ひだまりの詩


 太陽が中天にさしかかる頃。
 フッチは日課である午前中の鍛錬を終え、城内を急ぎ歩いていた。
 なぜなら、人を待たせていたから。
 窓から降りこむ明るい光に目を細めつつ、フッチは目的の場へと進んでいく。
 待ち合わせの場所は、レストランの向かい側。
 天気の良い日はヤマモト夫人が洗濯場にもしている、トラン湖が一望できる絶景の高台。
 そこにフッチはミリーとブライトを待たせていた。
 戦争に、鍛錬にと忙しい子供たちの、一緒にお昼ご飯だけは食べようねという、小さく大切な約束のためである。
 いつも自分を迎えてくれる少女の笑顔に心弾ませながら、少年は広い城内を早足で通り抜ける。

 

 外の光をよく通すガラスの扉―――高台への扉を前にフッチは息を整える。
 なんとなく、息を弾ませたままだとバツが悪いような気がしたから。
 深呼吸をゆっくりと一回、二回。そして高台への扉に手をかける。
 勢いよく扉を開けると、湖の香りを含んだ風がフッチを出迎えるように吹き抜けた。
 その日は、ヤマモト夫人の姿も、はためく洗濯物の影もまだなかった。
 だから、フッチはすぐに見つけた。
 大木に寄り添うようにひだまりの中に座り込んでいる少女と、彼女に抱かれている自分の愛竜と彼女のペットに。
 一人と二匹はフッチが来たことに気づかないのか、湖に体を向けたままである。
 その無邪気な後ろ姿に、フッチが悪戯心をおこす。
 少女を驚かせようと、足音を忍ばせて近づいていき。
「ミリーさ・・・」
 声をかけようとした瞬間、気が付いた。
 少女と動物たちが眠っているという事に。

 

 それはあまりに穏やかで幸せそうで。
 フッチは時を忘れたようにミリーの寝顔に見入ってしまった。
 ふいにミリーが、身じろぎする。
 その小さな所作に、フッチの鼓動が跳ね上がる。
 同時に、少女に対する後ろめたさがこみ上げてくる。だが、それでもこの幸せな光景を後にするのは惜しかった。そして、それ以上に、少女を起こすことにも躊躇ってしまう。
 葛藤するように、ミリーから少し離れた位置で立ち尽くすフッチ。
 そんな彼に気づいたのは、フッチの愛竜のブライト。
 ぱちりと、眠っていた小さな双眸を開くと、主の姿を認めて幸せそうに鳴いた。
「あ、ブライトっっ。し―――」
 ミリーの腕から抜け出そうとするブライトを慌てて制するフッチ。
 ブライトが不思議そうな表情で、フッチをみつめる。
 その視線に微笑って、フッチはミリーを窺う。
 昨日夜更かしでもしたのか、ミリーは未だに起きる気配がない。
 そっと、フッチは安堵の息をついた。

 

「だめだよ、ブライト。静かにしないとミリーさんが起きるだろ?」
 小声で囁いて、フッチはそっとミリーの隣に腰を下ろす。
 主の言葉に、小さく返事の声をあげるブライト。
 それに苦笑して、フッチはミリーに抱かれたままのブライトを優しく撫でる。
 ゆっくりとブライトの体をなぞるように撫でるフッチ。その手が、いつの間にか、しなやかな少女の手のひらに重なる。
 大人になりきっていない自分の手ですら包み込める少女の小さな手に、フッチは妙に感動する。
 もう一度ミリーの様子を窺うが、ミリーは相変わらず眠りつづけている。
 だが、傍に人の気配を感じるのか、小さく身じろぎをして・・・フッチの肩に寄り添うようにもたれ掛かってきた。
 どくん。
 フッチの心臓がまた跳ねる。そしてフッチは目を細めた。
 少女の柔らかさが嬉しくて。この安らかな寝顔を独占できる自分が嬉しくて、フッチは静かに笑みを零す。
 重ねた手のひらから伝わるぬくもりが心地よい。
 レストランからは、人のざわめきとともに食欲を刺激する香りが流れてくる。
 それでも。
 今はこのあたたかな幸せに浸っていたかった。

 

 

 ■あとがき
 久しぶりのフチミリSS。ミリーちゃんが喋るどころか起きてもいませんが、それでもこれは紀野的フチミリってことで。
 やっぱりこの二人は書いてて幸せになれますvv

 

戻ります

 

 

04/10/03 written by Youko.K.