大好きだから、世界で一番大好きだから。
 いつもとっておきの笑顔を見ていてもらいたい。

 

笑顔を、君に

 

 ヒックスが成人の儀式をはじめて三年近く。
 それはぼくとヒックスの二人だけの旅が、三年近くになる事を意味している。
 でもいまだにヒックスを起こす時は、緊張する。
 ヒックスよりもずっとずっと早くに起きて。
 念入りに顔を洗って、髪の毛を梳いて。
 一番綺麗なぼくを、一番最初に見て欲しいから。
 一日の始まりを、ぼくの笑顔で迎えて欲しいから。

 

 準備万端、笑顔も最高。
 近くの川原で用意をして、ヒックスの眠るところに急ぐ。
 昨日は野宿だった。
 ヒックスはそれをすまなそうにするけど、ぼくは二人っきりでいられるから宿に泊まるよりも好き。
 ちょっと体が痛いときもあるけど、ヒックスと一緒だからぜんぜん平気。
 野営地に近づくと、ぼくは慎重に歩き出す。
 物音なんか立てたら、さすがに戦士だけあってヒックスは目を覚ます。
 それはそれで嬉しいんだけど、やっぱり起きて一番最初に目に入るのはぼくの笑顔じゃないとダメ。
 枯れ枝を踏みつけないように、石を蹴飛ばさないように、ぼくはそろりと歩く。

 

 あとほんの少しでヒックスの姿が見える距離まで来て、ぼくは足を止めた。
 ヒックスの声が聞こえたから。
 でもすぐにそれが意味の無いものだと気がつく。
 ヒックスったら、寝言を言ってる。
 くすぐったい気持ちで、ぼくは耳をすました。
「・・・ぅうん、テンガアール・・・」
 その言葉にどきりとする。
 夢の中でまでぼくの事を見ていてくれるのが、ひどく嬉しかった。
 こみ上げてくる笑いを噛み殺して、ますます慎重にヒックスに近づく。
 手を伸ばせば届く距離まで来て、ヒックスはまた寝言を言った。
「うぅん、テンガ・・・やっぱり僕は戦士になれないよ・・・」

 ヒックスの馬鹿っっ!!!

 気がついたらぼくは、火炎弾をヒックスに投げていた。
 突然の事にヒックスは起きることなく、夢とは違った所へ意識を飛ばしていた。

 

 どうして君はそんなこと言うのよっ。
 夢の中でまで、どうしてそんなに弱気なのよっ。
 少しはぼくの笑顔に応えてよっっ。
 ぷすぷすと煙を上げるヒックスの横で、ぼくはがりがりと朝食用のパンをかじっていた。
 せっかくとっておきの笑顔を用意したのに。
 せっかく美味しい朝食を用意していたのに。
 あーあ、今日はどちらも無駄になっちゃったよ。
 はやくぼくの笑顔を受け止められる、一人前の戦士になってよね、ヒックス。

 

 

 ■ あとがき
 寿々維ちゃんへの、オツカレサン創作(笑)。お疲れさんになっていない所がポイント。
 うちのテンガはこんな子なのよ。すまん。

 

戻ります

 

 

04/03/01 written by Youko.K.