やさしい手
とっさの状況にあたしの体は竦んでしまった。
逃げなきゃ、と頭ではわかっているのに体は全然動かない。
足元から伸びてくる冷気に縫いとめられたように、その場を動けなかった。
あたしは反射的に、衝撃に備えるように目を閉じた。
・・・
けれども予想したような衝撃も痛みも全然感じない。
恐る恐るつぶった目を開けてみると、目の前に大きな手があった。
その手から、ぽたりと鮮やかな色の血が落ちた。
「ぼーさん!」
あたしは叫んだ。
その後のことは良く覚えてない。
「大丈夫か?」
ぼーさんの声が聞こえてあたしは顔を上げた。
ベースに座り込んでいたのだ。
他のみんなはいなかった。
ぼーさんがあたしの目の前に座る。その手には白い包帯が巻かれていた。
「あれ、みんなは・・・?」
「ナル坊は依頼者のトコロ。他の奴らは事後処理に出かけてる」
「ぼーさんは?」
「俺は麻衣の監視。また暴走しないように」
冗談めかして、いつものように笑いながらそう言う。
声はとても優しい。
だから余計に涙が込み上げてきた。
ここで泣くのはずるいとわかっていても、止められなかった。
「ごめんね・・・ごめんね、ぼーさん」
「ま、お前さんの気持ちもわからんでもないがな。だからって生きているものに危害を加えていいって事は無いんだ。俺だって苦しんでいる霊は助けてやりたいと思ってる。でもな、俺たちの仕事は依頼者を守るのが第一なんだ」
わかるな、と優しい声のままぼーさんがあたしに言う。
それはわかっていたと、思う。
でも、やっぱり苦しいままさまよっている霊を見過ごすことはできなかった。
できるなら除霊ではなく浄霊してあげたかった。
だからナルが除霊するといった時、あたしはじっとしていられなかった。
みんなの制止を聞こえないふりをして、一人で浄霊しようとして。
霊を暴走させたんだ・・・。
「結果的にはみんな無事だったんだし、そう落ち込むな」
ぼーさんは優しい。
このことでは、ぼーさんが一番あたしを怒る権利があるのに。
勝手に浄霊しようとしたあたしを庇って、怪我したのだから。
ぽろぽろと勝手にこぼれてくる涙を拭きもせず、あたしは謝りつづけた。
「ごめんね、ごめんね・・・」
ぼーさんは何も言わなかった。
ただあたしの頭をその胸に抱きこんでくれる。
かすかにタバコの匂いがした。
ぽんぽん、といつものように大きな手であたしの頭を撫でてくれる。
大きくて、暖かいぼーさんの手。
包帯の感触が少し悲しかった。
あたしはその優しい手の中で、ずっと泣きつづけていた。
あとがき
ぼーさんX麻衣を目指して見事に玉砕。
途中から自分の思惑とずれて進む話に困り果て、無理矢理終わらせました。
SSのムズカシサを痛感した一本。
01/01/01 written by Youko.K.