故郷
それは失ったものにしかわからない痛み・・・
ルカ・ブライトがトトの村を焼いた。
その報せが入ってきたのはその日の午後だった。
ビクトールが拾ってきた子供たちが、泣きじゃくる幼い子供を連れてそう報告した。
すぐに砦は緊張に包まれ、あわただしく時が過ぎていった。
さすがにそんな緊張したときに、酒場に来るような暇な人間はいない。
人の気配の無い寂しい酒場を見ながら、酒場の主人であるレオナはため息をついた。
店じまいの時間にはまだ早いが、今日はもう閉めてしまおうと思った。
何かしてないと落ち着かなくて店を開いてみたものの、こう人が来なくてはしょうがない。
一人でいると嫌でも考え込んでしまう。
だから今日はもう店を閉めて、寝てしまおうと思ったとき。
誰かが酒場にやってきた。
「悪いね、今日はもう店じまいなんだよ。あんたも今日はもう寝ちまいな。
明日は今日以上に忙しくなると思うよ」
レオナは棚にグラスを並べながら振り返ることなくそう言った。
だが相手は立ち去る気配を見せずに、カウンターに近づいてくる。
仕方なくレオナがふり返ると、そこにはこの傭兵隊の砦の主であるビクトールがいた。
軽く椅子を引いてカウンター席に腰掛けると、ビクトールが笑った。
「わりぃな。寝る前に一杯させてくれや」
「こんなときまで飲んだくれてどうするんだよ、まったく」
そういいながらも、レオナはビクトールが一番好きな酒を注いでやる。
「そういうなよ。人間ウマイ飯とウマイ酒があればいつでも幸せになれるもんなんだぜ。
こういう時こそウマイ酒を飲まないとな」
「よくいうよ。熊の間違いだろ?」
「おいおい、それは無いんじゃないか?」
ハハハ、とビクトールがいつものように豪快に笑う。
なのにその表情がなぜか柔らかく見えた。
「相棒はどうしたんだい?」
「フリックか?あいつならもう寝たよ。明日はもっと忙しくなるからな」
「だったらあんたもこれ一杯にしてもう寝なよ。さっきも言ったように今日はもう店じまいだからさ」
「早いんじゃないのか?」
「こんな時に飲みに来るような客はあんたしかいないんだよ」
違いない、といってビクトールはグラスに注がれた酒を飲み干した。
けれども立ち上がる気配を見せない。じっとレオナの目を見つめてくる。
「なんだい?」
その掴み所の無い視線から目をそらしながらいうと、ビクトールが歯切れ悪く何かをつぶやいた。
「?」
「いや・・・お前が泣いてるんじゃないかと思って」
彼が何を言っているのか、わからなかった。
理解は一瞬遅れでやってきた。
ずきりと、彼の言葉が胸を刺す。
「何を言ってるんだい?」
動揺を悟られまいとして、突き放した口調になってしまった。
けれどもビクトールはそんなことを気にした様子も無く、レオナを見つめている。
「トトの村が焼かれちまっただろ。だから・・・」
「だから、私が泣いてるとでも思ったのかい?」
何も言わずに、ビクトールが笑う。優しすぎる笑顔だった。
レオナもいつものように笑おうとしたが、自分でも上手くいったとは思えなかった。
「子供じゃあるまいし。第一素直に泣けるほど若くはないんだよ。心配は無用さ」
「ガキとか大人とか関係ない。誰だって悲しいときには涙が出るもんなんだよ」
「だから・・・」
言いかけた言葉をさえぎられた。
穏やかな声がレオナの耳に響く。
「故郷を失ってつらくない人間がいるのか?」
あぁ、なんだってこの男は人の心を見抜くのだろうか。
放っておけばいいのに触れてくるのだろうか。
目頭が熱くなるのが抑えきれなかった。
「なんて嫌なオトコなんだ」
か細いレオナの声に、ビクトールは柔らかく笑ってみせる。
「泣きたいのに泣けない奴にはちょうどいいんだよ」
「オンナの泣き顔なんて見るもんじゃないんだよ」
「一人でいても泣けない女だろう、お前は。つらいときは泣けばいいんだ。
この痛みは経験した奴にしかわからない。誰にも見られたくないんなら俺がちゃんと隠しといてやるから」
レオナは口を開きかけたが、もう何も言えなかった。
ただ熱い涙が後から後からこぼれてくる。
いつのまにかレオナの横に来ていたビクトールが、レオナの頭をその腕に抱きとめる。
言葉通り、彼はレオナが泣き止むまで傍で彼女を支えていた。
あとがき
ビクトール×レオナ。好きなカップリングなんですよね、大人の男と女。
でも書くのは難しいです。書きたかったことの半分もかけてなし。
ビクトールのかっこよさもレオナのかっこよさも全然かけませんでした。
修行してきます〜。
01/01/01 written by Youko.K.