降り続く雨の先に待っているもの。


 虹のカナタに


「おー、やっと雨が上がった〜」
 ノースウインドウの同盟軍の本拠地、その展望台。
 古城を囲む城壁の中でもひときわ高いその上で、ウィングホードの少年が伸びをした。
 チャコである。
 雨雲の切れた青空を見上げ、嬉しそうに自分の翼を広げてみせる。
 ばさばさと小気味の良い羽音が、雨の後のしっとりとする空気を切り裂くように響く。
「やっぱり雨が降ると調子が狂うよな」
 なんか翼も重くなる気がするし、と一人呟く。
 デュナン湖付近では、この三日ほど雨が降っていた。
 初日こそ大雨だったが、その後は小ぶりの雨がしとしとと続いていた。
 大抵の人間やコボルとには、この程度の雨は問題ない。
 みんな常日頃と変わりなく、訓練に励んだり、大通りを走っていたりした。
 だが、翼を持つウィングホードにとっては、雨はあまり歓迎できるものではない。
 空気も翼も重くなり、良い事無しである。
 だからこの三日ぶりの青空は、より一層心を軽くする。
「よし、久しぶりに飛んでみるか」
 ばさっ。翼を力強く羽ばたかせる。
 空に舞い上がる事に軽い喜びを覚えながら、身構えたその時。
「チャコ君、見ーっけ」
 甘い声とともに、自分の飛びかかって来るものがあった。

 

「うわぁっ」
 上ずった声をあげて、チャコが体のバランスを崩す。
 今まさに飛び出そうとしたその体勢では持ちこたえる事が出来ず、勢いよく前に倒れてしまう。
「いっててて・・・」
「大丈夫?」
 あちこちすりむいて、うめくチャコ。
 そのチャコに気遣うように声をかけたのは、飛び掛ってきた張本人。
「お前っ、ミリーっ。一体どういうつもりだよっっ!?」
 この突拍子もない「攻撃」を仕掛けてきた人物をみとめ、チャコが大声をあげる。
 大声をあげられたミリーは、肩をすくめる。
「久しぶりにチャコ君を見かけると、なんか嬉しくってつい」
 最近あんまり会ってなかったでしょ?
 小さく舌を出して、自分の頭をこつんと小突くミリー。
 確かに最近は軍主や軍師に付き合って行動する事が多く、お互い会ってはいなかったが・・・。
 彼女の言動に、思わず溜息を漏らすチャコ。
「まったくお前はー」
「ごめんなさーい。痛かった?」
 ちょっとだけ困った表情で、チャコに笑いかけるミリー。
 もう一度チャコが溜息をつく。

 

「で、こんな所に何しにきたんだよ」
 服についたほこりをはたきながら、チャコが立ち上がる。
 自分は用がなければ、大抵この展望台で過ごす。
 だがミリーがここに来る事は珍しいのだ。
 あぁ、とミリーが腕に巻きつけた奇妙な生き物に視線を落とす。
「久しぶりに晴れたからね、ボナパルトに綺麗な空を見せてあげたかったの」
 そしていつもの様に、笑顔でボナパルトの目をつつく。
 ボナパルトが哀れな声で鳴く。
「綺麗な空?」
「そう。雨の後の空って、いつもより綺麗な気がしない?それに、ほらっ」
 笑って、ミリーは空を指差す。
 指先には、中天からやや西に傾いた位置で輝く太陽。
 そして、その周りに。
「あ、虹だ」
 それにはじめて気が付いたチャコが、声をあげる。
 太陽の周りには、淡く輝く円環の虹。
「ね、綺麗でしょ?大通りを歩いてたら見つけたの。嬉しくって、もっとお空に近いところで見たくなったの」
 虹を見つめた視線をそらさずに、ミリーが言う。

 

「よーしっ」
 突然、チャコが大声をあげた。
 背中にたたんでいた翼を、大きく広げる。
「どうしたの、チャコ君?」
 チャコの翼が巻き起こした風に、ミリーの髪が大きく揺れる。
 トレードマークの白い帽子を飛ばされないように押さえて、チャコの方に視線を向ける。
 視線の先には、いたずらを思いついた時のような笑顔を浮かべるチャコがいた。
「オレ、もっと近くであの虹を見てくるぜ」
 そして、空へ羽ばたくために身構える。
「あ、ずるーい。チャコ君。ミリーも一緒に行くっっ」
 叫んで、ミリーがチャコの背中に飛びついてくる。
 だが今度はなんとなく予想がついたので、よろめくだけで済んだ。
「お前なー、いきなり飛びつくのやめろよっ。それに重いぞ」
「ひっどーい。ミリー重くないもん」
 ぷう、と頬を膨らますミリー。幼い動作だが、何故かこの少女にはよく似合う。
 ふっと笑って、チャコが前方を、その先に見える虹を見据える。
「よし、いくぞー。しっかり掴まってろよ!」
「うんっ」
 元気の良い返事とともに、肩に乗った手に力が入る。
 ばさばさっ。
 ひときわ大きな羽音が、展望台の上に響いた。

 

 

■ あとがき
一年ほど暖めていたネタです(要約:書くのをサボっていた)。
管理人のマイ設定、14歳’sはみんな仲がよいという事で。
この二人はカップリングでもコンビでも、どちらでも可ですvお子様ラブ。

 

戻ります

 

 

6/18/02 written by Youko.K.