ラッキーブランチ

 

 それは、ある晴れた日。
 朝に弱い人間達もそろそろ寝床から抜け出して、ノースウインドウの古城が活気づきはじめる頃だった。

 

 日課である朝の修行を終えて、フッチはレストランへと足を踏み入れた。
 朝食には遅く昼食には早い時間のせいか、そこに人影はまばらである。
 軽くレストラン内を見わたしながらプレートを取るフッチ。
 だがそこに、見知った人物を見つけることは出来なかった。
「ちょっと早く来すぎたかな?」
 どことなく残念そうにつぶやくフッチ。
 自分の保護者たるハンフリーは、昨夜の深酒のせいか先程起きたばかりだった。しばらくは食事に来ないだろう。
 一緒に朝の修行をしていたサスケは、まだ道場に残っている。モンドに絞られているらしい。
 軍主は三日ほど前から城を留守にしているし、ルックはレストランで見かけたことすらない。
 最近よく一緒にいるメンバーを思い浮かべて苦笑する。
 一人での食事が苦手なわけではない。
 だが人と一緒にいる事に慣れてしまうと、なんとなく物足りない―――。
「ま、仕方ないよ」
 自分に言い聞かせるような小さな声。
 そのまま適当に2,3種類のおかずを選んで、目に付いた空席に座ろうとした時。
「あ、フッチ君だぁ」
 聞き覚えのある、甘い声がフッチの耳に届いた。
 見ると、レストランの入り口でミリーがフッチに向かって手を振っていた。

 

「おはよう、フッチ君」
 パタパタと軽い足音とともに駆け寄ってくるミリー。
「おはようございます、ミリーさん」
 もう昼近くだというのに、つられたように返事をするフッチ。
 返事に気をよくしたのか、にっこりと笑うミリー。
 そして手のつけられていないフッチのプレートに目を移す。
「あれ、フッチ君も今からご飯なの?だったらミリーも一緒に食べていい?」
 思ってもいなかった提案に、フッチの反応が遅れる。
「え・・・っと」
「だめ?」
 小さく首をかしげ、大きな瞳に不安そうな色を乗せてフッチを見つめる美少女。これで断れる男がいるだろうか(反語)。
 フッチが条件反射的に、大きく首を振る。
「そ、そんな事ないですよっ」
「ほんと?じゃぁ、私プレートを取ってくるから、ちょっと待っててね」
 飛び上がるように喜んでみせて、プレートを取りに走っていくミリー。
 その背中を笑って見送るフッチ。
 女の子と一緒に食事をするのは気恥ずかしかったが、それ以上に嬉しかった。

 

「フッチ君は、いつもこの時間にご飯を食べているの?」
 プレートを取って戻ってきたミリーとフッチは、二人で向かい合うようにして食事を摂りはじめる。
 いつもと同じ、たわいの無い会話。
 ミリーがしゃべってフッチが答えるというパターンが出来ていたが、それが楽しかった。
「いえ、いつもはもうちょっと遅くて、普通のお昼の時間に来るんですけどね。今日は朝の修行が早く終わったので、少し早めに来てみたんです。・・・ミリーさんはこの時間なんですか?」
「ううん。私ももうちょっと遅い時間。今日は本当はメグちゃんたちとお出かけの予定だったんだけど、朝ボナパルトがいなくなっちゃって。探してたらお出かけできなくなっちゃったし、お腹も空いてきたら早めに来てみたの。朝ご飯も食べてなかったし」
 その事を思い出したのか、さっき見つけたばかりというボナパルトを、こらっと小突く。
 きゅー、と小さくなってみせたボナパルトにフッチが笑う。
 和気あいあいと食事が進み、デザートに手をつけようとしたところで、ミリーが声をあげた。
「あれ、フッチ君はデザート食べないの?」
 今日のデザートはハイ・ヨー特製のアイスクリーム。それがフッチのプレートには乗っていなかった。
 それは最近「男の中の男になるため」といって甘い物を断っているサスケ(なぜそうなるのか理由は不明)に付き合って甘い物を控えていたせいで、無意識にデザートを取っていなかったようだ。
「フッチ君甘いもの嫌いなの?こんなにおいしいのに」
 自分の口にアイスクリームを運びながら、つぶやくミリー。
 べつに嫌いではないのだが、理由が理由だけに口に出すのが憚られる。
「えぇっと・・・嫌いなわけじゃないんですよ。と、取り忘れただけで」
 やましい事をした訳ではないが、何故かどもってしまうフッチ。
 そんなフッチと自分のアイスクリームを見比べるミリー。そして、ぱっと顔を輝かせた。
「はい、フッチ君」

 

 にっこりと笑ったミリーが、アイスクリームをすくったスプーンをフッチの唇近くに差し出す。
「え?」
「あーんして」
 さも当然、とばかりに微笑むミリー。
「ミ、ミ、ミ、ミリーさんっ!??」
 当然のごとく、パニックに陥るフッチ。
 だがフッチの動揺など、どこ吹く風のミリーである。
「だって、このアイスクリーム本当においしいんだよ。嫌いじゃないのに食べないなんて、もったいないよ。
だから、二人ではんぶんこづつしよう、ね?」
 そう言って、少しだけスプーンとフッチの距離を縮める。
 アイスクリームの冷たく、甘やかな匂いが流れてくる。
 あくまで無邪気なミリーの笑顔。
「・・・」
 そうして、フッチはあきらめの溜息をつく。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
 差し出されたスプーンを、ぱくりと口に含む。
 瞬間、口の中に広がる甘い味。
「ね、おいしいでしょ?」
 今度は自分の口にアイスクリームを運びながら、嬉しそうに尋ねてくるミリー。
 それに苦笑しつつ答えるフッチ。
 人影はまばらだったが、それでも皆無ではないレストラン。
 その中でこうやって二人でアイスクリームを食べるのは恥ずかしかったけれども。
 それでも、それが嬉しいという事に、フッチは気付いていた。

 

 

■ あとがき
フチミリリハビリ(になっていない)SS。
打ち込みながら何度、愉快度に笑いがこみ上げてきたことか。フチミリファンの方すみません〜〜。
それにしても、どうして私が書くフッチはすぐに根暗モードに突入したがるのか。もっとのーてんき話の予定だったんですけどね。

 

戻ります

 

 

05/28/02 written by Youko.K.