コトバ
「あなたに言いたいことがあって・・・」
目の前の金髪の女性が、その綺麗な唇を開いた。
テレーズ・ワイズメル。グリンヒル市の市長になったばかりの、ともにハイランド軍と戦った仲間。
戦いが終わり、ビクトールと共にこのノースウィンドウの地を旅立とうとする前夜のことであった。
「どうしたんだ?」
フリックが立ち止まると、テレーズが少し歩を縮めた。
上背のあるフリックを見上げるように、その綺麗な瞳で覗き込んでくる。
「私、あなたにお礼が言いたくて」
「礼?」
「えぇ、あなたと軍主殿が、私を助けにグリンヒルに潜入してきてくれた時のことです」
「別に俺は礼を言われるようなことをした覚えはないが・・・?あの作戦自体シュウがたてたものだったし」
「いえ、そうじゃないんです。あの時あなたが言ってくれた、言葉です」
「言葉・・・?」
フリックはテレーズの言葉の意味を捉えかねて、首をかしげた。
テレーズがはにかんだように、微笑った。
「あの時、私は自分が死ぬ事でしか何もできないと思っていました。
グリンヒル市のために死ぬのなら、それも悪くないと思っていました。
けれども、あなたはそんな私に言ってくれました。何故、死に急ぐんだと。
その時、やっと気付いたんです。一つのもののために死ぬよりも、一つのもののために生きる方がずっと大切だと。
死んでしまっては何も出来ないということに。
生きているからこそ、今あなたのような仲間とも出会えたし、グリンヒルのために何かを出来るんです。
そのことを気付かせてくれたあなたに、お礼が言いたかった」
自分を見つめてくるテレーズに、フリックは瞳を和らげた。
「強くなったな・・・」
「そんなことはないですよ。・・・あなたが明日ここを発つと聞いたから、その前にどうしても言いたかったんです。
ありがとうございました」
その優しく、そして強い言葉は、どこか懐かしかった。
「そうか。・・・これからが大変だろうけど、頑張れよ。俺にはもう、こんなことを言うぐらいしか出来ないけど」
フリックがそういうと、テレーズは微笑んだ。
「えぇ、力の限りを尽くします」
迷いのない返事だった。
その気負いでも何でもない、ごく自然な言葉に、彼女ならやり遂げるだろうと思った。
テレーズが丁寧に頭を下げて、自分の部屋に帰っていく。
やっぱり女性は強いな。
かすかな胸の痛みを覚えながらテレーズの後姿を見送り、フリックはまた歩き出した。
あとがき