雨の日は思い出す。
友の血で両手をぬらし、逃げ出した夜のことを。
君と僕の間
昨夜から降り出した雨は、朝を暗く染めていた。
決して激しい降りではないが、雫の一つ一つが重たげにトラン湖に降り注ぐ。
僕は軍主として与えられた部屋に篭って、ただ窓の外を眺めていた。
この赤月帝国が降ることは珍しい。
そのせいか、本拠地の外では雨を浴びながら騒ぎあっている者もいる。
そうして、思い出す。
鳶色の、まっすぐな瞳をした親友を。
あの逃げ出した日以来、杳として行方の知れないテッドの事を。
彼は雨が好きだった。
めったに降らない雨を待つように、よく空を見上げていた。
雨が降ると、嫌がる僕を引っぱるようにして泥だらけになるまで遊んだ。
雨上がりの輝くばかりの美しさを教えてくれたのは彼だった。
ずきん。
雨で古傷が痛むように、僕の左手が疼いた。
テッドから託された紋章。
僕達を自分で制御する事すら出来ないうねりへと巻き込んだ元凶。
そして今のテッドと僕を結びつける唯一のもの。
彼が生きているのかすら、分からない。
だが、直感はある。きっと彼は生きていると。
彼は決して約束を破らないのだから。
この雨をきっとどこかで見ているはずだ。
・・・テッドはいつもの様に雨の中で笑っているだろうか?
思わず唇を噛みしめた。
雨が静かに降り注ぐ。
城外のざわめきを、酷く遠く感じる。
多分それは、僕が雨の輝きを忘れたから。
今の僕には、雨は、あの夜を、血の匂いを思い出させるもの。
だから雨の日は嫌いだ。
日々戦いに身をおき、時には血の雨を降らせる今の生活。
決してそれを投げ出したい訳でも、みんなの心を重荷に思う訳でもない。
それでも、今はただ、君といた日々が懐かしい。
君は、僕にとって穏やかな時の象徴なのだから。
その日が帰ってくるまで、きっと僕は雨の日が嫌いだろう。
■ あとがき
暗くてごめんなさい。
でもうちの坊さまは時々、自ら底なし沼にはまり込んでいくよーなお人なんです。
だもんで、テッド君やビクトールさんのように人生経験豊富な明るい人が必要なんです。
6/12/02 written by Youko.K.