、口の中で真言を唱える。
 いつもと全然変わらない除霊の光景。
 法力を人に向けたらいけないんじゃなかったのっ!?
「ぼーさっ・・・」
 あたしが慌てて声をあげようとすると、ぼーさんが目線でそれを制した。
 何か、考えがあるの?
 あたしの疑念をよそに、ぼーさんは聞きなれた真言を唱え終えて、空いている手を依頼者の額にかざす。
「御仏の御名によりて命ずる―――」
 ・・・は?
 あたしの目が点になってしまったが、ぼーさんはお構いなしに独鈷杵を掲げる。
 透明な赤い光があたしの視野の中を駆け抜けていった。
 そして・・・。
「・・・あれ?」
 ぼーさんが間の抜けた声を出した。
 それもそのはず。
 ぷしゅう。
 実際に音なんかは無いけれども、そんな感じで光がしおれてしまったのだから。
 まるで風船がしぼむように、しなしなと拡散する光。
 もちろん、憑依されてしまった依頼者には全然影響が無かった。
 いや、それどころか・・・。
「ぼーさんの馬鹿〜っ!」
 あたしは大声で叫びながら、必死でかまいたちを避ける。
 憑依霊が狂暴化しちゃったじゃないの!
 ぼーさんはかまいたちを避けながら、照れ笑いなんぞを浮かべている。
「やっぱり宗派混同はいかんかったか・・・」
 あったりまえでしょ〜っっ。
 そんなあたし達のすぐ隣で、 かまいたちでボロボロになった縄をほどいて依頼者が立ち上がった。

 

 そうして、あたし達は。
 人に向かって九字を切るわけにもいかず、翌朝ナルがジョンと一緒に帰ってくるまでかまいたちと鬼ごっこをするハメになってしまったのだった。
 ちなみに綾子とリンさんは結界の張った部屋で、無事だった依頼者とともにゆっくりと休んでいたらしい・・・。

 

 

■ あとがき
 誰もが一度は考える(?)宗派混同ネタ。
 気合の問題なので間違っておぼえていても大丈夫なんじゃ、と原作では言っていますけど、それと宗派混同はやっぱり違うでしょということで(笑)。

 

戻ります

 

 

06/08/01 written by Youko.K.