背広
疲労
黒
くそ、居心地悪い。
そして、目の前のにいちゃんの目ツキ悪い。
オレに向けての眼差しですか?
違いました。
お前だよ、おやじ、吊革つかんでぶーらぶら。
今宵はハナキン。この時間の電車にて、ゆとりの独り占めは許されません。
なんだよ、今度はこっちに向かってぶーらぶら。
マナーが悪い大人は嫌いだ。こういう奴に限って、「最近の若いやつらは…」とか言っ
ちゃうんだよ。てめーの体たらくを棚にあげて。
あー、うぜえ。おまえ、嫌いだ。
しかし、
今日、自分は「反抗的な発言は控え」なければならないことになっている。
自分が広い心をもつだけで、全てが丸くおさまってるツモリになれるから、結構気に
入ってたんだよね。
よって、我慢。
そして同情ライク人類皆兄弟。
お疲れさま。
明日があるさ。
昼間のパパはちょっと違う。
どうだい、おやじ?
(ぶーらぶら)
それで良いです。
( z z z …)
しかし、
それで良くないのは、例のにいちゃん。
「おい、」
( ……… )
「まわりが迷惑してんだよ」
( ……… )
んー、確かにそうだ、おれはとても迷惑だった。
やりとりを目の前にして、考えた。
「まわり」ったって、みんな背広。他人のことなど無関心の不感症、非干渉。迷惑?そ
れより面倒の方が嫌いです、ってか。
迷惑な素振りを見せたのは、明らかにおれとお兄ちゃんだけ。
恐らく、いや、間違いなく、このお兄ちゃんは建て前として「まわり」と言っただけ
だ。本音は「おれは迷惑してんだ」なんだな。
んー、おれが抱いた同情は…
「まわりが迷惑してんだよ」
(ぶらぶらしながら目を覚ます)
「おい、」
ここで案の定、おやじの逆ギレが始まった。
なんであんたが切れんだよ、自分が哀れか?自分だけが苦労してる人間か?ふざけろ、
同情なんかくそったれだ。おい、自分が迷惑かけてんの分かっただろ、しっかり立てよ。
何も言えなくなったおやじは、それでもなお、吊革を両手でしっかり握り続け、体を斜
めにしたままで、ぶらぶらをやめた。
自分はしっかり立ってたとでも言いたいのか。みえみえだよ。
同情じゃ世界は救えない。同情は人を不幸にする。同情は慣れ合いと偽善だ。
中1の頃、エイズについて作文書かされた時に、どうせみんなかわいそうだって書くん
だろうなって思って、そんなこと書いたら、三者面談で怒られた。机の上には、赤ペンで
訂正された原稿用紙。
自分でも極端な話だと思うし、人によっては、抵抗あるだろうな、当然。でも、赤ペン
で訂正されるべきは、実際どっちなんだよ。やっぱりオレなのか?確かにちょっと言いす
ぎた節はあったけどさ。オレか。
でも、情とか優しさとかって、自己満足ではなかろうか。
極論か?
それならなんで、ボランティアが弁論文の題材になる?24時間テレビの出演者が「あり
がとうございました」なんていう?
いや、極論だけどさ、それを、優しさとかそういう絶対正義みたいな、そういうのを盾
にしてる奴等が憎い。ずるい。
平凡な日常にかくされてるのは贅沢だけじゃなかった。
だいたい“I'M AGAINST IT”なんてTシャツ着てる奴に「反抗的な発言は控えましょ
う」だなんて、占いザルもいい度胸だ。やっぱり占いなんか気にするもんじゃない。
疲れてんのかな。
狭い。