『B-B-B』






電話は
否応無しにバトンタッチされてしまった。



「あの・・私、
田中君のこと好きです。」




嫌じゃない。
決して嫌じゃないけど、
僕には高橋がいるんだ。

かと言って、
自分の意志である告白すら
出来ないでいる僕に、

告白を断る言葉が
すぐに言える訳はない。




お決まりのしどろもどろになっていると、
窓の外にハトが舞い下りた。

見ると足に
何やら手紙が結んである。

いわゆる伝書バトだ。


今時、伝書バトなんて
どんな用件なんだろう。

受話器を頬で挟み、手紙を開く。



『田中君、愛してます。 太田』



またもや告白である。

悩む暇も与えずに
今度は軒に矢が飛んできてブスリ。

もちろん手紙が結んである。



『大好きです。 大川』



射手を捜そうと
窓から身を乗り出すと、

町外れに
ノロシが上がっている。



解読すると、

『I Love 田中 by 木下』




その向こうにはアドバルーンで、

その上空には飛行船で、

背景には仕掛け花火が、

ビルの窓文字で、

耳にはモールス信号が、

玄関には
郵便局と電報局と密使と忍者と飛脚と学者犬を使っての


僕への求愛ラッシュが始まっている。






僕は恐ろしくなって逃げ出した。

しかし、
外にはざっと数えても5、6千人の女の子が
手紙を片手に列を成していた。



「田中君が出てきたわよー!」



その中の1人が声を上げたからさあ大変。

群集は目ざとく出没していた
『田中焼き』や『田中棒』の出店をなぎ倒し、

軍隊アリのように僕に襲い掛かる。






捕まったら殺される、

捕まったら殺される、

捕まったら殺されるっ!!






必死で逃げる僕の前から、

田中だんじりが猛スピードでやってくる。



路地に逃げ込み息を整えていると、

目の前にキーがついたまま止めてある
コンボイを見つけた。


もう無免許だのなんのと
言っている場合ではない。


僕はコンボイに飛び乗ると、
闇雲に走り出した。




東名高速を
時速200キロで飛ばすコンボイ。


しかし、
その横をF1カーが抜いていく。

ボディには
『田中君好きです 菊池』
というステッカーで埋め尽くされている。


どうやらスポンサーは
菊池さんのようだ。




















・・・気が付くと僕は、
巡洋艦の中に保護されていた。




どうやら国が
僕を保護してくれたらしい。




きっとどこかの政治家の
票集めに利用されるのだろうが、
とにかく一息はついた。





テレビをつけると

東京ドームで、

『3年間ずっと片想いしてました川村』ファイターズ

千葉『私のこと好きだって言って下さい』マリーンズ

の中継が、
全て個人個人のスポンサーの提供で
放送されていて

すぐにスイッチを切った。











「僕、意外にモテてたんだな。」


太平洋の真ん中で、
初めて僕は自信を持った。






そしてこんな事態だからこそ
決心した。



やっぱり、
愛される事より愛する事が大事だ。



佐藤さんに電話を掛けよう。








トゥルルルル・・・

ガチャッ



「もしもし、佐藤です。」



山田さんは
既に別の手段に切り替えているらしく、
すぐに佐藤さんに繋がった。




僕はさっきまでの僕じゃない。

もう、しどろもどろになんてならない。




みんなありがとう。



僕は3年間溜めに溜めた言葉を
とうとう口にした。



「佐藤さん、田中です。

僕、佐藤さんのこと
ずっとずっと好きでした。

もしよかったら、
僕と付き合って下さい。」



「気持ち悪いからヤダ。」



電話は、切れた。










愛する事より、

愛される事の方が難しい・・・。







そう思ったのもつかの間、
巡洋艦は無数のUボートに包囲されていた。




船首には
『好きです田中君。 高橋』の旗が、

勇ましくなびいていた。


























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