アングリー・ガール
「ミリーさん、ごめんなさい〜」
何とも情けない、それでいて真剣なフッチの声が青空に吸い込まれる。
その声が聞こえているのかいないのか。
フッチの目の前の少女は、顔をそむけたままフッチの目を見ようとしない。
「ミリーさん〜」
おろおろと困惑するフッチ。
そのフッチを横目でちらりと見て、ミリーはぽつりと呟いた。
「フッチ君なんか、大っ嫌いなんだから・・・」
決して大きな声ではないが、それははっきりとフッチの耳に届く。
ぷん、とミリーがふくれっ面のままフッチから視線をそらす。
どんな表情でも可愛いなと心の隅で思いつつも、少女が自分に対して怒っているという事実が悲しい。
「ミリーさん、許してくださいっ〜〜」
大っ嫌い、という言葉の破壊力に打ちのめされたフッチの声が、また空へと溶け込んでいく。
ミリーが怒っている理由。
それは単純明快なものであった。
フッチがミリーと交わした約束を破ってしまった、というものである。
一週間前ほどに交わした、デュナン湖のほとりに遊びにいこうという他愛のない約束。何度目かの、微笑ましいデートの予定。
お互い軍主のパーティーに選ばれたりと忙しかったが、指折りにして待っていた約束、のはずであった。
だが約束当日になって、フッチが日付けを一日勘違いをしてしまった。
当然のごとく二人はすれ違い、現在にいたるのである。
フッチが勘違いに気付きはしたものの、当然、あとの祭りであった。
「ミリーさん、本っ当にごめんなさい〜。僕が悪かったです。許してください〜」
おろおろとしながらも、一生懸命に謝るフッチ。
「ふんだ。フッチ君はミリーと遊ぶのなんか、全然楽しみじゃなかったんでしょ?だから、忘れちゃったんだもんね」
甘い声はそのままに、拗ねてみせるミリー。
フッチが思い切りよく首を振る。
「ち、違います。そんなんじゃありませんっっ。僕だって楽しみにしてました。ただ・・・楽しみにし過ぎて」
緊張して日付けを間違えたんです。
勢いのままに本心が口をついて出て、フッチは顔を真っ赤にする。
その言葉に、ようやくミリーがフッチに視線を向ける。顔はまだふくれっ面であるが。
「本当?」
「本当ですっ。だから・・・」
やっと自分の方を向いてくれたミリーに、赤い顔のまま力強く頷くフッチ。
だから許してください、と続けようとしたが、先に声を出したのはミリーであった。
「じゃあ、証拠を見せて」
「証拠、ですか・・・?」
ミリーの言わんとする事が分からず、首を傾げるフッチ。
ちら、とミリーがその日初めての笑顔を見せた。それはいつもの開けっ広げのモノではない、企む者の笑顔だった。
「そう、証拠。ここでキスして」
「っっっっっっキっ・・・・!?」
「そうしたらフッチ君のこと信じられるよ。許してあげる。だから、ね」
口をパクパクさせながら声にならない声をあげるフッチ。
そのフッチににこりと笑って、目を閉じるミリー。
「ミ、ミ、ミ、ミリーさんっっっ」
「してくれないと、フッチ君のこと嫌いなままだからね」
慌てふためくフッチを落ち着かせる強力な一言。
フッチにとって「嫌いなまま」でいられるのは何よりこたえるのだ。
ドキドキと暴れだす心臓を押さえつけるように、両手の平を握り締め、覚悟を決める。
ゆっくりと、ゆっくりと。
縮まっていく二人の距離。
そして。
ちゅ。
柔らかな、唇の感触。
「!?」
「・・・今はこれで許してください」
目を開けたミリーは、至近距離に赤い顔をしたフッチを見た。
すぐにミリーも、フッチが移ったかのように真っ赤になる。
「んもう・・・。今回だけだからね」
そう言って、真っ赤になった頬に自分の手を添える。
フッチの唇が触れた、その頬に。
そして、笑顔を見せた。いつもの、明るく無邪気な笑顔。
「じゃぁ、これからデュナン湖まで遊びに行こうか」
フッチも笑顔で、同意する。
回り道をした二人はようやく歩きだした。
■ あとがき
珍しくフッチ×ミリーな関係が成り立っている話。
この二人、ラブったらラブラブ一直線ーって感じがしませんか?
そんなワケで(どんな訳だ)ラブラブな二人には必須の痴話喧嘩の話でした。
6/29/02 written by Youko.K.