王と麒麟の関係「ねぇねぇ陽子、本当にいいの?」 傍らに立った鈴が心細げに陽子に尋ねる。 陽子は大丈夫だ、と軽く笑う。 「でも陽子。台輔に気付かれたら大変よ?」 祥瓊も鈴と同じような表情で、陽子に荷物を渡す。 ―――3人の少女はそれぞれ旅装束に身を包んでいた。 太陽がうっすらと東の空を染めはじめた頃、三人の娘は騎獣の乗り入れをするための扉の前に立っていた。 凌雲山の中腹とはいえ地上ははるかに遠く、切り立った崖を呈しているそこに吹き付ける風は激しい。 「大丈夫だって。書置きもしておいたし、そんなに長く留守にするつもりもない。第一景麒に気づかれたところで私が」 「私が、なんですか。主上?」 陽子が心配顔の二人の友人を励ますように笑ったその時。 背後で、吹き付けてくる風よりも冷たい声がしたのだった。 ははは、と乾いた笑を漏らしたのは陽子だった。 先ほどまで会った景麒を言いくるめる自信が、蜃気楼のようにかすんでいく。 恐るべきは条件反射。 「景麒、どうしたんだ。朝早くにこんな場所で」 なるべく景麒と視線を合わせずに陽子が口を開く。 「それはこちらが言うべき事です。主上こそこんな時間、こんな場所で何をなさっているのです」 うっ、とつまる陽子に景麒はお得意の溜め息をついてみせた。 王が景麒の溜め息が苦手と知っていての、行動である。 陽子は笑顔のままであるが、それは顔が引きつって元に戻らないだけなのを祥瓊は知っていた。 「いや、その・・・」 歯切れの悪い王に、景麒はさらに溜め息をついてみせる。 陽子の顔の筋肉がわずかに震える。 「下界を視察なさるのは良い事ですが、各国食べ歩きツアーというのは感心いたしません」 景麒の言葉に、三人の娘ははっと息をのんだ。 旅する事はもちろん、旅の目的など誰にも教えてなかったのに・・・。 「景麒、何故・・・?」 「主上たちの会話は全て聞かせていただいています。使令達が金波宮のいたるところで目を光らせていますから、私にわからないことなどないのです」 どこか誇らしげな景麒の言葉。それを語る紫の瞳は、かなりイってしまっている。 「お前、それはプライバシーの侵害だぞ」 「何をおっしゃいます。主上の事を知るのは、麒麟の崇高な務めです」 陽子のツッコミにしれっと答える景麒。 ストーカー。 間違いなく三人は同じ言葉を思い浮かべていた。 「だ、だからな・・・」 「ダメです」 それでも何とか言い返そうとした陽子の言葉を、景麒があっさりと切り捨てる。 「下界を知ることは大切な事です。他国の実情を知ることも必要かもしれません。けれどもあなたは慶国の王なのです。他国を視察なされる前に、まず自国を治めなければならないのです」 全くの正論である。 三人の娘たちは互いの顔を見渡して、そして頷きあう。 今回は仕方ない、とその目で語り合ったその時。 景麒が思いもよらぬことを口にした。 「ただし、私も連れて行ってくださるのなら話は別ですが」 「・・・は?」 「だから、私も行きたいと申しているのです。そうすれば私も主上たちの事は胸の内に秘めておきます。悪くない話でしょう」 どうだ、と言わんばかりに胸を張る景麒。 その姿は延麒のような子供や、戴麒のような少年がしてこそ可愛げがあるという事に景麒は気付いていなかった。 そして、それが決定打となる。 ぶちり。 何かが切れるような音が、鈴と祥瓊の耳には聞こえた。 「そうか」 そう呟いた景王は笑っていた。 ただしそのこめかみに血管が浮いているのを鈴は確かに見た。 「ならば私も黙っておいてやるから・・・お前だけで行ってこいっ!!」 そうのたまって・・・。 ドカッ。陽子は崖っぷちに立つ景麒を蹴り落とした。その見事な蹴りっぷりに、景麒はなす術もなく落下していく。 景麒の哀れな声があたり一面にこだましたが、それもすぐに遠のいていった。 それだけその場所と地上は遠いのだ。 「ちょ、ちょっと陽子、いいの!?台輔が死んじゃったら困るのはあなたよ?」 鈴が慌てたようにそう言う。 あくまで心配するのは陽子だけのようだったが。 「まぁ、大丈夫なんじゃないの?仮にも麒麟なんだから、そう簡単には死なないでしょ」 対照的にのんきな声を出したのは、元公主である祥瓊。 麒麟の事をよく知っているはずの彼女の言葉に、鈴はそうかと納得してそれきり心配を止めた。 陽子が苦々しく呟く。 「全く、なんだってあんなのが私の半身なんだろう。私は今日ほどあれが情けなかった事は無い。延王が麒麟の事を馬と鹿みたいな生き物と称した気持ちがよく分るぞ」 そして三人はそろって溜め息をついた。 「ほんっとに馬鹿なんだから」 それから暫くの間、金波宮内で景台輔の姿を見たものはいなかったとか。
■ あとがき これ、ギャグになりますか? キャラがかなり壊れまくっててすみません。とくに景麒は・・・哀れ。 てふてふ様、意味不明&ものすごく遅くなってごめんなさいです〜。 |