「どこにいるんだー!!?」
少年の叫び声が、青い空の下でとけこんでいく。
その悲痛な叫びに答えるように、からりと風に吹かれた瓦礫が音を立てた。
この広い空の下で
瓦礫と化した皇城。
華やかなグレッグミンスターの面影は、今はどこにも残っていなかった。
当然だ。
僕が壊したのだから。
父との…家族との思い出が詰まったこの都を、僕が壊したのだから。
自分の信じたものを確かにするため。
全てをなくした。
でも後悔するつもりはない。
自分のしたことを否定するつもりもない。
でも…。
でも…!
達成感が入り込む隙間がないほどに、心が苦しい。
こんなことになるために、この道を歩んだんじゃないのに。
こんな思いを二度としないために、この道を歩いてきたのに!
だから、重くのしかかってくる不安と対峙しながら、僕は叫び続けていた。
「ビクトール!!フリックー!!どこにいるんだー!?」
崩れ落ちる皇城から僕を逃すために戦っていた二人は、結局仮の司令部として張られたテントに戻ってこなかった。
その事実が僕を戦慄させる。
行け、と言われて、僕はただ前だけを見て走った。
残りたかった。最後まで共に戦いたかった。
けれども二人のあんな表情を見せられたら、行くしか出来なかった。
あの二人だからこそ、必ず帰ってくると信じてもいられた。
そうして仲間たちのもとへと戻った僕の背後で、皇城は崩れ落ちていった。
「・・・うぅ・・・」
消えそうな呻き声が瓦礫の中から漏れてきて、僕ははっとした。
誰かに知らせることも考えつかずに、不安定な足場を駆け抜ける。
声が聞こえたその地点には、確かに人の気配がした。
胸を焦がすようなもどかしさを感じながら、僕は必死にそこの瓦礫を取り除いた。
手袋はもう、ほとんど布と化してその意義を失っている。
破れた部分からのぞく指先には血が滲んでいたが、そんな事に構ってはいられなかった。
何度も何度も瓦礫をはらい、そこから人が見えたとき僕はあからさまに落胆してしまった。
二人ではなかったから・・・。
僕は唇をかんで、大声で人を呼んだ。
この人を瓦礫の中から助け出すために。
目の前で男が助け出されるのを確認して、僕はまた瓦礫の海を歩こうとする。
そんな僕を、止める手があった。
「もう休んでください、坊ちゃん」
後ろから羽交い絞めにするように僕を止めるその手は、とても柔らかい。
声はいつもよりも数段低かったが、それでも間違えようがない女の声。・・・クレオだった。
「放してくれ、クレオ。僕は二人を探さなきゃいけないんだ」
彼女の手の中を抜け出そうと身じろぎしたが、クレオの手は揺るがなかった。
「駄目です、少しは休んでください。このままでは坊ちゃんの方が壊れてしまいます」
「僕はまだ大丈夫なんだ。紋章だってある。そう簡単に壊れたりしないっ。でも二人は違うんだ!早くこの中から助け出さないと!」
声の限りに叫ぶと、めまいがした。
クレオは少しだけその手に力をこめて、揺れる僕の体を支えてくれる。
「ほら・・・少しは休まないと。身体は正直なんですよ」
「でも・・・」
なおも瓦礫に向かおうとする僕の耳元でクレオは囁いた。
「あの二人なら、大丈夫ですよ」
言葉の意味が飲み込めなかった。
硬直したように動かない僕の体から、クレオはその手を放した。
前に回って、視線を僕に合わせる。
いつも僕を支えてくれた笑顔が、瞳に痛かった。
「あの二人なら大丈夫ですよ、坊ちゃん」
「どうして・・・そんな事が、言えるんだ・・・?」
口の中がからからに乾いていて、上手く言葉が出なかった。
だって、とクレオはいつものように笑う。
「行方不明者の探索がはじまってから、かなりの時間が経ちます。最後にあの二人がいたと思われる地点を重点的に探しているのは、坊ちゃんもご存じでしょう?それでもあの二人が見つからないという事は、それは二人が無事に逃げ出せたということを意味します」
耳に染み込んでくるクレオの声。
それでも、僕はゆるゆると首を振った。
「なら、何故二人は帰って来ないんだ?」
「きっと追っ手がかかっていて、反対方向に逃げたのでしょう。でも帝国が瓦解したのだから、追っ手ももう無い筈。あの傷ですから、今ごろはどこかで養生しているのでしょう」
皇帝を前にした戦いでは、クレオも共にいた。
クレオもあの二人が負った傷の深さは知ってるはずだった。
「本当・・・に?」
「確証はありませんけれども、女の勘ですよ」
そう言い切ったクレオの瞳に、慰めの色はなかった。
僕は一つ、息を吐く。
「クレオの勘、外れた事なかったな」
「そうですよ」
「僕もクレオの勘、信じるよ」
そう言いながら、僕は体の力が抜けるのを感じた。
ずるずるとクレオの縋るようにして、瓦礫の上に座り込んでしまった。
立ち上がろうとしたけど、膝に力が入らなかった。
それを気遣ってか、クレオが僕の隣に座り込んだ。
なんだかそれが妙に恥かしくて、僕は空に視線を移した。
晴れわたった空。
先ほどまであんなに無情に見えた青空が、今は優しく見えた。
「帰ってくるかな、あの二人」
なんとなく言ってみただけだったけど、その答えは分っていた。
隣のクレオからも、苦笑する気配が伝わってくる。
「それはどうなんでしょうね。もともと二人とも一箇所に定住するような気質じゃありませんから」
確かに。
フリックは「成人の儀式」の旅を続けている最中。
ビクトールに至っては、根っからの風来坊だ。
口元が、自然とここ数日忘れていた形になる。
「いつか、会えるかな?」
「生きていれば、必ず。この広い空の下に必ずいるんですから」
迷いのないクレオの言葉が、僕の内側に満ちてくる。
「そう、だね」
なら、探しに行こう。
この空の下にいるのだから、いつか必ず会えるはず。
決意を込めて、空を見つめた。
希望があるから、もう後ろを振り返らずに進めるはずだ。
「ありがとう、クレオ」
隣で、優しく笑う気配がした。
■ あとがき
あとがきと書いて、言い訳と読んでください。
もともとこれは人サマにさしあげる予定だったんですけど、リクとも管理人の意図とも大幅に外れたものになってしまいました。
坊ちゃんだけの話だったんですけど、どーにも話が進まなくてかなり苦しみました。
それでクレオさんに来てもらったんですけど、何故クレオさんかというと管理人の趣味です(笑)。
こんなのでごめんね、寿々維ちゃん。
02/26/01 written by Youko.K.