意識は急速に浮上してきた。
 泥の中から浮き出すように、フリックは目を覚ました。

 

 この広い空の下で



 目を覚ますと同時に、鋭い痛みがフリックを襲った。
 急激なそれに、フリックは呼吸すら奪われる。
「っっ・・・!」
 そうして、自分の状態を思い出す。
 自分は・・・。
「・・・ここは?」
 掠れた声だったが、自分の喉から声が出た事が驚きだった。
 俺は、生きているのか?
 死ぬつもりはなかったが、死を覚悟した。
 あの崩れ落ちるグレッグミンスターの皇城の中で。
 近衛兵を相手に、リアンを逃がすために剣戟を繰り広げた。
 ・・・そのはずだった。
 なのに、自分は今どこにいるのだろう。
 見慣れぬ天井。どこかの宿の一室だろうか。
 激痛を訴える身体も、手当てを受けた形跡がある。
 自分が置かれた状態がわからずに、とりあえず体を起こそうとしたその時。
「よう、やっと目覚めかい」
 聞きなれた声が鼓膜を叩いた。

 

 ほとんどドアを塞ぐような形で入ってきたのは、ビクトールだった。
 いつもと変わらない、のんきそうな表情。
「おま、え・・・つっっっっ!」
 咄嗟に動かそうとしたからか、身体が悲鳴をあげる。
 うずくまるフリックを見てビクトールが笑った。
「元気そうだな。でも重傷人なんだから、もう少し寝ておいた方がいいぜ。なにせ3日も意識を失っていたんだからな」
 そう言って視線でフリックを促す。 
 言われた通りにするのはなんとなく癪だったが、身体が苦痛を訴えるので大人しく横になる。
「あれから、どうなった?」
 痛みを堪えたフリックの声に、ビクトールの目元がふっと和む。
「あぁ、俺達は勝ったよ。解放軍は勝ったんだぜ」
 フリックが横たわるベッドの端に腰を下ろしながらビクトールはそう言った。
 その言葉の意味を理解した時、フリックは小さな溜め息をついた。
「・・・そうか」
 それ以上言葉を捜せなかった。
 ただ空虚な実感だけが、そこにあった。
 しばらく天井を睨んで、フリックはまた口を開いた。
「あいつは・・・?」
 誰を意味しているか分りきった言葉に、溜め息をついたのはビクトールだった。
 フリックから目を反らし、迷うように唇を動かした。
「あいつは・・・出て行ったよ」

 

 アイツハデテイッタヨ。
 実体のない言葉だけが、頭の中を渦巻いていく。
 意味が、わからなかった。
「どういう事だ?」
 かすれた声しか出せないフリックに、ビクトールは苦い顔を見せる。
「言葉の通りだよ。あいつは解放軍が勝利したあと、出て行ったらしい」
 フリックが跳ね起きる。
 自分でも訳のわからない衝動のまま、体が軋むほどの痛さすら忘れてベッドから立ち上がろうとした。
「お、おいっ」
 慌ててビクトールがフリックをベッドに押し戻す。
「怪我人は大人しく寝てるもんだぜ」
 ビクトールの軽い口調とは裏腹の視線が、ひどく居心地が悪い。
「なんであいつは出て行ったんだ・・・」
 ビクトールは何も言わない。
 フリックも、答えを求めない。
「俺は、この戦いが終わったらあいつに言わなきゃいけない事があったんだ。―――謝りたかったんだ・・・」
 全てが終わったら、まず謝ろうと思った。
 理不尽な憤りをぶつけた少年に。
 だが、言葉を伝えるべき相手は姿を消した・・・。
 伝えるべき相手を失った言葉が、フリックを苛む。
 唇をかみしめて、天井を睨むフリック。
 ひどく絶望的な気分だった。
 沈黙が、部屋に落ちた。

 

 沈黙を破ったのは、ビクトールだった。
 彼特有の大雑把な表情でこう言った。
「だったら、謝りに行けばいいじゃないか」
 それはあまりにも簡単な言葉で、フリックの思考が空転した。
「なんでそんなに悲観しちまうのかが俺にはわかんないな。謝りたいんだったら、謝りに行けばいいだろ」
「・・・あいつがいないのに、どうしろと言うんだ」
「何でだ?探し出せばいいじゃないか」
 フリックが、目を見開いた。
「あいつもお前も死んだ訳じゃない。だったら探し出せるはずだ。生きていれば、必ず。お前はそれを知っているはずじゃないのか?」
 呆れたような口調。
 その言葉に、失ったものを思い出す。
 そして・・・確かに、彼がこの世から消えたわけではないのだ。
「捜しに行けばいいか・・・。そのとおりだな」
「だろ?生きて、この空の下にいるんだ。会えねえわけがない。・・・だからさっさと傷を治せよ」
 乱暴な口調がまさにビクトールらしかった。
 フリックが小さく笑う。そこにはもう、絶望はなかった。
「お前からそんな言葉が聞けるとは思わなかったな」
「うるせえぞ、怪我人はおとなしくしてろっ」
 ビクトールの朗らかな声が、部屋に響いた。

 

 

 ■ あとがき
 なんか・・・当初の予定とは全然違う話になっちゃいました。
 漢臭いカッコいいビクトールさんが書けないよぉぉぉぉ〜(涙)。
 前の話の続き・・・だったはずなんですけど、続かなくなってしまいました。でも無理矢理タイトルで関連付けをしてます(笑)。あと最後のビクトールさんのセリフも。
 舞台設定とかは、細かく突っ込まないで下さい。管理人も気にしているんで(笑)。

 

戻ります

 

 

05/21/01 written by Youko.K.